2018.02/22(Thu)

過去からの誘い(いざない)


「ルシィ? 相手はそう名乗ったんですか」
「ギャラクターの秘密や本部の在り処を教えると言ってきたそうだ」南部の静かな眼がジョーを見た。「ちょうどその時私は不在だったので直接〝ルシィ〝 と名乗る相手とは話していないのだが」
 ルシィ・・・その名には覚えがある。

 もう5年も前だろうか。エスペラントを習い・・しかし、突然自分の前から消えてしまった女。
 その後の調べで彼女はある組織に入ったと聞いた。それがギャラクターだったのか。

「本当にあのルシィでしょうか」
 5年前の出来事のあと、ジョーは一時的に彼女に関する記憶を失ってしまった。が、今はその大部分を取り戻している。
「声は記録してある。が、それだけではわからない」
 珍しい名前ではない。しかしジョーは彼女に違いないと思った。確証も何もない。単なるカンだが。
「聞いてみるかい?」
 南部がデスクの上をスーと撫でた。と、緑色の光が点き、彼の後ろにある大型スクリーンにスピーカーの偶像が現れた。
『ISO の皆さん、私はあなた達が戦っているギャラクターの幹部・・・いえ、元幹部です』
(ルシィ!)
 それはジョーが覚えているルシィの声ではなかった。だが彼は確証した。この人物は〝ルシィ〝 だと。
 声の主は一方的に用件を言い、すぐに通信は切れた。
「間違いない。彼女はルシィです。サーキット場から突然いなくなった、あの─」
「私には違う人物の声に聞こえるが」
「・・・おれにもそう聞こえます。だけど彼女はルシィだ」
 声も言い方も違うのになぜかその想いは違えない。
「で、どうするんです、博士」
「国連もISO も悪の組織との取引などには応じない。しかし─」
 ルシィの話では、彼女はギャラクターを脱退したという。そしてその時に知り得たギャラクターの情報・・・特に本部の在り処を教えてもいいと言ってきた。大金と引き換えに。
 取引には応じないが、ギャラクターの本部を突き止めるのは彼らの最大の目的だ。国連もISO もルシィを情報提供者として扱うことに決めた。
「苦肉の策ってやつですね」
「その使い方は正しい」ちょっと上目使いに、自分に目を向けるジョーに南部は苦笑した。「もっとも彼女の言っている事が正しかったらの話だが」
「でもなぜおれを呼んだんですか? まさかルシィがおれを指名して─」
「いや、彼女は昔の教え子がISO で働いているなんて知らないだろう。ルシィはラリーに参加してその後に情報を渡すと言ってきたのだ。受取人は君が適任だと思う」
「ラリー・・・」
 ああ、そうだ。彼女も車が好きだったっけ。今も変わらないんだな。
「わかりました、博士」

 グラーク・レーシングクラブはもうとうにない。レース界からいつのまにか撤退していた。
 ルシィの友人がいて、何度かレースやメカニックを見せてもらった。少年だったジョーには望んでもなかなか得られない体験だった。
 もっともその友人はギャラクターに絡んでいて、とんでもないおまけも付いて来たが。
(いや、あの時、すでにルシィもギャラクターへの情報提供者だった)
 トレーラーハウスの横に車を付けジョーは自分の根城を見上げた。
 この何十倍もある大型のトランスポータが並んでいたサーキット。エキゾーストノートを巻き散らし疾走するマシン。それらに目を輝かせて見入る自分。
 なぜかいい思い出ばかりが浮かんでくる。
(だが、今度は)
 ルシィが本当にギャラクターを脱退したのかはわからないが、もう講師と生徒ではない。少年でも学生でも・・・ましてやギャラクターという存在を知らなかった頃の・・・大人の保護の下、ただ年月を送っていた頃の子どもではない。
 情報を提供する側と受ける側に分かれて、もし必要ならおれはルシィを・・・。

 トレーラーハウスのドアノブに手を掛けたまま止まっていたジョーの手が乱暴に引かれた。
 ガチャッと大きな音と共にドアが開いた。
 誰もいないトレーラーハウスは暗く空気が冷たい。ふと、夕食を摂っていない事に気がついた。冷蔵庫にはミネラルウォータしかない。
 夕食は諦め、ベッドに転がった。
 3日後に始まるラリーのために体調を整えなければ。だが寝なければならないと思うほど寝付けない。
 1時間ほどうつらうつらしたがやはり寝られないので、ジョーはその場で服を脱ぎシャワーを浴びた。
 今夜は暑くないのになぜか汗ばんだ体を温めの湯が真っ直ぐに、所々緩やかなカーブを描いて流れ落ちる。
 健やリュウ以外の同年代の少年の裸体を見た事はないが、無駄な肉もなく鍛えられた戦うための身体(からだ)だと思う。
 だがメンタルはまだ10代のそれだ。
 もちろんジョーは意識していない。自分のすべてが強く、どんな事にも立ち向かって行かれると思っている。
 なのにこの苛立ちはなんだ?
〝ルシィ〝 に会う。これだけで体が、意識が熱くなり落ち着かない。
(もしも〝ルシィ〝 が、あの時のルシィだとしたら・・・)

 ─ 私はね、ジョー。もっと大きな仕事をしたいの ─  

 シャワーのコックを思いっきり捻ってジョーは熱い湯を体に叩きつけた。

 ルシィからの2回目の連絡があったのはその翌日だった。
 今度は南部もジョーも同席している。南部が情報提供を受ける事を正式に告げた。
『賢明な判断だわ』
 小さなモニタに映るルシィが微笑む。
「だが1つ条件がある」南部が言った。「ISOの職員を1人付けたい。彼の名はジョー。カー・ラリーの経験もあるので適任だと思う」
『・・・ジョー?』ジョーの映像も向こうに届いているはずだ。『まさか・・あのジョー?』
 ジョーが無言で頷く。
「これから会おう、ルシィ。コースをレッキ(下見走行)してペースノートを作らなければ─」
 ルシィからラリーの参加を持ちかけてきたのだから当然ドライバーはルシィ。ジョーはコ・ドライバーに専念するつもりだった。
 しかし事前に会えれば、その時に本部の在り処を聞き出せるかもしれない。が、
『それには及ばないわ。ノートはこちらで用意する。もちろん車もね。当日でも大丈夫でしょ、ジョーなら』
「しかし・・・」
『レースが始まるまで、なるべく人前に出たくないの。リスクは回避したいわ』
 ルシィはいわばギャラクターの裏切り者だ。大勢の目に晒される時間は少ない方がいい。
「・・・わかった」
 渋々と頷くジョー。ルシィは口元を歪め通信を切った。
「ぶっつけ本番か。なに考えているんだ」
「今は彼女の言うとおりにするしかない」
 南部は別室に待機している健達を呼ぶために通信機を手にした。




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2017.12/25(Mon)

未確認飛行物体


「上空1万メートル到達」
『よし。こちらの指示があるまで待機せよ』  
「はい、博士」
 ゴッドフェニックスのコクピットが一瞬和む。が、
「ねえ、博士。本当に合っているの? その情報」いつになく不機嫌な口調でジンペイが訊いた。「こんな夜に未確認飛行物体で出動だなんて・・・国連軍の見間違いじゃないの?」
『いや、私もレーダーを見た。完全に補足していたのだが・・・』

 アメリス国上空を飛んでいた国連軍の戦闘機のレーダーに映ったのは単機で飛ぶ小さな物体だった。
 問いかけに応答はなく、所属国の識別コードの発信も無い。戦闘機でも民間の航空機でもこんな事はあり得ないのだ。

「おまけに時速3キロで飛んでいるんでしょ。気球かパラグライダーとかじゃあ─ 」
『高度1万メートルをかね? 』
 飛べない事はないが凍る。
「どこかの国の小型偵察機じゃないんですか」
 大型レーダーの前に座るジョーが言った。それなら識別コードが無くても不思議ではないが。
 だが博士の話では、時速3キロで飛ぶその物体は上空1万メートルの地点から地表に向かって急降下や急上昇を繰り返しているという。そのたびに少しづつだが機体が小さくなっているようだ。
「爆弾でも投下してるんじゃねーの」
 物騒な事を言うジョーに目をやり、が、何も言わず博士が唸る。どうやら博士にもよくわからないようだ。
「国連軍だけじゃない。アメリス国のレーダーにも捕捉された」
 健が目の前のメインスクリーンに映る博士から目を離し、後ろのジンペイを見る。
「視認もしているんだ。皆が皆見間違いとは思えない。未確認飛行物体であろうと偵察機であろうと確認しなくては」
「あー、もうどっちでもいいけどー。早く現れてくれんかのお。おら、ご馳走をひと口も食っとらんワ」

 ロースターから出したばかりの大きな骨付きチキンのちょっと焦げた匂い。
 サーモンのマリネにバジルの香り高いローストビーフ。
 ミネストローネに雪だるまの形のケーキは生クリームたっぷりだ。    

 いつもの多国籍料理の数々。それらを思い出したのかリュウの口が動く。
「おいらだってケーキのクリームをひと掬い舐めただけだよ」
「まあ、ジンペイ。あれはあんただったのね」
 とんだやぶ蛇にジンペイが首をすくめる。
「おっ」突然点滅を始めたレーダーにジョーが声を上げた。「レーダーに映る未確認飛行物体捕捉! 10時の方向だ」
「なんじゃ、そりゃ~ 」 
 軽口をたたくリュウだがその腕は確かだ。博士の指示の下、すぐさま10時の方向に機首を向ける。
「急速接近! あ・・・あれ? 」
「どうした、ジョー」
「消えたぜ、本当に未確認になっちまった」
「未確認を確認しようとして未確認になったんじゃな」
 ちょっと違う。
「下よ! 急降下したんだわ!」
「ゴッドフェニックスのレーダから外れた?」
 信じられないというようにジョーがジュンを見る。と、
「急加速で上昇してくるわ! ゴッドフェニックスの下」
「これ本当に時速3キロの飛行物体なの~、おねえちゃん」
 確かに大型レーダーの下部から点滅が上がってくる。とても時速3キロには見えないが。
 と、機体にぶつかる寸前でクッと横に逸れ、物体はゴッドフェニックスの目前に現れた。
「あ」
「み、未確認飛行物体が・・」 
 こんなに接近していれば、もはや未確認ではなく充分確認できる。
 どう見てもあれは─ 。
「サ、サンタクロース?」
 ゴッドフェニックスのメインスクリーンに映るのは、角の生えた動物が引く橇に乗った太った髭の男。その後ろには大きく膨らんだ白い袋が。
「サンタクロースだ!」ジンペイが立ち上がる。「サンタだよね、おねえちゃん!」
「え・・ええ・・」
 自分の目に映るそれが信じられない。
 ジュンばかりではなく健もジョーもリュウもポカンとただただ見つめるだけだ。
『ゴッドフェニックス応答せよ。健! どうした健!』
 サンタクロースの映像に南部の声が重なる。
「サンタって博士だったの?」
 トンチンカンなことを呟くジンペイだが、他の4人も一瞬そう思ってしまった。
「は、はい。サンタがプレゼントを積んだ橇で・・・我々に手を振って・・・。あ、こっちに向かって─ 」
『何を言っているんだ、健。大丈夫か』
「はい・・ちゃんと受け取ります、プレゼント」

 橇がジグザグに飛ぶ。まるで空間にツリーを描くように。

 目の前に映るカラフルな箱。ちょうど5箱ある。
 小さい箱、大きな箱。
 自分のはどれだろう。何が入っているのだろう。

 平和と自由が入っているのはどれ?

 その夜、無事に三日月基地に帰還したゴッドフェニックスの映像記録用テープには途中から何も映ってはいなかった。



                        おわり





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2017.09/29(Fri)

亡郷


「じゃあな、ジョージ。ゆっくり休んでくれ」

 小脇に何冊かの本を挟みアランは出て行った。
 ジョーはベッドの上で膝を抱えて丸くなった。

 写真の娘がアランのフィアンセだって? 確か以前にサーキットで会った娘だ。
 あの後おれは健の指示で現場に赴き、逃げてくるデブルスターを1人羽根手裏剣で仕留めた。
 まさかあの娘か?
 いや、その時とは限らない。デブルスターとは何度も遣り合っているのだ。
 しかしあの娘はサーキットには来なかった。

 ジョーは両腕に力を入れた。
「眠くなった」と言いながら手足を伸ばさず丸くなるのは自己防衛の表れだろうか。
 だが顔を上げたくない。上げればあの写真が目に入る。
 スピードレースをしようと約束したあの娘は・・・誰だ。


 大怪我を負って帰ってきたジョーは南部博士に叱咤されるのを覚悟していた。
 すでに健から報告を受けていた南部は彼を見ると、「大丈夫かね」とひとこと言っただけだった。
 心配をかけたんだ、とジョーは思った。

 あれだけ銃を向けられたのに怪我は思ったより軽く済んだ。
 持ち前の体力で体の傷の治癒は早かったが、心の傷はそう簡単に治るものではなかった。
 それでもジョーはそれを表に出さなかった。
 誰に─ 南部や健にさえ─ 話したところでどうしようもない。これはおれ自身が向き合っていかなければならないのだ。

『復讐したからってどうなる。 虚しさを味わうだけだ』

 友の声が耳に残っている。
 彼の言った事は正しい。だが世の中、正しい事だけで生きて行けるわけじゃないんだ。
 特におれのような人間は・・・。


 世界平和とか正義のための戦いとか、そんなものはおれにはない。
 南部博士に見せられたメカで、武器で、暴れられる、両親の復讐ができる。
 おれはそれしか考えなかった。そして実行してきた。

 アラン、今度お前と会う時、おれはどのように見えるだろう。
 お前の言うとおり、復讐など忘れて穏かに平凡な人生を送った幼馴染か。それとも、血で手を汚し続けた婚約者の仇か・・・。

 おれはなぜアランを撃ったんだ。
 健に銃を向けられたから? いや、あいつがそんな物で困るはずはない。
 わかってる。なのになぜ?

『復讐に狂うお前の姿が、おれの憎しみに火をつけた』

 アランに銃を撃たせてはいけない。復讐に狂うアランは見たくない。
 復讐に狂う姿を・・・。

 おれはおれを撃ちたかったのか。


 ああ、だが今は眠ろう。もう少しの間だけ。
 お前の言葉を覚えている間だけ・・・。


                                   

                          完




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2014.02/22(Sat)

追跡!


「前方20キロ。ギャラクターの小型機がサンツウ森林地帯に向かっているわ」
「やはりそうか」
 パトロール中、たまたまレーダーで捉えたギャラクターの小型輸送機をゴッドフェニックスはノルウーグ国、サンツウ森林地帯まで追ってきた。
 過去のデータからここら辺りに基地のひとつもあるだろうと南部博士が言っていたが、どうやら当たっているようだ。
「よし、そのまま追跡だ。基地を見つけて本部の場所を探り、壊滅する」
「ラジャ!」
 4人が声を揃えた。と、
「お、輸送機が森林地帯に下りていくぞぃ」
「降りられたらゴッドフェニックスではもう追えないわ。それでなくてもここは世界一、二を争う広範囲の森林地帯よ」
 有視界にしてあるメインスクリーンに映る輸送機はみるみるうちに高度を下げて行く。眼下の森林に着陸するのは間違いない。
「よし、各自のメカで追跡を続けよう。奴らの基地を見つけたら必ず連絡しろ。勝手に飛び込むなよ」
 最後の台詞をジョーに向かって言う。ジョーはチェッと舌を打ったが何も言わなかった。
「ち、ちょっと待ってくれ、健」各自のメカに移ろうとする仲間に向かってリュウが声を掛けた。「それだがよ。おらのメカを変えてくれんかの。毎回毎回─」
「おれにその権限はないと言っただろ。博士に直接言ってくれ。行くぞ!」
「ラジャー!」
「残念だね、リュウ。たま~においらのメカと変えてやってもいいよ」
「ええわ。ジンペイのメカも腹がきつい」
「変えられるものならおれも変えたいぜ」
「えー、ジョーも!?」
「なんでだよ。広々としてていいじゃないか」
「冗談じゃねえや。おれはな─」
「無駄口を叩いているひまはない。各自Gメカに乗るんだ!」
「ラ、ラジャ!」
 シートを蹴るように4人は飛び出した。

「なんだかしっくりこないんだよなぁ、この操縦桿」
「き、きつい。苦しい。回らんわ」
「なんでおれがこんな─」
「みんな、いいわね~」
「文句を言うな。行くぞ。ゴッドフェニックス分散!」
 健の合図とともに3台のGメカが次々と地面に下ろされて行く。G1号機は低空飛行に移った。
「健」ジョーだ。「地面に下りたらレーダーが利かなくなったぞ」
「ほんとだ。レンジに捕捉していた輸送機も消えちゃったよ、アニキ」
「輸送機が下りた方角はわかっている。各自用心して向かってくれ」
「ラジャ!」
 上空は高い木々で覆われている。足場も悪く、地面を走る木の根っこに邪魔されてさすがのGメカもその性能を発揮できない。
「くそぉ、とても高速走行は無理だぜ。いっそのこと飛んでやろうか」
 だが、たとえ飛べたとしても頭のすぐ上は太い樹木が縦横無尽に生い茂っている。
「わわわ・・・振動がモロにくるぞい。こーいう場所の走行には向かないわ」
「なにやってんだよ、リュウ。そのまま真っ直ぐ行ったら大木に正面衝突するよ」
「ステアリングが回らないんじゃ。腹につかえて」と、きゅぅぅ・・・と音を立ててメカが止まってしまった。「あ、いかん。ドロにタイヤを取られたわ。押してくれ、ジョー」
「面倒な奴だぜ」
 操縦桿を前後に動かし、ジョーは目の前でタイヤを鳴らしているメカのリアに自分のメカのフロントをつけ思い切り前進した。
 派手なスキール音を撒き散らし、それでもドロ溜まりから脱出した。
「サンキュ、ジョー。ヘタするとサイが来るからのぉ」
「なにわけわかんないこと言ってるんだ。ちゃんと前を見ろ!」ジョーはチェンソーを出し目の前の大木を切っていく。「あー、じれったいぜ」
「2人とも、モタモタしているから健のアニキがかなり先に行っちゃったよ」
「なんだって。あんにゃろ~」
「健のメカは地面でも水の上でも走れるからのぉ」
「こんな事してられねえ。一気に倒してやる。えーと、えーと・・・」
「まさか爆弾を使うんじゃないよね、ジョーのアニキ」
「そりゃダメだわ、ジョー。相手に気づかれる。ここはひとつおらが─あ、ステアリングに腹がつかえてスイッチに届かない」
「リュウだって大きな音がするよ。ここは先行したアニキに任せた方が」
「チェ! またリーダー様大活躍の回かよっ」

 ハッ! と5人は目を覚まし、辺りを見回した。
 前方では南部博士の講義がまだ続いている。が、ますます内容がわからなくなった。
「おいら、変な夢見てた」
「おらもだわ。なぜかジョーのメカに乗っていた」
「え、おれはマメタンクだったぜ」
「マメタンクじゃない! あ、おいらは健のアニキの・・・」
「私は留守番だったわ」
「皆で同じ夢を見ていたのか」
 健の言葉に4人がうーん、と唸った。
「チームワークが大切とはいえ、そこまで付き合わなくてもなあ」
「あんな動きの遅いメカはご免だぜ」
「ヒロインの出番が少ないってどういうこと?」
「おいらは良かったな~。今回は低空だったけどもっと飛びたい」
「おらもうこりごりだわ。尻は痛いし腹はきついし」
「こらあ!」大声が飛んだ。南部だ。「どうも君達は机に着くと眠くなるらしいな。しかしこれからの忍者隊は戦いだけではなく科学的でなくてはならない。科学忍者隊なのだから。そもそも─」
 ああ、またここから長くなる。戦いはいやだが、これなら野外訓練で走っていた方がいい。
 科学とは何かを語る博士の声を聞きながら、5人の瞼はまた下がり始めた。


                                  おわり
11:22  |   Gフィク  |  TB(0)  |  CM(12)  |  EDIT  |  Top↑

2014.02/02(Sun)

時機到来


「また彼かね」渋い顔の学長が、渡された反省文ををデスクに放った。「確か先週のケンカ騒ぎにも関わっていたと思うが」
「ええ、ですがあれは本校の学生が他校のケンカに巻き込まれたのを助けたもので」
「だがそれで15人のした・・・のでは弁解の余地もないだろう」
 はあ・・と息をつく担任から目を離し、学長はもう一度デスクの反省文を見た。
 レポート用紙1枚に書き殴られている文字。一応本校指定の世界共通語で書かれているが、とても反省しているようにはみえない。
 セレンディ校はユートランドでも1、2を争う名門校だ。富裕層や著名人、政府高官の子息も多く通っている。
 彼は決して勉強ができないわけではないが、如何せんケンカっぱやい。本来ならこのような子を受け入れる事はないのだが。
(・・・ISOの南部博士の息子では仕方がない)
 学長は、とても15才には見えないその学生の顔を思い浮かべた。
 南部博士には似ていない。養子だという噂もある。が、そんなことはどうでもいい。
 彼の後見がISOの重鎮である南部孝三郎だという事が大事なのだ。
「同じ後見の子どもでも、もう1人は優秀でなんの問題もないのに」
 そしてあの2人が仲が良い、というのも学長には不思議に映るのだった。

「謹慎3日間だって?」
 ノックをし、しかし部屋の主の返事も聞かないうちにニコニコ顔の健が入ってきた。
「思ったより軽かったな。お前は前科があり過ぎるから1週間は食らうと思ってた」
「フン」ベッドに寝っ転ったままジョーが、まだ笑っている健を睨めあげた。「先に手を出してきたのはあっちだぜ。この前の仕返しだって言いやがって」
「だからって11人ものしたら・・・・マズイだろう」
「12人だ」ムスッとジョーが目を向けてきた。「この前より少ないぜ。それに怪我をさせるようなヘタなのし方・・・はしていねえ
「あたりまえだ。病院送りになんかしたら3日じゃ済まないよ」
 口ではまともな事を言いながら、それでも波打っている健の目を見るとますます気分が悪くなってくる。
「おれは真面目に謹慎してるんだぞ。あっちへ行っちまえ」
「ごあいさつだな。せっかく差し入れを持ってきたのに」健は小さな紙袋をジョーのベッドの隅に置いた。「お前、今日はまだ何も食ってないんだろ」
「・・・・・」
 ジョーはちょっと驚いたように体を起こした。
 普段は気が利かない人間の代表のような健だが、時々妙に心憎い事をしてくれる。付きあい長いしな、おれ達・・・。
「悪かったよ。差し入れサンキューな」笑顔で紙袋を覗き込む。が、「なんだよこれ!本じゃねえか!」
「電子工学の宿題さ。明日までにレポート10枚以上だってよ」
「なんでそんな物を持ってくるんだよ!」
「ちなみに、おれはもう書き上げた」
「・・・え」
 ジョーの双眼が、一瞬期待を込めて健に向けられた。
「無理だよ。同じ内容のレポートじゃあ、すぐにバレる」
「そこはそう・・・うまく書くから─」
「だめだ。電子工学のバーツ先生はISOからの執行だ。甘く見たら大変だぜ」
「死ぬ時は一緒だと誓ったじゃねえか」
「このくらいの事でいちいち死んでいたら身が持たない」
 じゃあ、頑張れよ~と手を振りながら部屋を出て行く健をジョーは止める気力もなかった。

「健」中庭に出ると誰かが自分の名を呼んだ。振り返ると同学年のテリーだった。「ジョー、どうだった? 落ち込んでいたかい?」
「落ち込む? あいつが?」まさか、と健が笑う。「大丈夫だよ。今頃は宿題を・・・いや、していないな、きっと」
「ジョーは助けてくれたのに・・・。彼だけ罰を受けるなんて・・・」
 テリーは先週のケンカに巻き込まれた1人だ。同学年とはいえジョーと面識はなかった。なのに助けてくれた。
「気にする事はないよ。授業に出なくてもいいから喜んでいるさ」
 まだしょげているテリーの肩をポンポンと叩き健が言った。
 ジョーと親しく言葉を交わす人間は少ない。だが決して嫌われているのではない事はわかる。
 近寄り難い風貌の、しかしその実、慕う人間も多い。もしかしたら自分より友人・・は多いのかもしれない。
 健はフッと息をついた。

 謹慎も今日1日で終わる。明日からは寄宿舎はもちろん、校内も大手を振って歩ける。 まずどこへ行こう。カフェでチーズたっぷりのピッツァを頬張るのもいい。
 謹慎中は食事も部屋で摂らなければならなかった。メニューも選べないのだ。
 新製品のドリンクが出たと聞いたし、まずはそれを堪能して・・・。が、今のジョーは眉を八の字にして唸っていた。
「チッ、なんで謹慎中なのに勉強しなければならないんだよ」
 ここは学校なのだから勉強するのは当然だ。だが納得できないジョーはブツブツ言いながらデスクに向かっていた。と、
「ジョー」ノックもなくドアが開いた。「テリーが─」
「テリーがどうしたんだ?」
 入ってきたのはジョーと同じカーメカニッククラブに所属するマークだった。
「リバス達に捕まった。君に来るように言え、って・・おれ・・・」
「なんだと」
 リバスは先週のケンカ騒動の相手だ。セレンディ校の生徒は育ちがよくおとなしいので言い掛かりをつけるには最適なのだ。
「あいつら、性懲りもなく」
「でも君は謹慎中だからって─」
「マーク!」ドタドタと飛び込んできたのは同学年のジュマンだ。「だめだよ、マーク。健に口止めされているじゃないか」
「健? 奴が何を言ったんだ」
 ギッと向けられたジョーの双瞳に、“あっ”とジュマンが口を閉じた。その胸倉をジョーが掴む。
「言え。なんで健が出てくるんだ」
「・・・リバスが君に来るようにと言って・・・それを聞いた健が・・・」
 ガタガタとジュマンが震えている。言葉もうまく発せられない。ジョーの締め付けが強くなる。
「・・・き、謹慎中にそんな事したらマズいだろうって・・・。だから自分が行くって・・・」
「なんだって」
 ジョーがジュマンを離した。すぐさま部屋の隅に逃れる。
「あいつ・・・かっこつけやがって」一瞬動きを止めたジョーが再びジュマンに詰め寄った。「場所を教えな」
 青い双瞳がその鋭さを増した。

「鷲尾健、ジョー・南部」書類から顔を上げ学長が2人を見た。「両名に謹慎1週間を申し付ける」
「─ はい」
 神妙に頭を下げる健とは裏腹に、ジョーはかすかに顔を背けた。だが、そんな彼の態度はいつもの事なので学長は何も言わなかった。
「それから─」代わりに、顔をしかめた学年主任が言った。「2階の第1応接室に行くように。南部博士がお待ちだ」
「博士が?」
 驚いたように健が主任を見た。ジョーの表情も動く。
「すぐに行きなさい」
 主任に急かされ、2人は学長室を出て階段を下りた。
「なんの用だろう・・・」ポツリとジョーが呟いた。「今回のことかな」
「たぶんな。怒られるぞ、きっと」お前のせいだ、と言わんばかりに健が眼を向けてくる。「だけど・・お前はわかるが、なんでおれまで行かなきゃならないんだ?」
「優等生づらしてやがるが、案外陰で何かしてるんじゃないか、お前も」
「おれが優等生づらをしているのはお前のせいだ」
「え?」ジョーの問う目に、だが健は平然と無視した。「だけど本当にそうなら・・・やばいなぁ・・・」
 以前、20人のした・・・ケンカの時は3ヶ月間小遣いなしだった。寄宿生活でバイトもできない身にはきつかった。
「そういえばその時に貸した金をまだ返してもらってないよな」
「入ります」
 コンコンとノックするジョー。今度は彼が平然と無視した。

「入りたまえ」
 間違いなく南部の声だ。怒っているようには聞こえないが、先手必勝!と、
「すみません、博士。でも今回は友人を助けるために─」
「何を言っているのかね、ジョー」
 窓を背にした南部の表情はよくわからないが、これから子どもらを叱ろうという声色ではなかった。
「この2日間で荷物をまとめたまえ。学校を替わる」
「は?」
「ISO直属の専門学校に君達の専門学科である〝特殊科〝を新設した。生徒は君達2人とGメカに関わるエンジニアやメカニック、その他電子工学や医学生など総勢30名の予定だ」
「それは、G計画の─」
「そうだ、健。いよいよG計画の前段階開始だ」
 南部の言葉が2人の表情を変えた。
 まだ子どもの域を抜けない15才の少年の・・・しかしこれから始まる厳しい日々への覚悟と決意の頼もしさと危うさと─。
「とりあえず一度私の家に戻る。専門学校への編入は1週間後だ」
「はい」
 2人が頷く。
「なんだ。怒られるんじゃなかったのか」
 ジョーが安堵の息をついた。
「ああ、そのことは後でじっくりと話を聞こう。もちろん健もだ」
 え~、と2人が不満そうに声を上げた。


                                   おわり


  
        

                            



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