2017.03/02(Thu)

トランスポータ 後編 (ep. G)


「トランポに戻って。研究所と連絡を取る方法を考えましょ」
「その前にリアを開けてくれ。G2号機を見たい」
「ここで?」
「なにか気になるんだ。この目で確認したい」
「わかったわ」
 淳は運転席のスイッチを押した。セキュリティが解除されリアのドアがかすかに開いた。
 ジョーが乗り込む。淳はレーダーで辺りを監視しようとしたが、なぜかこれも作動しなかった。と、
「淳!ちょっと来てくれ!」ジョーの声にあわててリアに回った。「これ、なんだと思う?」
「・・・何かの破片かしら」
 ジョーが指差す先─破損したG メカのボディには無数の機械片がくっついていた。G2号機のものではない。
 と、淳の時計が反応した。
「これ、わずかだけど電磁波を出しているわ。ギャラクターのメカ鉄獣の・・?」
「そうか、奴が爆発した時にG2号機に─。まさかその影響でトランポの機器が狂っちまってるのか?」
「ジョー、これを全部G2号機から取り外して処分して」
 淳はひとつだけ自分で取るとパネルバンに上がった。奥に設置してある分析用の機器へと向かう。
 その間にジョーは車体にくっついている破片を集めると、電波遮断装置の処理箱へ放り込んだ。
「追跡装置とか、そういう物ではないわね。よかった」分析されたデータを見ながら淳がホッと息をついた。「でも念のために研究所に伝えておいた方がいいわ。ゴッドフェニックスにもくっついているかもしれないし」
「こちら、ジョー。健、応答してくれ」
『ジョーか。今どこにいる。いつまで遊んでるんだ』
 今度は通じた。
「チェッ、遊びに行くなら、もっと可愛い子ちゃんと─ 」ジロッと刺すような視線を感じ、「いや、それどころじゃねえ。実はな─ 」
 ジョーは今までの事を簡単に話した。
「で、ゴッドフェニックスにもこいつがくっついているんじゃないかと思って」
『そうだったのか。だがゴッドフェニックスに異常はない。安心しろ』もう修理に入っているという。『だからお前たちもすぐに戻って─ 』
「ジョー」淳だ。「レーダーに多数の機影が。識別反応からギャラクターの小隊だと思うわ」
「なんだと。健、話はあとだ」
 ブレスレットを切り、淳と運転席に戻った。

「追跡装置じゃなかったんだろ。偶然かな」
「あるいは散乱した機械片の所在を確かめるために ─ G2号機にくっついて移動しているから不審に思ったのかしら」
「どっちにしても面倒だぜ」
 もし今、ギャラクターの一個小隊に襲われてもジョー1人で充分戦えるだろう。彼らを守る立場にある淳も格闘技の訓練は受けている。
 だが─。
「とにかく戦いは避けた方がよさそうだ」
 ジョーには珍しく慎重だ。淳が一緒だからだろう。
 しかし〝ギャラクター〝と聞いてジョーのその身が熱を帯びるのがわかる。
 出来る事なら飛び出して戦いたい。奴らの息の根を止めてやる。そばにいる淳には彼の想いがひしひしと伝わってくる。
 だが今それを許すわけにはいかない。
「カモフラージュを。気休めだけど」
 淳の指がコンソールを走る。
 トランスポータの車体が緑色に変化した。これで周りの木々に溶け込める。・・・か?

 ルームランプも消えレーダーのレンジだけが光って見える中、ジョーと淳は息を殺してレーダー内の点滅が通り過ぎるのを待った。
「く、くそォ・・・」
 歯ぎしりするジョーの身に溢れる想いが車内を埋める。
 息苦しくなって、淳はソッとジョーに身を寄せた。無意識か、ジョーが淳の身を抱く。
 レンジ内の点滅はちょうどトランポの真上だ。感知されたくはない、今は。淳は思わず体を固くする。
 それがジョーに伝わったのか、淳の肩に掛かる手にキュッと力が入った。
 ジョーを守らなければならないのに、彼に守られている。だが今のこの状態を・・・このままで・・もう少し・・・。

「通り過ぎた」
 どのくらいの時間が経ったのか、かすかなジョーの安堵の息に淳は目を開けた。その眼に入ったのは大きく書かれた胸の「2」と、逞しく頼りになる暖かいぬくもり・・。
 淳はとっさに身を起こした。が、すぐさま引き戻される。
 頬に触れた胸がかすかに上下し淳の髪にジョーの唇が押し当てられたのを感じた。淳が身を固くする。さっきとは違う意味で。

「奴ら、行っちまったようだ」あっさりと、ジョーが淳からその身を離した。思わず見つめる淳に、「小隊だけだから見逃してやった。メカ鉄獣が一緒だったらそうはいかなかったが」
「・・・そうね」
 今になって早く感じる動悸を悟られたくなくて淳はコンソールに手を伸ばした。レーダーレンジを機影が向かった方向に動かす。
 が、ギャラクターの小隊はもうこのエリアから離脱していた。
「やり過ごせて良かったわ。ナビも正常に戻ったし、早く帰りましょう」
 冷静に、いつもと同じ口調に─。
「南部博士が怒ってるって?」見るとジョーはブレスレットに向かっていた。「おれだって好きでこんな所にいるんじゃねえや。それもこんな怖い奴と ─ いてっ!」
 淳の肘鉄が思いっきりジョーのわき腹に入っていた。


                          おわり




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2017.02/22(Wed)

トランスポータ 前編 (ep. G)


「ジョー」
 目の前に停まった大型トランスポータの運転席から降りて来た淳を見て、ジョーの眉がよった。
 なんでこいつが来るんだ。
「ゴッドフェニックスの修理に多くの手がいるから、私がトランポに来たのよ」  
 ジョーの不機嫌さを読んだかのように淳が答える。
「フン、軽く見られたもんだぜ」
 それでも自走できないG2号機を研究施設に戻すには淳の、いや彼女の乗って来た大型車の手を借りなければならない。

 ギャラクターとの戦いでゴッドフェニックスのノーズが破損しG2号機も被害を受けた。
 ギャラクターのメカ鉄獣はバードミサイルと健のG1号機でなんとか破壊したが、そのノーズにG2号機を納める事ができないのでトランスポータの出番となったわけだ。

「被害は大した事ないわ。すぐ直せる。だけどここでやるわけにはいかないわね。一旦、ISO の研究施設に運びましょ」
 ゴッドフェニックスから放り出され着地したのは草原の真っただ中だった。
 ゴッドフェニックスは飛行に差し支えなかったので先に戻り、1人残ったジョーはG2号機を騙し騙し近くの林に持って行ったのだ。
「ジョー、後ろを開けて。Gメカを収納するわ。それからリフトを降ろして」
 立ってる者は親でも使え ─ を知っているかどうかはわからないが、青い翼のコンドルのジョーを淳は部下のように使う。
 ちょっと肩をすくめジョーはトランポの運転席に入った。
 リアの扉を開けリフトを降ろす。アームが車体を掴みゆっくりとリフトに乗せるとそのままバネルバン(荷台)内に引き込んだ。タイヤが固定され扉が閉まった。
「OK ね。戻りましょ」
 淳が助手席に入ったので、変身を解いたジョーが大型車を運転する事になった。

「ところで、大型免許は持っているの?」
「ん・・・」
 大きくステアリングを回し、ジョーが眉を寄せた。
 持っているのは普通乗用車免許とレースライセンスだけだ。と、いう事は無免許?
 だがゴッドフェニックスを動かす事もあるので、ま、いいか。
「くだらない事言ってねえで帰り路をセットしてくれ。ここがどこなのか、おれはさっぱりわからないぜ」
「私はG2号機をトレースして来たからなぁ。でもナビがあるから大丈夫よ」
 淳は目的地を『ISO 研究施設』にセットした。モニタに地図が現われる。
「スピードは出せないけど、2時間ちょっとで着いたわ」
「低速のドライブなんてイヤだな」
 そう言うが、いつもより大きなステアリングを握ったジョーはなんだか楽しそうだ。
 そんな彼を間近で見て仕事だがウキウキと心が沸き立つのを感じ、淳はともすればニヤつきそうになる顔を無理矢理窓へと向けた。と、
「おかしいわ」車外に向けていた目をナビに戻す。「行きにこんな景色はなかったわ」
「ナビが別のコースを出したんだろう。不思議じゃないさ。それよりこんなにでかいのにレスポンスがいいよな。G2号機もこうあってほしいぜ」
「思いっきり大きなタイヤとステアリングをつけてあげましょうか」
 G2号機は基本1人乗りだ。こんな巨大なステアリングをつけたらジョーの乗るスペースがなくなってしまう。
「ダイエットしないと乗り込めなくなるわね」
「おれよりお前がした方がいいぜ。右に傾いてしょーがねえ」
「なんですって!」
 淳はグーをジョーに向け、ハッとその手を止めた。
 外の景色がまだ林のままだ。もう疾うに街の明かりが見えてきても良い頃なのに。
「やっぱりおかしい。ユートランドへの道じゃないわ」
 だがナビはISO の研究施設への道を示している。
 淳はコンソールのGSP 機能をオンにした。これで今どこを走っているのかがわかる。だが、ガガ・・・とノイズを発しモニタにはいくつもの横線しか映らない。
「故障かしら。出る前に整備したのに」
「確かに変だ。どんどん山の中に入っていく」
 スピードをわずかに落としてジョーも周りを見た。さっきより大木が多くなった。ここを越えたからってユートランドに出られるとは思えない。

 とうとうジョーはトランスポータを停車させた。
「中にいろよ」
 そう淳に言うと車外に出て空を見上げた。まだ星は出ていない。
「チェッ、これじゃあ方角もわからねえや」
 最新技術の詰まったISO の車両だが、それが今はアナログに頼るしかないと思うと可笑しくなった。
「ジョー」ドアが開き淳が降りてきた。「通信機も使えないわ。私のもトランポのも」
「なんだって」
 ジョーは左腕のブレスレットを見た。この理由(わけ)もわからぬ状況でブレスレットを使いたくはなかったが、
「こちらジョー。健、応答してくれ」だが、ノイズはないもののブレスレットからは何も聞こえなかった。「どうなってるんだ、おい」
「さっきのところに戻った方がいいかしら。あそこなら研究所のG スタッフが場所を押さえているわ」
 だがここは細い山道の途中だ。とてもUターンはできない。
 ただ迷子になっただけなら ─ それも格好悪いが ─ まだよいが、今はトランポにGメカを積んでいる。
 こんなところをギャラクターに襲われたら・・・。
 淳は緊張した。
 G スタッフである彼女はGメカを、そしてかの5人を守らなければならない義務がある。

 今はG2号機とジョーを・・・。


                            つづく
  

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2015.03/17(Tue)

掴んだものは(ep.S)


 あげるわ 

 あなたが掴んだものは、あなたのものよ

 おれが掴んだもの? あの時おれは何を掴んだ? ピンクの袋とあいつの・・・

「わっ」
 突然視界が開けた。暖かい日差しが差し込むここは・・・。
(寝てたのか、おれは。いい度胸してるじゃん)
 目の前のテーブルには教科用のタブレット。が、画面は真っ暗だ。タッチペンはどこへ行った?
 ふと辺りを見回し、ここがカフェの隅っこだと気が付いた。
(いつからここにいたんだっけ)

 あなたが掴んだものは、あなたのものよ

 ・・・あの時おれは何を掴んだって? ピンクの袋とあいつの・・・あげるって・・・。
「いらねー」
「コーヒーじゃなかったのか?」
 見るとカップを2つ持った健が怪訝な顔を向けていた。
「いや・・・」傍らに置かれたカップに手を伸ばし・・・ふと中味を見ると、「おい、こいつは何だ?カフェ・オ・レみたいだが」
「ご名答」
「ごめーとーじゃねえ。なんでミルクコーヒーなんか─」
 ジョーが頼んだのはブラックだ。ミルクを垂らす事はあっても、こんなになみなみとは入れない。
「疲れているみたいだからさ。そういう時は甘いものがいいんだぜ」
 ちなみにおれはブラックだ、と言う健をぶっ叩いてやろうかと思ったが、
(そういえば、あの時のチョコレートはどうしたっけ・・・)
 朝倉という名のあわて者の・・だが不思議と憎めない小柄少女から貰った・・・いや、押し付けられたチョコレート。こんな物を貰う謂れはないのだが。
 しかしあいつ、いい角度で角を曲ってきたよな。さすがのおれも避け切れなかった。メカニック希望なら車が好きなのか。
「不気味だぞ、ジョー」
「え?」
「ストック・カーの構造図を見ながらニヤけるな。さしずめ明日の事でも考えていたんだろうが」
「明日? 定期テストの初日で何でニヤけなきゃならないんだ」
「テストか。そういえばそうだったな」
 タブレットと何冊かの本を前にするジョーと違って健は何も持って来ていない。テキストは全部頭に入っているとか。余裕じゃねえーか、こいつ。
「初めて貰ったんだろ、ジョー。お返ししないとな」
「仕返し?」
「・・・ケンカ売ってどうする」
 ため息をつきカップを口元に寄せる健は傍から見るだけなら格好いい。そーいう趣味はないジョーもつい見惚れてしまう。現に店内にいる女の子達のため息も聞こえる。
「とにかくおれは忙しいんだ。横でゴチャゴチャ言うな」
 再びタブレットに向かうジョーに肩をすくめた健は、手をつけていないカフェ・オ・レを自分の方に引き寄せた。

「いよいよ明日ね。なんかドキドキするわ」
「そう? あたしなんかビクビクよ、マージ」教科書を見ながら大きなため息をつく淳。「専門用語が多くて覚えきれないわ。これで実技が入ったらどうなるんだろう」
「そうね。でも新学期から移る特殊科専科になったらもっと─ ってそれどころじゃないのよ、明日は。もっと大事な、運命の分かれ道だわ」
「?」
 明日は定期テストの初日だ。及第点を取れないと希望の専科へは行かれないかもしれないのに、それより大事な事って・・・。
「先月に話したでしょ。ホワイトディよ。鷲尾健からの返事が来るわ」
「・・・・・」
 つまり淳はジョーからの・・・。
「OKのお返しはキャンディかクッキーよ。ううん、どっちでもいいわ、健から貰えれば」
「なんでソレなの?」
「知らない。昔からよ。バレンタインはEU圏、ホワイトディはアジアの島国から来ているらしいわ」
 よくわからない。とにかく自分には関係ないと淳は思った。
 あのジョーがキャンディかクッキーを持っていそいそと女の子の元に向かう姿なんか想像したくないし・・・いや、考えただけでも怖い。
 それより今はただ彼と同じ学科に進める事だけを考えなければ。
 だけど、
(・・・あのチョコ、美味しかったのかしら)
 バレンタインを過ぎたら販売がなくなってしまった。気になっていたのに淳は口にできなかった。
(せめて味の感想ぐらい聞きたいな)
 もちろんジョーに訊く事なんかできないが、それを口実に呼び出して・・・無理だ。
 あたし、いつからこんなに気が弱くなったんだろう。ジョーが絡むと自分のペースが保てない。
「ねえ、淳。この速度計算だけど─」
 数式を示され現実に戻された。

 学務課のデジタル掲示板の前にはかなりの人が集まっていた。
 右側には定期テストの追試者名と追試日時、左側には新学期から新しい科に転科する許可が下りた生徒のIDがズラーと並んでいる。
 やったー! と喜ぶ者、ガックリと肩を落として友人に慰められている者─。もっともネット上でもこの発表は見られるので、ここに来ているのはほんの一握りなのだが。
『学務課に荷物が届いているから取りに行けよ』
 と、健からの言伝に出向いたジョーはその喧騒に巻き込まれていた。
 彼らも今回は特殊科の専科に転科となる。が、2人のIDは掲示板にはない。入学した時から決まっている事なのだ。

「ジョー・南部くん?はい、これです」
 事務員から渡されたのは両手で軽く持てる大きさの白い箱。保護者である南部の別荘の住所からだ。
 定期的に送ってくるもので、下着や南部が選んだ参考書などが入っている。今回もそうだろう。
 礼を言って受け取りなにげに開けてみると─、
「なんだ、これ?」
 男の子への、色合いの少ない荷物の中身。その1番上に乗っている花々が散るピンクの袋。
 摘み上げると特徴のある字で、〝元気ですか。可愛いJへ〝 と書かれたカードが付いている。
「クッキーか。もう食わないのに」
 字の主は別荘のメイド頭のマリサ。別荘で世話になっていた頃は彼女が焼いたクッキーをよく食べていた。
 寄宿舎に入った後も、時折荷物の合間に入れてくれるのだが。
(ま、いいや。健なら食うだろう)
 恐らく彼への荷物にも入っているだろう。1つも2つも変わらないさ。 
 学務課を出て、まだ騒いでいる学生達を避け─ ふと足を止める。

「あ」
 びっくり眼(まなこ)の少女がいた。
 ジョーは反射的に顔をしかめる。すり抜けようとするのを少女が呼び止めた。
「あの・・ありがとう」
 顔をしかめたまま自分に向き合うジョーにちょっと身を引いたものの、淳は顔を上げ真っ直ぐにその黒い瞳を彼に向けた。
「登録用紙を学務課に届けてくれて。おかげで転科できたわ」
 特殊科の専科に? 来るのか? それもストック・カーのメカニック希望だったな。
「なかなかお礼が言えなくて。えっと・・・それだけなんだけど・・・」
 ジョーが何も言わないので話が続かない。
 ぴょこんと下げた淳の頭が途中で止まる。箱の中のピンク色が目についた。
 誰かからのプレゼントだろうか。バレンタインはもう過ぎた。お返しのナントカデーも3日前だったか。
「これは─」
 淳の視線に気が付いたジョーがなぜか目元をちょっと染め、怒ったような口調で何か言おうとしたが─。
「やる」
「え?」
「やるよ」
 ほら、と箱を差し出され・・しかし躊躇している淳に豪を煮やしたのか、ふいにピンクの袋を掴んでポンッと上に放った。
「あっ!」両手を差し出し受ける。「・・・いいの?」
「掴んだものは自分のものなんだろ?」
 ちょっと違う。が、目元を緩めニッと口元を曲げたジョーは眩しいくらい魅力的だ。海のような青い瞳に自分が映る。
 淳はとっさに下を向いた。顔を上げるとすでにジョーはいなかった。

 袋の中身は1つ1つ丁寧に包まれた明らかに手作りのクッキーだ。
 お母さんが作ったのかしら。いいのかな、貰っちゃって。カードも付いているのに・・・。
 え、〝可愛いJへ〝 ? Jってまさかあたし? これってやっぱりナントカデー? 
 思わず奇声を発しそうになった口を押さえて、ライバルの女の子に見つからないようにと淳はピンクの袋を素早くジャケットの内に押し込んだ。


 
                           おわり










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2015.02/22(Sun)

困惑(ep.G)


 メインストレートを走り抜ける青い車のエキゾーストノートと、巻き起こる熱風とが淳を押し包んだ。が、次の瞬間、そこから放り出される。
「うわあ!」思わず声を上げ、もう遠い青い車のリアに眼をやった。「いいわぁ。いい走りをしているわ」
「もう5回目だよ、淳」G2号機担当のメカニックチーフのバレンが苦笑した。「我々はレースを見に来たんじゃないんだからな。ちゃんとデータを取ってくれ」
「はぁい」
 チロッと舌を出し淳が頷いた。

 ここはユートランド郊外のサーキット場だ。今は本レース前の予選。ここでのラップタイムが本レースでのグリットポジションを決める。狙うは当然P・P(ポール・ポジション)だ。
「でも、プロのレーサーではないジョーの参戦をよく許してもらえましたね」
「スポンサーのひとつがISOだからね」目の前を青い車がすっ飛んで行った。「ラップタイムは1分39か。まあまあだな」
 コンピュータのモニタに映し出された数字をバレンが記録して行く。
『タイムはどうだ?』
 ジョーからのチームラジオ(通信)だ。車内モニタでコクピットが映し出される。
「現在トップタイムの5号車との差は+0.22」
『フン、そのくらいすぐに追いついてやるさ。スピードを上げてもいいか、バレン』
「いや、あと2周は今の速度で走ってくれ。データを取っている」
『そんな事したらP・Pは取れねえぜ!』
「2周したあとだったら好きに走っていいぞ。1周もあればトップタイムが取れるだろ?」
『・・・言ってくれるぜ』不敵に微笑むジョーが見える。『メカニックチーフのご期待には答えなきゃいけねえよな』

「ブルーコンドルのタイムが0.02上がりました」
「・・・しょうがないなあ」チームラジオを切りバレンがぼやいた。「ま、許容範囲かな。淳、引き続きデータを取ってくれ」
「はい」
 淳の指がキーボードの上を走る。疾走するブルーコンドルのあらゆるデータが記録されていく。これらのデータをフィールドバックしGメカのエンジニアやメカニックがG2号機のさらなるグレードアップを図るのだ。
 そのためのデータ取りだとわかっているが、淳の目はどうしてもジョーを追ってしまう。今はコンピュータのモニタに目を向けないといけないのだが。

「よし、ジョー。速度を上げろ。好きに走っていいぞ」
『ラジャ!』
 弾むジョーの声。
 今はピットからコース上のブルーコンドルは見えないが、大型モニタが前を行く5号車をコーナーでオーバーテイク(追い越し)する2号車を映し出している。
 この分なら午後からの本レースのP・Pは取れるだろう。ジョーもブルーコンドルも絶好調だ。が、

(あら・・・)
 淳が大型モニタを凝視した。チームモニタなので、そこには常に青い車が映し出されている。
 好きに走っていい、と言われたジョーは彼の持てるだけのソーイングでブルーコンドルを操っている。その動きになんの疑問もない。なのに─
 淳の目にはブルーコンドルが・・・いや、ジョーが迷っているように見えた。
 変身前のGメカとはいえ、ISOが総力を挙げて設計したマシンだ。他の2000クラスのストック・カーと同等のレスポンスとは思えない。いや、本来なら一緒に戦ってはいけないレベルのマシンなのだ。
 そんなマシンを悠々と操るジョーになんの迷いがあるというのか。

「どうした、ジョー。タイムが落ちているぞ」
 チームラジオのスイッチを入れバレンが言った。
 見ると、5号車をオーバーテイクした後しばらくはトップを走っていたブルーコンドルだったが、今は再び5号車のテイルに付いている。
「メカに何か不都合が出たか」
 だがジョーからの返事はない。通信は活きているはずなのに。
「あいつ・・都合が悪くなると何も言わなくなるからなぁ」
 ひとり言のように呟くバレンの言葉が淳には大きく聞こえた。言いようのない不安感が、気持ち悪さが襲う。

「とにかく、ジョー、次の周でピットインだ」
 バレンの指示が飛ぶ。
 しかしここでピットインすればトップを走る5号車との差はますます大きくなる。
「ピットに入れ、ジョー。データは取った。もう充分だ」
(入らないわ・・・きっと)
 大型モニタを見ながら淳は思った。 
 明らかにブルーコンドルの走りはおかしい。だがそれに気がついているのは淳だけだ。彼女より経験の長いバレンや他のスタッフがそれに気づかない。
 なぜ?
 案の定、ジョーはピットインのボードサインを無視しバレン達の前を走り抜けた。
「こらぁ! ジョー!」インカムに叫ぶバレンが、ふとその手を止めた。「・・・走りが・・おかしいな・・」
「タイヤがきついんでしょうか」メカニッククルーが訊いた。「予定ラップ数をオーバーしていますし」

 サーキット走行では一般道よりタイヤの消耗が激しくなる。グリップの利かないタイヤでの走行はマシンコントロールに支障が出て、ヘタをすると事故に繋がる。
 しかしこの程度の事であのジョーのソーイングが狂うとは思えない。

「あっ!」
 淳の叫ぶ声が響いた。大型モニタにスピンするブルーコンドルが映った。
「どうした! 当てられたのか!」
「いえ、単独スピンです」
「・・単独、だと?」
 バレンとクルーの会話を耳にし、だが淳の眼はモニタから離れない。
 幸い後続車を巻き込むことなく青い車は元の位置に戻ると何事もなかったように走り出した。
「大丈夫か、ジョー」
『・・・リアが・・・ちょっとフラフラする』ジョーが言った。『ナットが弛んだかもしれない』
「たかだかスピンぐらいで弛むような締め方はしていない」
 険しい目をバレンは大型モニタに向けた。
 スピン後の建て直しが適切だったのか、ブルーコンドルは以前と変わらぬスピードでコース上を走っている。
『アンダーっぽい。コースがうまく取れないんだ』
「・・・何を言っているんだ、彼は。あんなに的確にコーナーに入っているのに」
 いつにないジョーの言葉にバレンは首を傾げた。
 見る限りブルーコンドルの走りに異常は見られない。ジョーが言うフラフラした動きも曲りにくいと言っていたコーナーも何の支障もなく、その動きはいつもの彼の走りだ。
「ピットに戻れ、ジョー。もうすぐ予選ラップが終了する」 
 規定時間以上は走れないので今度こそジョーはピットに戻って来た。
 シートベルトを外しフルフェイスを取る。不機嫌なジョーの貌が現れた。チラッとバレンに目をやったが、すぐに淳に向かってヘルメットを放った。そのままピットの奥の控え室に入ってしまう。
 メカニッククルー達はさっそくブルーコンドルに取り付き、本レースに向けての調整を始めた。
 淳も加わろうとしたがバレンが止め、アゴをしゃくった。
 戸惑ったものの淳はフルフェイスを抱えたまま控え室のドアをノックした。返事はない。

「入るわよ、ジョー」
 静かにノブをまわし淳が室内に体を入れた。
 怒鳴り声が返ってくるかと思ったが予想に反し、ジョーは奥のソファに腰を下ろしたままこちらを見ようともせず窓から外を見ていた。
「どうしたの? あなたらしくない迷いがマシンに見えるわ」
「ここからだとコースは見えないんだな」ポツリとジョーが言った。「おれ、うまく走れてねえや。だからコースなんか見たくないと思った。でも・・・見えなくなると不安になる」
「うん」ちょっと頬を緩め淳が頷いた。「私もうまく整備できないと、Gメカなんか!って思うけど・・・でも触らない日が1日でもあると落ち着かないわ」
「ここにいる奴らは皆そうかもな」振り向いてジョーは薄っすらと笑った。「昨日、G計画の詳細を南部博士から聞いた」
「私達マシンスタッフにも説明があったわ。あなた達とは別の部屋だったけど」
「博士が・・・ISOが総力を賭けただけあってクラクラするほどすげえ計画だ。新たなエネルギーの開発、利用。まだ設計図だけの海中基地。それを邪魔する奴ら・・。総力を持って戦わないとならない相手だという事だな。だが、おれにそれが勤まるかと─」
「なに言ってるの、今頃。そのために訓練を受けてきたのに」
「わかってるさ。だけど今のようにうまくマシンを操れないとやはり迷いが出て来る。マシンに自分がついて行っているのかと」
 うまく走れない─ 少なくともジョーはそう思っているらしいが─ のはマシンのせいではなく彼自身の迷いのせいだ。
 いや・・・恐れ、か?
「G計画の初稿を聞いたのはISOの関連校に入る前だった。参戦する事がおれの生きる目的になった。それは今も変わらない。だが・・・」
「あなただけじゃない。皆そう思ってるわ。巨大な相手に対して自分達で太刀打ちできるのかって」ゆっくりと淳が歩を進めてくる。「私だってそう思う。でも誰かがやらなければならない。この計画に賛同し、心をひとつにした人達が。この地球や人々を守るために」
「・・・・・」
 その言葉にジョーは立ち上がった。真っ直ぐに淳を見詰める。手を伸ばし、淳からヘルメットを取った。
「おれは違う。地球や他の奴らなんてどうでもいい。おれの目的はただひとつ─」
「・・・・・」
 青い瞳を淳が見つめる。

   キラ え? なに? 
          キラキラ    潮の香り?     風が頬をなでる 

      キラキラ    鋭い音     何の臭い?     

         ここは、どこ?

 空(くう)を映す淳の瞳に気づかず、その横をジョーが足早にドアへと向かう。
 瞳に黒い光が戻り、ヘルメットを持つその手を淳は思わず掴んだ。力任せにこちらに向かせる。
 だが引っ張れたのは腕だけだった。ヘルメットが床に落ち、甲高い音を上げた。
 ハッと淳が手を引いた。
 長身を屈めジョーがヘルメットを拾う。一瞬、淳に向けた目がかすかに揺らいでいた。  だがすぐに踵を返し部屋から出て行った。
 あとを追って淳も廊下に出た。

 本レースのグリッドポジション発表のアナウンスが聞こえた。


                                                             

                              おわり
  
22:22  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

2015.02/14(Sat)

始まりはやはり廊下から(ep. S)


「淳」教室を出た淳をマージが呼んだ。「何を選んだの?」
「ストック・カー」淳が手元のテキストを見せた。「元々レーシング・カーのメカニックをやりたくてここを選んだんだもん。マージは?」
「迷ったんだけど・・・バイクにしたわ。一番、慣れ親しんでいるし」
 マージの愛車は250CCのバイクだ。
 この国では13才で車やバイクの免許が取れる。もっともその年齢で免許を取るのは稀で、ほとんどが15才以上だが。
「それにしても、セスナにストック・カー、バイクにバギー、ホバークラフトなんて、変な取り合わせよね」
 小首を傾げるマージに、だがそれは淳も同感だった。
 2人はISO専門学校に新設されたばかりの〝特殊科〝の一期生だ。
「健って、なんかセスナのイメージよね」
 突然マージが言った。彼女は鷲尾健のファンだ。
「だったらセスナを選べばよかったのに」
「そうよねー。でもなぜかバイクを選んじゃったわ。食べる?」
「Nai’sのビター・チョコ!」マージが差し出したのは人気店の一押しチョコだ。並び組が多く開店30分で売り切れるという。「ありがとう!」 
「良かったら、全部どうぞ」
「いいの?」もちろんありがたくいただく。が、「食べないのになんで買ったの?」
「1つ2つは食べたわ。でも、今ちょっとウエイトオーバーしてて─」
「・・・だから私にくれるわけね」
 じと・・・とマージを睨む淳だが、チョコの誘惑には勝てない。
「それに、味見の目的は果たしたからいいわ」
「味見?」
「ええ、バレンタインのね」
「バレタ?」
「・・・え?」
「なに?バレタンって」
「なにって・・バレンタインを知らないの? 淳」
「食べた事ないわ」
 お決まりのギャグの会話だ。
「ちょっとー、独身女子として失格よー。それとも淳の故郷にはバレンタインの習慣がないのかしら」
 疑惑の眼で淳を見ていたマージだが、どうやら本当に知らないとわかったのかバレンタインという昔ながらのイベントを淳に説明してくれた。
「おもしろい習慣ね。告白なんていつでもすればいいのに」
「出来る? 淳」
 そう訊かれると弱い。
「とにかく数撃ちゃ当たる作戦なのね」
 身もフタもない作戦だ。
「そして来月にはホワイトディというのがあって、チョコを上げた男の子からお返しが貰えるの。それもお付き合いをOKされた女子だけがね」
「・・・そーなの?」つまり数を撃っても大方が撃沈するという事だ。「マージは健にあげるの?」
「そのつもりだけどハードル高いのよね。淳はもちろんジョーでしょ?」
「ん・・・」いま聞いたばかりのバレンタインの趣旨がよくわからない。それに、「撃沈組になったらいやだから」
「そんな弱気は淳らしくないわ。女子のもっとも大事な勝負の日なのよ」
 ガシッ! と腕を掴まれ・・・結局淳はマージに引っ張られ、学校に1番近いスイーツショップへ連れて行かれた。

(またくマージったら強引ね)
 抱えているたくさんのテキストやモバイルとはまったく別次元のピンクの小さな紙袋。マージに連れて行かれた甘い香りが充満する店の一押しチョコレートだ。
 ショーウインドに並ぶそれを淳も気になっていた。だがまさか他人にあげるために買うとは思わなかった。
(変な習慣よね。消えていくものもあるのに、なんで残っているのかしら)
〝独身女子の想いはそれだけ強いのよ〝
 マージの言葉にイマイチ納得できない。それに・・・。
 淳には本当に〝バレンタイン〝の記憶がない。生まれ育った場所にその習慣がなかったのかもしれない。
 いや・・実は故郷の記憶さえ曖昧だ。
 なぜだろう。ISO専門校の寄宿舎に入る前には故郷にいたはずだ。
 ・・・いた? 本当に?
 両親の顔は思い浮かぶのに、その他の事はまるで深い霧に包まれたように何も─。
 ブルブルと淳は頭を振った。
 また不安定な、いやな気分になる。考えてはいけない。思い出してはいけない。
 誰かがそう言い・・・ふと手を見る。淳の気分とは反対の明るいピンクの袋。
(これをジョーに・・・)
 似合わないなぁ。ハートが飛び交う紙袋を持つ姿を想像して・・笑えない・・・。
 拒否されたらどうしよう。いや彼の事だ。きっとあまたの女子からもっと高級なチョコを貰うだろう。自分で食べちゃおうかな。
 それに何か忘れているような・・。

「あっ!」
 思い出した。専攻を選んだのはいいがまだ登録していない。事務所が閉まるまであと10分だ。
 淳は急いで学校に戻った。よりによって事務所から遠い入口だ。それこそレーシング・カーのように走るしかない。
 校内に飛び込み教室の前を走り抜け渡り廊下に出る。
 生徒はもう帰ったのだろう。人影はない。
 コーナーをアウト・イン・アウトで抜け─
「きゃっっ!!」
 衝撃を受け跳ね飛ばされた。テキストや登録用の書類が散らばる。
 ポンッとピンクの紙袋が空(くう)を行くのが見えた。大きな手の上に着地した。
 淳の瞳がその手からだんだんと上に移動する。
 服の上からでもわかる逞しい肩、胸。鋭いアゴの線。キリッと結ばれた唇。スッと伸びた鼻梁。そして何者をも寄せ付けない青い瞳。
「ジョー・・・」
 以前にもこんなシチュエーションがあったような・・・。いや、そんなことよりピンクの紙袋が彼の手にある事が問題だわ。
 あれ? それでいいんじゃない? あれは彼のために買ったもの。いやいや、やっぱり─。
 紙袋を取り戻そうと淳が立ち上がりジョーに手を伸ばした。と、体を捻って彼がその手を避ける。
 紙袋が欲しいわけではない。本能的な動きだ。
 が、避けられた淳は目標を失い壁にドンと手を付いた。そのままヘナヘナと床に座り込む。
 と、ガツッと腕を掴まれ強引に立たされた。
 目の前にあの青い瞳が見える。お互いどうしていいのか・・何を言っていいのかわからず無言になる。
 耐え切れず下を向いた淳だが、持ち前の気の強さに頼りアゴをクイッと上げ再びジョーに眼を向けた。
「あげるわ」
「─ え」
「あなたが掴んだものは、あなたのものよ」
「・・・・・」       
 状況がよくわからずただ眉を顰めているジョーにふっと微笑むと、淳はスルリと彼の手を抜けた。
 ピンクの紙袋を提げたままのジョーに背を向け足早にその場を去る。

「なんだよ、あいつ」
 ジョーの眉間のシワがますます深くなる。紙袋の中には、やはりピンクのリボンと包装紙に包まれた四角い箱が入っていた。
「まさか爆発物じゃねーよな」
 ふと廊下の隅のゴミ箱が目に入った。ヤバイものだったらシャレにならない。捨てちまった方がいいかも─。

「ジョー」振り返るとテキストや書類を抱えた健がいた。「もう登録は済んだのか」
「ああ」
「何を選んだんだ」
「ストック・カー及びレーシング・カーだ」
 当然だろーと、ジョーが健の抱えている書類に目を向けた。
「おれは航空機にした」
「ま、それも当然か」
「お、バレンタインのチョコレートか? 気の早い娘(こ)がいるんだな」
「バレタン・・・なんだって?」
「バレンタインだ。え? 知らないのか、ジョー」
「チョコレートの種類か?」
「独身男子としては・・・残念だな」
 ちょっと微笑み健が腰を屈めた。床に落ちていた書類を拾う。
「特殊科のIDだな。それもストック・カーのメカニック希望─」
 さっきの女の子かとジョーが眉をしかめた。と、
「・・・あさくら」
「どうした?」
「・・いや、なんでもねえ」
 特殊科のメカニックを希望しているのなら、いずれ自分達と共に〝仕事〝をする事になるのか。
 いや、専攻したからといって必ずISOに入れるとは限らない。
 おれと健はG計画のメンバーになれる。だが─。
(・・・朝倉)
 字は違うが、これも〝あさくら〝と読むのだ。
 今は〝南部〝と名乗っている自分だが、本当の名は浅倉─ ジョージ・浅倉─。
「これって確か今日までだよな。事務所に持って行ってやれよ、ジョー」
「やだよ。なんでおれが─」
「大事なメカを、いや、命を預ける相手になるかもしれないぜ、この娘」
 そう言うと健はジョーの胸に書類を押し付けた。

(うわ~~、渡しちゃったわ~。どうしよう~~)
 焦ったところで最早どうにもならないが、淳の頭の中ではあーでもないこーでもないと不毛な想像が渦巻いている。
 マージの手前チョコレートを買ったが渡すつもりはなかった。
 ジョーの事は気になる。できれば親しくなりたい。だが・・・本当にそれだけか?
〝気になる〝というのは・・・彼に恋してるだけなのか。それとも・・。
「あっ!」
 登録の手続き! あと2分しかない!
 淳は踵を返すといま来た廊下を走り出した。


            
                               おわり


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