2011.06/21(Tue)

運命の輪がまわる時(ep.R)

よお」
 サラダを食べようと大きな口を開けていた淳は、ふいに声を掛けられ思わず口を閉じた。声の主はそのまま彼女の目の前の席に腰を下ろした。
「ジョー」カツンとフォークが皿を叩いた。「“ここ、いいですか?”と聞いてから座るものよ」
「・・・いいか?」
 もう座っている。
 淳は小さく息をついた。と、彼の前に置かれたトレイに目が行った。
「おやつ?」
「え?」
「トレイの中身よ。まさか夕食じゃないでしょ?」
 ジョーが持ってきたトレイにはひとくち大のハンバーグが2つ、ロールパンが1個。そしてハーフサイズのサラダに野菜ジュース。
「こんな時間に食うと太るぜ」
 ジョーは淳の手元を見て言った。そこには分厚いハムステーキとエビフライのポテト添え。クロワッサンが2個。そして大盛りのサラダにミルク。
「重労働なのよ。これくらい食べないと持たないわ」
 だがジョーの前で大口を開けるのは勇気がいる。淳はステーキをいつもより小さめに切った。
「あなたはそれでつの?」
「ん・・・」
 ロールパンを2つに割り、だがなかなか食べようとはしなかった。
「訓練がきついんでしょ。あのメカを乗りこなすだけでもかなりの訓練が必要ですもんね」
 訳知り顔の淳にジョーがきつい目を向ける。だが反論しないところをみると、その通りなのだろう。
「私達もあのメカを整備するために特別な訓練を受けたわ。だから良くわかるの」
「・・・・・」
 それでもジョーの顔は、女になんかわかるものか、と言っている。ちょっとカチンときたが淳は何も言わなかった。
 ISOの研究施設は24時間活動している。時計の針は夜の10時を指しているが、まだまだ多くの研究員や技術者が各自の仕事をしているのだ。が、食堂はすいていた。
「ところで、お前がおれのメカの担当になるのか?」
「まだわからないわ。決めるのはメカニックリーダーのマイケルですもの。今、各メカごとにチーム分けをしているところなの」
 ふうん・・・とジョーがグラスに口をつけた。
「じゃあ、お前もこの中に住んでいるんだ」
「ええ、研究施設の寮よ。近いし食堂が遅くまでやっているので助かるわ」
「今度遊びに行ってもいいか?」
「単身者用の女子寮よ。男性は親族しか入れないわ」
「兄貴だって言うよ」
「なに言ってるの。同い年のくせに」
 ジョーはチェッと舌を鳴らし、ふと
「なんでおれの歳を知っているんだ」
「歳だけじゃない。名前だって知ってるわ。ジョー・南部くん」
「・・・・・」
 一瞬唇をキュッと締め、だが何も言わないジョーに淳は、“あら?”と思った。これは年齢や名前を知られた事に対しての反応ではない。
「そういえば、まだお前の名前を聞いてなかったな」
「そうだった?朝倉 淳よ。でも純粋な日本人ではないの。クォーターかしら」
「あさくら・・・」
 そう呟くとジョーはまた黙ってしまった。いつもの彼らしくない反応に淳も戸惑っている。が、
「まだレポートが残っているんだ。じゃあな」
 ほとんど手を付けていない〝夕食〝のトレイを手にジョーは立ち上がった。そして淳が口を開くより早く、クルリと体を翻し足早に食堂を出て行った。
 テーブルにはジョーが口をつけたグラスだけが残されていた



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