2017.09/29(Fri)

亡郷


「じゃあな、ジョージ。ゆっくり休んでくれ」

 小脇に何冊かの本を挟みアランは出て行った。
 ジョーはベッドの上で膝を抱えて丸くなった。

 写真の娘がアランのフィアンセだって? 確か以前にサーキットで会った娘だ。
 あの後おれは健の指示で現場に赴き、逃げてくるデブルスターを1人羽根手裏剣で仕留めた。
 まさかあの娘か?
 いや、その時とは限らない。デブルスターとは何度も遣り合っているのだ。
 しかしあの娘はサーキットには来なかった。

 ジョーは両腕に力を入れた。
「眠くなった」と言いながら手足を伸ばさず丸くなるのは自己防衛の表れだろうか。
 だが顔を上げたくない。上げればあの写真が目に入る。
 スピードレースをしようと約束したあの娘は・・・誰だ。


 大怪我を負って帰ってきたジョーは南部博士に叱咤されるのを覚悟していた。
 すでに健から報告を受けていた南部は彼を見ると、「大丈夫かね」とひとこと言っただけだった。
 心配をかけたんだ、とジョーは思った。

 あれだけ銃を向けられたのに怪我は思ったより軽く済んだ。
 持ち前の体力で体の傷の治癒は早かったが、心の傷はそう簡単に治るものではなかった。
 それでもジョーはそれを表に出さなかった。
 誰に─ 南部や健にさえ─ 話したところでどうしようもない。これはおれ自身が向き合っていかなければならないのだ。

『復讐したからってどうなる。 虚しさを味わうだけだ』

 友の声が耳に残っている。
 彼の言った事は正しい。だが世の中、正しい事だけで生きて行けるわけじゃないんだ。
 特におれのような人間は・・・。


 世界平和とか正義のための戦いとか、そんなものはおれにはない。
 南部博士に見せられたメカで、武器で、暴れられる、両親の復讐ができる。
 おれはそれしか考えなかった。そして実行してきた。

 アラン、今度お前と会う時、おれはどのように見えるだろう。
 お前の言うとおり、復讐など忘れて穏かに平凡な人生を送った幼馴染か。それとも、血で手を汚し続けた婚約者の仇か・・・。

 おれはなぜアランを撃ったんだ。
 健に銃を向けられたから? いや、あいつがそんな物で困るはずはない。
 わかってる。なのになぜ?

『復讐に狂うお前の姿が、おれの憎しみに火をつけた』

 アランに銃を撃たせてはいけない。復讐に狂うアランは見たくない。
 復讐に狂う姿を・・・。

 おれはおれを撃ちたかったのか。


 ああ、だが今は眠ろう。もう少しの間だけ。
 お前の言葉を覚えている間だけ・・・。


                                   

                          完




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2014.02/22(Sat)

追跡!


「前方20キロ。ギャラクターの小型機がサンツウ森林地帯に向かっているわ」
「やはりそうか」
 パトロール中、たまたまレーダーで捉えたギャラクターの小型輸送機をゴッドフェニックスはノルウーグ国、サンツウ森林地帯まで追ってきた。
 過去のデータからここら辺りに基地のひとつもあるだろうと南部博士が言っていたが、どうやら当たっているようだ。
「よし、そのまま追跡だ。基地を見つけて本部の場所を探り、壊滅する」
「ラジャ!」
 4人が声を揃えた。と、
「お、輸送機が森林地帯に下りていくぞぃ」
「降りられたらゴッドフェニックスではもう追えないわ。それでなくてもここは世界一、二を争う広範囲の森林地帯よ」
 有視界にしてあるメインスクリーンに映る輸送機はみるみるうちに高度を下げて行く。眼下の森林に着陸するのは間違いない。
「よし、各自のメカで追跡を続けよう。奴らの基地を見つけたら必ず連絡しろ。勝手に飛び込むなよ」
 最後の台詞をジョーに向かって言う。ジョーはチェッと舌を打ったが何も言わなかった。
「ち、ちょっと待ってくれ、健」各自のメカに移ろうとする仲間に向かってリュウが声を掛けた。「それだがよ。おらのメカを変えてくれんかの。毎回毎回─」
「おれにその権限はないと言っただろ。博士に直接言ってくれ。行くぞ!」
「ラジャー!」
「残念だね、リュウ。たま~においらのメカと変えてやってもいいよ」
「ええわ。ジンペイのメカも腹がきつい」
「変えられるものならおれも変えたいぜ」
「えー、ジョーも!?」
「なんでだよ。広々としてていいじゃないか」
「冗談じゃねえや。おれはな─」
「無駄口を叩いているひまはない。各自Gメカに乗るんだ!」
「ラ、ラジャ!」
 シートを蹴るように4人は飛び出した。

「なんだかしっくりこないんだよなぁ、この操縦桿」
「き、きつい。苦しい。回らんわ」
「なんでおれがこんな─」
「みんな、いいわね~」
「文句を言うな。行くぞ。ゴッドフェニックス分散!」
 健の合図とともに3台のGメカが次々と地面に下ろされて行く。G1号機は低空飛行に移った。
「健」ジョーだ。「地面に下りたらレーダーが利かなくなったぞ」
「ほんとだ。レンジに捕捉していた輸送機も消えちゃったよ、アニキ」
「輸送機が下りた方角はわかっている。各自用心して向かってくれ」
「ラジャ!」
 上空は高い木々で覆われている。足場も悪く、地面を走る木の根っこに邪魔されてさすがのGメカもその性能を発揮できない。
「くそぉ、とても高速走行は無理だぜ。いっそのこと飛んでやろうか」
 だが、たとえ飛べたとしても頭のすぐ上は太い樹木が縦横無尽に生い茂っている。
「わわわ・・・振動がモロにくるぞい。こーいう場所の走行には向かないわ」
「なにやってんだよ、リュウ。そのまま真っ直ぐ行ったら大木に正面衝突するよ」
「ステアリングが回らないんじゃ。腹につかえて」と、きゅぅぅ・・・と音を立ててメカが止まってしまった。「あ、いかん。ドロにタイヤを取られたわ。押してくれ、ジョー」
「面倒な奴だぜ」
 操縦桿を前後に動かし、ジョーは目の前でタイヤを鳴らしているメカのリアに自分のメカのフロントをつけ思い切り前進した。
 派手なスキール音を撒き散らし、それでもドロ溜まりから脱出した。
「サンキュ、ジョー。ヘタするとサイが来るからのぉ」
「なにわけわかんないこと言ってるんだ。ちゃんと前を見ろ!」ジョーはチェンソーを出し目の前の大木を切っていく。「あー、じれったいぜ」
「2人とも、モタモタしているから健のアニキがかなり先に行っちゃったよ」
「なんだって。あんにゃろ~」
「健のメカは地面でも水の上でも走れるからのぉ」
「こんな事してられねえ。一気に倒してやる。えーと、えーと・・・」
「まさか爆弾を使うんじゃないよね、ジョーのアニキ」
「そりゃダメだわ、ジョー。相手に気づかれる。ここはひとつおらが─あ、ステアリングに腹がつかえてスイッチに届かない」
「リュウだって大きな音がするよ。ここは先行したアニキに任せた方が」
「チェ! またリーダー様大活躍の回かよっ」

 ハッ! と5人は目を覚まし、辺りを見回した。
 前方では南部博士の講義がまだ続いている。が、ますます内容がわからなくなった。
「おいら、変な夢見てた」
「おらもだわ。なぜかジョーのメカに乗っていた」
「え、おれはマメタンクだったぜ」
「マメタンクじゃない! あ、おいらは健のアニキの・・・」
「私は留守番だったわ」
「皆で同じ夢を見ていたのか」
 健の言葉に4人がうーん、と唸った。
「チームワークが大切とはいえ、そこまで付き合わなくてもなあ」
「あんな動きの遅いメカはご免だぜ」
「ヒロインの出番が少ないってどういうこと?」
「おいらは良かったな~。今回は低空だったけどもっと飛びたい」
「おらもうこりごりだわ。尻は痛いし腹はきついし」
「こらあ!」大声が飛んだ。南部だ。「どうも君達は机に着くと眠くなるらしいな。しかしこれからの忍者隊は戦いだけではなく科学的でなくてはならない。科学忍者隊なのだから。そもそも─」
 ああ、またここから長くなる。戦いはいやだが、これなら野外訓練で走っていた方がいい。
 科学とは何かを語る博士の声を聞きながら、5人の瞼はまた下がり始めた。


                                  おわり
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2014.02/02(Sun)

時機到来


「また彼かね」渋い顔の学長が、渡された反省文ををデスクに放った。「確か先週のケンカ騒ぎにも関わっていたと思うが」
「ええ、ですがあれは本校の学生が他校のケンカに巻き込まれたのを助けたもので」
「だがそれで15人のした・・・のでは弁解の余地もないだろう」
 はあ・・と息をつく担任から目を離し、学長はもう一度デスクの反省文を見た。
 レポート用紙1枚に書き殴られている文字。一応本校指定の世界共通語で書かれているが、とても反省しているようにはみえない。
 セレンディ校はユートランドでも1、2を争う名門校だ。富裕層や著名人、政府高官の子息も多く通っている。
 彼は決して勉強ができないわけではないが、如何せんケンカっぱやい。本来ならこのような子を受け入れる事はないのだが。
(・・・ISOの南部博士の息子では仕方がない)
 学長は、とても15才には見えないその学生の顔を思い浮かべた。
 南部博士には似ていない。養子だという噂もある。が、そんなことはどうでもいい。
 彼の後見がISOの重鎮である南部孝三郎だという事が大事なのだ。
「同じ後見の子どもでも、もう1人は優秀でなんの問題もないのに」
 そしてあの2人が仲が良い、というのも学長には不思議に映るのだった。

「謹慎3日間だって?」
 ノックをし、しかし部屋の主の返事も聞かないうちにニコニコ顔の健が入ってきた。
「思ったより軽かったな。お前は前科があり過ぎるから1週間は食らうと思ってた」
「フン」ベッドに寝っ転ったままジョーが、まだ笑っている健を睨めあげた。「先に手を出してきたのはあっちだぜ。この前の仕返しだって言いやがって」
「だからって11人ものしたら・・・・マズイだろう」
「12人だ」ムスッとジョーが目を向けてきた。「この前より少ないぜ。それに怪我をさせるようなヘタなのし方・・・はしていねえ
「あたりまえだ。病院送りになんかしたら3日じゃ済まないよ」
 口ではまともな事を言いながら、それでも波打っている健の目を見るとますます気分が悪くなってくる。
「おれは真面目に謹慎してるんだぞ。あっちへ行っちまえ」
「ごあいさつだな。せっかく差し入れを持ってきたのに」健は小さな紙袋をジョーのベッドの隅に置いた。「お前、今日はまだ何も食ってないんだろ」
「・・・・・」
 ジョーはちょっと驚いたように体を起こした。
 普段は気が利かない人間の代表のような健だが、時々妙に心憎い事をしてくれる。付きあい長いしな、おれ達・・・。
「悪かったよ。差し入れサンキューな」笑顔で紙袋を覗き込む。が、「なんだよこれ!本じゃねえか!」
「電子工学の宿題さ。明日までにレポート10枚以上だってよ」
「なんでそんな物を持ってくるんだよ!」
「ちなみに、おれはもう書き上げた」
「・・・え」
 ジョーの双眼が、一瞬期待を込めて健に向けられた。
「無理だよ。同じ内容のレポートじゃあ、すぐにバレる」
「そこはそう・・・うまく書くから─」
「だめだ。電子工学のバーツ先生はISOからの執行だ。甘く見たら大変だぜ」
「死ぬ時は一緒だと誓ったじゃねえか」
「このくらいの事でいちいち死んでいたら身が持たない」
 じゃあ、頑張れよ~と手を振りながら部屋を出て行く健をジョーは止める気力もなかった。

「健」中庭に出ると誰かが自分の名を呼んだ。振り返ると同学年のテリーだった。「ジョー、どうだった? 落ち込んでいたかい?」
「落ち込む? あいつが?」まさか、と健が笑う。「大丈夫だよ。今頃は宿題を・・・いや、していないな、きっと」
「ジョーは助けてくれたのに・・・。彼だけ罰を受けるなんて・・・」
 テリーは先週のケンカに巻き込まれた1人だ。同学年とはいえジョーと面識はなかった。なのに助けてくれた。
「気にする事はないよ。授業に出なくてもいいから喜んでいるさ」
 まだしょげているテリーの肩をポンポンと叩き健が言った。
 ジョーと親しく言葉を交わす人間は少ない。だが決して嫌われているのではない事はわかる。
 近寄り難い風貌の、しかしその実、慕う人間も多い。もしかしたら自分より友人・・は多いのかもしれない。
 健はフッと息をついた。

 謹慎も今日1日で終わる。明日からは寄宿舎はもちろん、校内も大手を振って歩ける。 まずどこへ行こう。カフェでチーズたっぷりのピッツァを頬張るのもいい。
 謹慎中は食事も部屋で摂らなければならなかった。メニューも選べないのだ。
 新製品のドリンクが出たと聞いたし、まずはそれを堪能して・・・。が、今のジョーは眉を八の字にして唸っていた。
「チッ、なんで謹慎中なのに勉強しなければならないんだよ」
 ここは学校なのだから勉強するのは当然だ。だが納得できないジョーはブツブツ言いながらデスクに向かっていた。と、
「ジョー」ノックもなくドアが開いた。「テリーが─」
「テリーがどうしたんだ?」
 入ってきたのはジョーと同じカーメカニッククラブに所属するマークだった。
「リバス達に捕まった。君に来るように言え、って・・おれ・・・」
「なんだと」
 リバスは先週のケンカ騒動の相手だ。セレンディ校の生徒は育ちがよくおとなしいので言い掛かりをつけるには最適なのだ。
「あいつら、性懲りもなく」
「でも君は謹慎中だからって─」
「マーク!」ドタドタと飛び込んできたのは同学年のジュマンだ。「だめだよ、マーク。健に口止めされているじゃないか」
「健? 奴が何を言ったんだ」
 ギッと向けられたジョーの双瞳に、“あっ”とジュマンが口を閉じた。その胸倉をジョーが掴む。
「言え。なんで健が出てくるんだ」
「・・・リバスが君に来るようにと言って・・・それを聞いた健が・・・」
 ガタガタとジュマンが震えている。言葉もうまく発せられない。ジョーの締め付けが強くなる。
「・・・き、謹慎中にそんな事したらマズいだろうって・・・。だから自分が行くって・・・」
「なんだって」
 ジョーがジュマンを離した。すぐさま部屋の隅に逃れる。
「あいつ・・・かっこつけやがって」一瞬動きを止めたジョーが再びジュマンに詰め寄った。「場所を教えな」
 青い双瞳がその鋭さを増した。

「鷲尾健、ジョー・南部」書類から顔を上げ学長が2人を見た。「両名に謹慎1週間を申し付ける」
「─ はい」
 神妙に頭を下げる健とは裏腹に、ジョーはかすかに顔を背けた。だが、そんな彼の態度はいつもの事なので学長は何も言わなかった。
「それから─」代わりに、顔をしかめた学年主任が言った。「2階の第1応接室に行くように。南部博士がお待ちだ」
「博士が?」
 驚いたように健が主任を見た。ジョーの表情も動く。
「すぐに行きなさい」
 主任に急かされ、2人は学長室を出て階段を下りた。
「なんの用だろう・・・」ポツリとジョーが呟いた。「今回のことかな」
「たぶんな。怒られるぞ、きっと」お前のせいだ、と言わんばかりに健が眼を向けてくる。「だけど・・お前はわかるが、なんでおれまで行かなきゃならないんだ?」
「優等生づらしてやがるが、案外陰で何かしてるんじゃないか、お前も」
「おれが優等生づらをしているのはお前のせいだ」
「え?」ジョーの問う目に、だが健は平然と無視した。「だけど本当にそうなら・・・やばいなぁ・・・」
 以前、20人のした・・・ケンカの時は3ヶ月間小遣いなしだった。寄宿生活でバイトもできない身にはきつかった。
「そういえばその時に貸した金をまだ返してもらってないよな」
「入ります」
 コンコンとノックするジョー。今度は彼が平然と無視した。

「入りたまえ」
 間違いなく南部の声だ。怒っているようには聞こえないが、先手必勝!と、
「すみません、博士。でも今回は友人を助けるために─」
「何を言っているのかね、ジョー」
 窓を背にした南部の表情はよくわからないが、これから子どもらを叱ろうという声色ではなかった。
「この2日間で荷物をまとめたまえ。学校を替わる」
「は?」
「ISO直属の専門学校に君達の専門学科である〝特殊科〝を新設した。生徒は君達2人とGメカに関わるエンジニアやメカニック、その他電子工学や医学生など総勢30名の予定だ」
「それは、G計画の─」
「そうだ、健。いよいよG計画の前段階開始だ」
 南部の言葉が2人の表情を変えた。
 まだ子どもの域を抜けない15才の少年の・・・しかしこれから始まる厳しい日々への覚悟と決意の頼もしさと危うさと─。
「とりあえず一度私の家に戻る。専門学校への編入は1週間後だ」
「はい」
 2人が頷く。
「なんだ。怒られるんじゃなかったのか」
 ジョーが安堵の息をついた。
「ああ、そのことは後でじっくりと話を聞こう。もちろん健もだ」
 え~、と2人が不満そうに声を上げた。


                                   おわり


  
        

                            



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2013.12/25(Wed)

幽霊の所在


「知ってるか、ジョー。海側の部屋に幽霊が出るんだって」
 大きな空色の瞳をキラキラと輝かせた健が言った。
 普段は真面目な顔をしているくせに・・・決して本心かどうかはともかくとして・・・こーいう時は子どものような顔になるなぁ、とジョーは思った。ま、本当に子どもなんだけど。
「なぁ、ちょっと探検に行こうぜ。ジョーも見たいだろ? 幽霊」
 そんな物は見たくない。というかそれどころではないのだ。
 ジョーは宿題のプリントを前に悪戦苦闘している。
 せっかくのクリスマス休暇で学校の寄宿舎から海の見える南部の別荘に戻ったのはいいが、ジョーの担任はご親切にも宿題を出してくれたのだ。それも先のテストで及第点に達しなかった者だけに。
 島の学校とはレベルが違う。ジョーの学年ではこんな難しい内容はやらなかった。
「お前、宿題はどうしたんだよ」
「宿題? クリスマス休暇に?」
 キョトンとした顔を向ける健に、ああ、そうだよな、こいつはないんだとジョーは顔を背ける。
 ジョーも成績は決して悪くはない。ただ決められた日までにレポートを提出しなかったり、テストの時にこの国の言葉がよくわからず答えを書けなかったりする事が多いのだ。 
「とにかくおれは忙しいんだ。幽霊を見たいなら1人で行け」
 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。こういう事はジョーの領分なのに。
 健はマジマジとジョーを見た。
「熱あるのか? 博士に診てもらおうか」
「うるせえな! あっちに行けよ!」
 ジョーの剣幕に健はすごすごと部屋を出て行った。
 ジョーはイラついていた。宿題のせいではない。クリスマス休暇で南部の元に帰って来たことにだ。

 この国で暮らし、のちに健も同居するようになり、南部は以前にも増して2人をクリスマスに誘うようになった。
 だがジョーは最初のクリスマスは両親と迎えようと決めていた。それはもうできないのはわかっている。
 しかし彼はどうしても両親以外とクリスマスを迎えたいと思わなかった。
 博士も別荘の使用人もあの手この手でジョーを誘う。と、ますます意固地になってジョーは拒否する。毎年これの繰り返しだ。

(もういいかげん諦めてくれればいいのに)
 子どもがジョー1人ならそれでもいい。しかし健がいるので、やはりクリスマスパーティーは欠かせない。
(おれ抜きでやればいいんだ)
 それよりなんでサインとかコサインとかやんなきゃいけないんだよーと、幽霊より理解不能な問題にジョーは頭を抱えた。

 幽霊を最初に見たのは若いメイドだった。
 海側のいくつかの部屋の空気の入れ替えをしようと─別荘には使っていない部屋も多いのだ─ドアを開けたら何か・・人間らしき影が動いた。
 足を止めたメイドは、しかしその後何事もなかったので部屋に入り窓を開けた。
 サッと視界の隅に何か動いた。
 ヒッ! と声を挙げメイドは部屋を飛び出し、すぐに警備に連絡を入れた。別荘内で何か異変があったときはすぐさま警備に連絡を入れる事が決められている。
 メイドの通報で警備員が向かった。が、結果は「異常なし」だった。

 次に幽霊を見たのは夜間警備に回っているその警備員だ。
 例の部屋で動く影を見た彼は恐れる事なくその影を追い詰め─しかし部屋の隅で見失った。 
 壁に溶け込んだとしか思えない状況だった。

「やっぱり出るんだよ、幽霊」
 真剣な目を向け健が言う。宿題のプリントの存在をとうに忘れたジョーが面倒臭そうに顔を向けた。
「ねえ、会ってみたくない?」
「なんでそんなに幽霊が気になるんだ?」
「幽霊って天国から来るんだろ? どんな所か聞いてみたいんだ」
 天国? そんなものを信じているのか、こいつは。
「天国なんてあるもんか。死んじまえばそれで終わりだ」
「ジョーだって聞きたいだろ。だって─」
 急に口を閉ざした健に、ジョーはやっと彼の想いを理解した。
 2年前に健は母親を亡くしている。そしてジョー自身も両親を─。天国にいる彼らの様子を知りたいのか。
(だけどおれの両親は神なんか信じていなかった。天国に行けるわけはない)
 島での生活でジョーは1回も〝教会〝という所に行った事がなかった。もちろん両親もだ・・・と思う。
 だが・・・もしも何かの間違いで天国に行けたのなら、その様子を聞いてみたいかも・・・。
 ジョーは幽霊より天国に興味が出て来た。
「・・・神様を信じていないと天国には行けないのかな」
「・・・よくわからないけど」
「よーし、じゃあ幽霊に聞いてみようぜ」
 ジョーはニヤッと片目を眇める。健の瞳が輝いた。

 幽霊が出没するのは当然夜中だ。メイドも警備員も0時を回った頃だと言っていた。
 そんな時間に屋敷内をうろちょろして南部に見つかれば叱られる。なので幽霊探索は南部がISOに泊まり込む日の夜にした。
 意外に早くその日は来た。

「さあ、ツリーを出しましたよ。飾り付けを手伝って」
 メイド頭のマリサが言った。
 健は生き生きとツリーのオーナメントを手にあれやこれやと悩みツリーに付けていく。
「ほら、ジョーも手伝って」
 運悪くホールを通りかかったジョーにも声が掛かった。
 いつもなら、ふんっと通り過ぎてしまうのだが健が目配せしてきた。今夜決行の幽霊探索まで目立たなく・・・猫を30匹被って大人しくしていなくては。
(おれが大人しい方が怪しまれるぜ)
 そう思ったもののジョーは天使のオーナメントを1つ手にし枝にひっかけるとすぐにその場を離れた。
「あら、ジョーったら・・・嬉しいわ」それでもマリサは喜んだ。「博士もうまくいくといいけど」
「え?」
「い、いえ、なんでもないのよ、健」
 そう言うとマリサは、ちょっと傾いた天使を真っ直ぐに直した。

 照明も暖房も落とした廊下は暗く寒々としていた。
 健もジョーも年齢の割には勇気があるが、シーンと静まり返った廊下に一歩踏み出すのは勇気より勢いが必要だ。
「今のうちに例の部屋へ行こう」
 夜中でも警備員が起きている。あと1時間もすれば巡回の時間になる。
 それまでに幽霊を見て話を訊いて部屋に戻りたい。
(そううまく行くはずないじゃん)健からそう聞いた時ジョーは思った。(こいつ意外と楽天家だな)
 ま、1回2回行けば気が済むだろう。付き合ってやるよ。それに・・・もし本当に幽霊がいて天国の話が聞けるのなら・・・。
 だがジョーはそんな話は信じていなかった。
(もし幽霊が自由にこの世とあの世を行来きできるんなら、なんで健のママやおれの両親は会いに来ないんだ)
「大丈夫だよ、ジョー。こっちは2人なんだから」
 黙り込んでしまったジョーを、怖がっているからだと健は思ったようだ。そこで彼の腕に自分の腕を絡めて廊下に踏み出す。
 怖いのは健じゃないか? とジョーは思った。
 2人はガッチリとスクラムを組んで階段を上がり海側の部屋へと向かった。

 と、空気が動いた。サッと何かが移動したように。
 メイドや警備員が幽霊を見たという部屋のドアがかすかに開いている。
「ぼ、ぼく達を誘き寄せてるのかな」
「なんのために?」
「・・・驚かすために」
 その言葉の方が驚くぜ。
 実はジョーも内心ではドキドキしている。しかし好奇心の方が優った。おそらく健もだろう。2人はドアを開けて素早く体を滑り込ませた。
 室内は暗く、しかし窓からの月明かりで物の形は見てとれた。

「──」

「え? 何か言った?」
 健が訊いた。
「いや、おれは何も─」

「──」

       それは闇の中から聞こえてくる。
           ボォ・・と浮き上がる人影が。大きな人だ。男?
  
   赤い服を着てるぞ。幽霊のくせにハデな奴だ。

     顔は白くてフワフワしてぼおっと─。
            メガネ? 幽霊も近眼になるのか?

 と、その幽霊が目の前に手を出した。まるで誘うように・・・何かを渡すかのように・・・。

 ほっほっほ

 「今の幽霊の声だぜ」
 2人は思わず一歩下がった。

 ほっほっほ 

 だが幽霊は2人に向かって来る。その横に大きな白い物が現れた。子ども1人くらいなら入れるほど大きな袋だ。
「あ、あれで子どもを攫うのか」
 それでは幽霊ではなく人攫いだ。

 ほっほっほ 

 再び幽霊が手を差し伸べる。

「さあ、君達!」突然の大声に2人は飛び上がった。「プレゼントをあげよう!」
「うわー!!」
 そんな物いるもんか!
 2人は勢いよく部屋を飛び出した。

「な、なんで逃げるんだよ! おれは奴の正体を─」
「ジョーが引っ張ったんじゃないか」
「おれはそんな事してねえっ」
 ガタガタと室内から何かが出て来る気配がした。2人はあわてて階段を降りた。

「あれは南部博士がね」翌朝、2人の子どもの冒険を知ったマリサが言うには、「ジョーにクリスマスを知ってもらいたくて、でも毎年躱されているから、せめてサンタクロースになってプレゼントをと思って」
 つまり博士はクリスマスのサンタ役の練習をしていたのだ。
 だが人には知られたくないので深夜、それも使っていない部屋に籠っての役作りだった。
「そういえばこの館には秘密の通路があるって聞いた事がある。幽霊が消えたのはそれか」
「呆れたなぁ、博士ともあろう人が」
「ジョー」
「知っているのは私だけだったけど・・・まあ、確かにそこまでやらなくてもとは思ったわ」皺のよったマリサの目が笑った。「でもね、ジョー。博士の気持ちもわかってあげて。あなたには、いえ、あなた達には子どもらしい時を過ごしてもらいたいのよ」
 いつか訪れる戦いの日まで。
「健だってクリスマスパーティをしたいでしょ?」
「パ-ティなんていいよ。もう子どもじゃないし」
「立派な子どもですよ、健」
「いいんだ。今までだってクリスマスを1人で過ごす事もあったし。だからみんなといつもどおり過ごすのが1番いいんだ。ジョーも一緒にね」
「まあ、健、なんていい子なんでしょ」
 ギュッ、とマリサに抱きしめられ、だからー子どもじゃないってばー! と叫ぶ健。
 ジョーは幽霊に天国の様子を訊けなかった事が心残りだったがそんな事はおくびにも出さず、大人の顔をしてマリサと健を見ていた。


                                      おわり
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2013.11/11(Mon)

1111


(こ、ここはいったいどこだ。確かおれはギャラクターと戦っていて─)

 得意のキックや素早い攻撃で次々と相手を倒していった健。
“おれの分も残しておけよー!”と、ジョーが文句を言ったほど調子が良かった。
 が、気がつくと周りには誰もいなくなっていた。
 ジョーもジンペイやジュンも─。

(みんなどこへ行った? まさか・・・)

 肉弾戦だが戦いはこちらの方が有利だった。
 いや、そうでなくても彼らがやられるなんて考えられない。

 健は仲間を呼ぼうとし・・・ふと口を閉じた。
 なんだろう・・この感じは・・。
 悪意・・ではないが、妙な圧迫感が自分を押し包んでいる。
 いくつもの目が自分を見ているようだ。
 その鋭さに健は─。

「だいたい活躍しすぎよ、健が」
「主役だから仕方ないわよ」
「そうだけど、もうちょっとジョーの出番を増やしてほしいよね」

 なんだ、あの声は。
 おれが活躍しすぎだって? どういう事だ?

「健は正当な主役だからあれでいいけど、ジョーはどう転ぶかわからないじゃない。そこが魅力なのよ。もっと出してほしいわ」
「〝ジョーをもっと出せ! 運動〝でもしてみる?」
「さんせ~い!」

 視聴者の声は怖い・・。ましてや相手は女の子達だ。

『後半のストーリー展開は、これのせいか・・・』

 健は納得し、ため息をついた。

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