2011.08/22(Mon)

その笑みに(ep.S)


「あ~、やっとレポートが上がったわ。疲れた~」
  図書館なので大きな声は御法度だが、今淳を責める者はいない。周りにいる友人達も同じ思いだからだ。
「でもなんでエンジニアの勉強までするの?私達はメカニック志望なのに」
 パソコンにしっかり保存したのを確かめ、ソフィアが言った。
「ISOで仕事をするならメカニックだのエンジニアだのとひとつの事しか出来ない人材は要らないんじゃないか」
「そんなぁ」
「無茶言うわよね」
 黒(?)一点の直人が言うのへ、周りの女の子達が文句の声を上げる。
「実際そんな話を聞いた事があるんだ。専門的な事は無理でも少しでも齧っていないと─」
「お腹すいたわ」ボソッと淳が言う。「学食はもう閉まっているわね」
「チェッ、おれがせっかく良い話をしてやろうと思ったのに」
「だって昼も食べてないんだもん。痩せ衰えてしまうわ」
「あ、それなら大丈夫」
「淳が痩せるまでには何十年と掛かるわよ」
「なによ、それ!」
 今度は周りから冷たい視線が飛んできた。彼女達はそそくさと図書館を後にした。

「ねぇ、駅前のカフェに行かない?あそこならまだやってるわ」
 広大な敷地を持つISO直属の専門学校は郊外にあり、おまけに駅からも離れているので付近の店が閉まるのも早い。淳の言う駅前のカフェでさえ21時には閉まってしまう。
 結局女の子2人と直人が淳に付き合う事となった。もちろん自分達も空腹だ。

 カフェはすいていた。さっそく各自が注文する。
「よかった、これで痩せ衰えなくて済むわ」
「だから、それは心配ないって」
 自由に声を出せるのは気持ちがいい。店内は淳達を入れて3組ほどのお客が─、
「あ」
 奥のボックスにその人はいた。今まで観葉植物に隠れ、気がつかなかった。
 そのブルーグレイの瞳がこちらを向いている。しかし淳を見てるわけではない。その瞳は彼の前に座る人物に向けられている。
(健、だわ)
「あら、健とジョーじゃない」ソフィアが気がついた。「あの2人、いつも一緒ね」
「怪しい関係じゃないかって言う奴もいるぜ」
「まさかぁ」
 いや・・あるかも。
 健の周りはいつも女の子でいっぱいだ。そんな時ジョーは少し離れた所にいる。女の子達を避けているように見える。
 淳は最近まで、あの怖い顔のためかジョーにまとわりつく女子は少ない、と思っていたが─。最近になってそれが間違いだとわかった。
 ジョーのファンはけっこういる。健に勝るとも劣らないくらいに。ただ彼女達は健のファンのようにあまり表には出ないのだ。じっと遠くから見つめている・・・ただそれだけの子が多い。
 かく言う淳もその1人だ。

 後ろを向いている健の表情はわからないが、ジョーの目はきつくその顔も険しい。
(なんでいつもあんなに怖い顔をしているのかしら)
 まるで周り中が敵だと言わんばかりに。
「なにをぼさっとしてるの。淳のピザが来たわよ」
「わあ、おいしそう」
 淳の目がジョーから離れる。さっそく手に取りパクついた。
 トロリとしたチーズと口当たりのいいマッシュルーム。空腹も手伝ってか、淳だけではなく皆が手を伸ばす。
「あたしのピザよ」
「一緒にISOに勤めたら、〝同じ釜の飯を食う〝仲になるんだぜ。硬い事言うなって」
 こーいう時に使うのかしら?日本語のことわざって難しい。
 淳はさらにピザにパクついた。
 と、遠くに見えるジョーの目がふと和み、その頬に薄っすらと笑みが浮かぶのが見えた。
(・・あ)
 トキンと胸が跳ね、ピザをくわえたまま淳の動きが止まった。
 始めは自分を見て笑ったのかと思ったがそうではない。彼の目は相変わらず健に向けられている。
(笑うんだ・・・彼・・・)
 たとえ自分に向けられた笑みでなくてもジョーの柔らかい貌を見られたのは嬉しい。
(あんなに素敵な笑みなのに、もったいないなぁ)
 ジョーはもう笑ってはいなかった。再び怖い・・・いや、真剣な貌を健に向けている。
 もっと見ていたかったなぁ。
(でも、あたしだけかな、見られたの。だったらいいや)
 ふと見ると皿の上のピザはもうなくなっていた。
 淳は恨めしそうに友人達を睨んだが、ダイエットになったと思って諦めた。


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