2011.02/22(Tue)

海峡

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「変装してるって・・すぐバレるな」
 クローゼットの鏡に映った自分の姿にジョーは苦笑した。だが今はこれが精一杯だ。
 ジョーはクローゼットを閉めルームキーを手に部屋を出た。
 ホテルのフロントに荷物を預ける。またここに戻って来られればいいが。

 半島のつま先に位置するこの街は彼の故郷の島に渡れる唯一の場所だ。他の島々には本土からいくつもの航路があるのに、故郷の島に行くには個人で船を頼むかまたは列車ごと積みこんで海峡を渡るフェリーを利用するしかない。
 橋か海底トンネルを作ろうという話は何回もあったがそのつど頓挫している。あまり便利になるのは良くないと、かの組織が潰してきたのだろう。
 ジョーはレンタルした車で港に向かった。が、フェリーは5分前に出航したばかりだった。なぜかホッとする。
 こうして変装までしたのに、ジョーの心の中にはまだ迷っている自分がいた。
 遥か海上に浮かぶ故郷の島。今日は天気は良くないがその姿ははっきりと見える。
 10年ぶりだ。
 だがあの島は自分にとって安息の地ではない。それどころか再び本土の地を踏めるか どうかもわからない。
 それでも確かめなければならない事がある。
 
 故国の島には教会は一軒しかない。そこの神父からの手紙を見つけたのは、まだ「G計画」が始まる前のある日、南部博士から頼まれ書類を取りに書斎に入った時だった。
 書類入れの一番上に乗っていたハガキ。懐かしい故国の文字。いけないと思いながら 手に取った。目が勝手にそれを追って行く。
 内容は南部から送られた寄付金のお礼だったが、この時ジョーはなんとも思わなかった。

 かなり後になってジョーは南部にその教会の事を訊いた。南部はちょっと考えていたが、やがて
「ここは君のご両親のお墓がある教会だよ」
 と言った。
 両親の墓が故郷の島にある事は聞いていた。いつだったか、ジョーは南部に墓参りに行きたいと言った。が、南部は許してくれなかった。

 ジョーはさらに訊いた。どうして自分は島に─両親の墓参りに行ってはいけないのか、と。
 なぜかわからないがギャラクターはジュゼッペ一家の命を狙った。もしジョーが生きていると知ったらまた狙われるかもしれない。南部はそれを心配しているのだろう。
 しかしあれから10年が経っているのだ。たとえ子どもの頃のジョーを知っていたとしても気がつかない、と思った。
 すると南部が言った。
「君は父親にそっくりだからね」
 
 南部が許さなかったはずだ。
 おれはただ命を狙われていただけではなく、裏切り者の子だったんだ。

 港に人が集まって来た。そろそろ次のフェリーが着く頃だ。
 ジョーは無意識に、ホテルで手に入れた帽子を顔を隠すようにグッと下げた。
 この帽子が昔はマフィアの象徴だと知ったのは購入した後だった。迷ったが変装には  自信がなかったのでそのまま被る。
 ふと海面に目をやると何かに反射したのか無数の光がジョーの目を刺した。

「なぜおれは助かって生きているのか!」

 海面に光が散った。突然、目の前に炎が見えた。
 マリンサタンで潜った海底のあの暗く冷たい・・熱い・・光が・・。
 今まで記憶の底に押し込めてきたものが浮かび上がってくる。あの避暑地での出来事。

 (おれは南部博士に助けられたんだ)

 テーブルに俯す両親を見てジョージはとっさに銃を取った。仮面の女に近づいて行く。  大きな音がした。
 その後の記憶がない。覚えているのは大きな腕と暖かい胸に覆われ─。
 他人のはずの南部が自分と関わっている事をみれば、自分はこの人に助けられたのだろう、とは思っていた。しかしその時の話を南部から聞いた事はない。

 海の底の、炎の中で叫んだその日を境にジョーはあの悪夢を見なくなった。
 理由はわかっている。真実を知ったからだ。

 フェリーが着き、その到着を待っていた列車がゆっくりとフェリーに飲み込まれていく。
 ジョーは係員の誘導に従って車をフェリーに乗り入れた。タラップを上がりデッキに出る。と、ジョーの目が再び島を捉えた。
(それにしても、両親の墓がBC島にあるなんてな)
 故郷なのでそこに墓があるのはあたりまえだと思っていたが、真実を知った今、ギャラクターを裏切った両親の墓がBC島にあるのは不思議だった。
(もしも・・もしもカッツェが両親を暗殺するよう命令しなかったら、今頃おれは奴の部下だったかもしれない)
 防波堤を出たフェリーの船体に波が当たる。いつもは静かなこの海が今日は朝から機嫌が悪い。おれが戻って来たせいか?と、ちょっとすねてみる。
 感傷的になっている自分に苛立ち、ジョーはサングラスを掛けた。
 自分は今、生まれ故郷の地に向かっているのだ。だがどうしても〝帰郷〝という気がしない。生まれ故郷に行く事はできても、帰る事はできない気がした。
 わけもわからず故郷から出て、そして今は敵対しているこの身─。
 そのせいか?

 急に大きくなった島、もうすぐ着く。
 気弱な心は捨てるようにジョーは顔を上げもう一度島を仰いだ。

 下船のアナウンスと共にジョーはタラップを下りた。 


                                                                                              おわり
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