2013.06/06(Thu)

彼とTシャツとあたしと(ep.G)


「うひゃあ、冷てぇ!」
 青い車を洗車ついでに自分も水を浴びてジョーは声を上げた。
 だが慣れてくると気持ちがいい。
 首の後ろから入った水は、やがて捲り上げたTシャツの裾から日焼けした肌を通って滑り落ちてくる。日の光が反射し、まるでジョーの体が輝いているようだ。
「ほら、おまえにも」
 再びホースの先を愛車に向け勢いよく放つ。ジョーの至福のひと時だ。

 昨日のレースではわずかの差で優勝を逃してしまった。
 その前日まで任務が立て込み、ろくろく整備しないまま参戦したレースだ。無理もないといえばそうだし、自業自得といえない事もない。
 しかしジョーは、参戦できるチャンスがあるなら少々無理をしてもレースに出る。いつ出られなくなるかわからないからだ。
 たとえ小さなレースでもジョーにとっては大事な一戦だ。
 そう考えると優勝を逃したのは惜しかったなぁ・・。

 ひとしきり水を浴びると、ジョーは濡れてしまったTシャツを脱いで木の枝に引っ掛けた。スラックスも脱ごうとし・・・だが手を止めた。
 彼がその住処であるトレーラーハウスを停めているのは、ユートランドの外れの南部博士の私有地だ。 
 郊外とまではいかないが高台にあり背後は山なので、私有地とは知らなくて迷い入んで来る人もいるかもしれない。
 もちろんここで裸になっていても責められるのは侵入者の方だが。
 ベルトは緩めたままとりあえずスラックスを脱ぐのはやめた。と、坂道をこちらに向かってくる車のエンジン音が聞こえた。
 ここへ来る人間は限られている。だがそれは健やジュンのバイクでも、ジンペイのバギーでもなかった。

「ジョー」
 停まった車から降りてきたのはG2号機のメカニックの淳だった。だが、そのまま固まっている。
「どうしたんだ?」
「・・い、いえ・・・別に・・・」
 上半身裸のジョーを目の前に、淳はちょっと目を背けた。
 鍛え上げられた体に流れる水の珠。額や首に貼り付いた濡れた髪・・・。淳の目には眩し過ぎる。だから、
「見て、ジョー。私の車よ」
「へぇ、カーズ社のレディバードじゃないか」
 つい1ヶ月前に発売されたばかりの車だ。
 1300CCと排気量は小さいが、トラクションやレスポンスに優れ、排気量とは反比例する走りの良さと、小型車には珍しいシャープなフロントノーズで女性はもちろん男性にも人気の車種だ。
「ま、おれにはちょっと物足りないが、なっ」
「ブルーコンドルと一緒にされても・・・」淳はレディバードの青い車体に手を掛け、「ねっ、コンソールを見て」
「560!?」頭だけ車内に突っ込みジョーが声を上げた。「こんな小型車が・・・なんで560キロのメーターが付いているんだよ!」
「やだ、忘れたの?ISOのメカニックなのよ、私」
 ジョーの驚く顔に満足して微笑む淳に、う・・・とジョーが唸った。
 市販のレディバードをベースにISOのメカニックが・・・いや、ごり押しする淳の要望とおりに改造したのだろう。
「お前にこんな車を与えるなんて、ISOの奴らは無茶無謀だな」
「あなたにだけは言われたくないと思うわ」
 減らず口を叩くようになったな、こいつ・・・とジョーは思ったが、どっちみち口では勝てない相手だという事も自覚している。

「よし、ちゃんと改造されているかどうかおれがテストしてやる」
「私はメカニックのプロよ」
「おれは運転のプロだ」
 運転席に体を滑り込ませジョーがスターターボタンを押した。
「へぇ、吹き上がりがいいじゃん。1300にしては─」続いて助手席に着く淳に言ったが、「まさかエンジンもいじってンのか?」
 ニッと口元を歪める淳に肩をすくめステアリングを握る。純正のカバーではなく、硬くステアリングそのものの感触に、こいつも車が好きなんだなぁと思った。
「オートマかよ。やりにくいな」
「仕方ないわ。元がそうなんだもん」
 さすがにオートマをマニュアルに改造はしなかったようだ。

 と、そう答える淳の顔が赤くなっていた。
 彼は裸だ。上半身だけだが・・・。
 つられて一緒に乗ってしまったが・・・どうしよう。降りようか。

「よし、いくぜ!」
 淳の戸惑いなどまるで気がつかないジョーは、小型車という事もあってブルーコンドルより静かに発進させた。
 敷地の端まで行きステアリングをきった。
「お、いいローリングじゃん」
 100メートル四方ほどの敷地にはジョーのトレーラーハウスしかないので─それも端っこに置いてある─車を走らせるスペースはたっぷりとある。
「ちょっとオーバー(曲りすぎる)っぽいな。リアタイヤを見た方がいい。それから─」
 まだ何か言っているジョーを、しかし淳は聞いてはいなかった。
 車が曲るたびに淳は運転席へと体が流れる。シートベルトのおかげで(?)ジョーには当たらないが、かなり接近する。
 そのたびにほのかに香るジョーの匂いが・・・香ばしい汗の香りと、そっと彼に寄った時に感じる若い男の気力溢れる熱い体となぜか感じる懐かしさと─。

 と、突然車がスピンした。
「キャッ!」
「なっ、オーバーだとスピンしやすいぜ」
 そんな事はわかっている。あたしを誰だと思っているのよ。シートベルトが邪魔だわ。取っちゃおうかしら。
「バックはどうかな」
 ギアがBに入った。ジョーの腕が上がり淳を抱えるように─実際には助手席のシートをだが─大きくまわされた。
 すぐ横にジョーの体がある。いつも見ている胸の「2」の文字はない。
 代わりに見えるのはオリーブ色に焼けた厚く逞しい─。

 淳は前を見たまま固まっていた。この時間が永遠に続けばいいと思った。が、
「改造したばかりでパーツがまだ馴染んでいないようだが、使い込めばいい走りをすると思うよ」
 あたりまえよ。誰がやったと思ってるの。あら、もう終わり?もう一周してもいいのに。
 だが淳のレディバードはあっさりとトレーラーハウスの前で停まった。
 ドアを開けジョーが降りる。うーんと背伸びをした。
「やっぱ名前からして女の車だな」
 助手席のドアが開き淳が出て来た。が、フラフラと2、3歩進みよろける。
「なんだ、だらしないな。これくらいのドライブで」
 誰のせいよ!車は最高よ。ただ・・・。

 フウッと息をつく淳にジョーが手を差し出した。見上げるとニッと口元を曲げたジョーの顔があった。
 もう一度小さく息をつき淳が手を差し出す。が、
「あ!やばい!」
 目の前の手がサッと引かれた。
 身を翻し、ジョーが走っていく。
 その先にはヒラヒラと空高く舞っているTシャツが見えた。


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Comment

●覚書き

気が付いた方もいると思うが、「洗車ジョー」(←勝手にそう呼んでいるだけで本題は違います)を思い浮かべながら書いた話。
robiさまの画は大好きで、オフ会で生絵を見せていただいた時の感激は未だ忘れられない。

もちろん淳(←書き手)の願望もたっぷり!
淳 | 2013.06.06(木) 15:35 | URL | コメント編集

淳さん、こんにちわ(^o^)v

いいタイミングで、お邪魔しました。
素敵なストーリーですね。
ジョーもこうしてみると普通の車好きの青年ですね。
ああ、でも彼は何をしてもカッコ良すぎる…。
何もしなくてもカッコ良すぎる…。

ドキがムネムネな私でした。
ピピナナ | 2013.06.06(木) 16:02 | URL | コメント編集

●あら~いいところで…

こんにちは。
いいところでTシャツが飛んで…。

いいなぁ。
ちょっと自分を淳さんに脳内変換してしまいました。
これから外出しなければならなくて、時間がないのに(爆)

素敵なお話を読ませて戴きました。
妄想のネタが膨らみます。
minako | 2013.06.06(木) 16:20 | URL | コメント編集

●ピピナナさん

うわっ、ピピナナさん、早っ!
いらっしゃいませ。 ← あとからあいさつ

何をしてもかっこいい、何もしなくてもかっこいい・・・ほんと!と激しく頷いてしまいました。

>ドキがムネムネな私でした
うーん、意味深だ。いろいろ想像してしまう♪
ピピナナさんのフィクのように自由な表現!
あちらでは刺激を貰っています。ドキドキ・・・
淳 | 2013.06.06(木) 16:51 | URL | コメント編集

●minakoさん

いらっしゃいませ、minakoさん。

お忙しいのですね。
なのに読んでいただきありがとうございます。

>いいところでTシャツが飛んで…。
誰か、糸つけて引っ張ってないよね?

>ネタが膨らみます
それ、ください。 ← こら!
淳 | 2013.06.06(木) 16:56 | URL | コメント編集

●うふふ

乙女な淳さんのお話だ~e-266
密室でジョーと二人っきりか・・ ←ちょっと違う
淳さんのときめきがこちらにも伝わってきて一緒にドキドキ・・

読み始めてすぐにrobiさんのあの絵が浮かびました。
なんと淳さんはあの絵を生でご覧になったのですね!
私も初めて見たとき(ゆうとさんのサイトで)クラクラしましたわv-10
特に緩めたベルト付近が・・(以下自粛)
へい | 2013.06.06(木) 19:23 | URL | コメント編集

●きゃ~(≧▽≦)

きゃ~(≧▽≦)
うんうん、robiさんのあのジョーが浮かびました(で、見に行っていたので時間がかかりました)
生絵を見たらその場で溶けてしまうでしょうね~~i-80
いいなぁ

淳に代わって運転席についたジョー。シートを目いっぱい下げるジョーか窮屈そうに足をたたむか?迷いますね。
どっちもかわいいv-10

そうそう、バックするときにシートごと抱かれるとドッキリしますよね~~♪
で、一緒に後ろを見るんだ。
顔が限りなく近づく・・
「おめぇはこっちじゃなくてそっちの横をこすらねぇか見てろ」って言われちゃうの。ちぇ・・

はっ!人様のお話で浸ってしまった・・

ジョーのTシャツにはぴょん吉が貼りついているの?(笑)
あ、あと「わたし」じゃなくて「あたし」っていうところが淳さんらしくていいわ♫
響子 | 2013.06.06(木) 20:24 | URL | コメント編集

●へいさん

いらっしゃいませ~。

>robiさんのあの絵
ですよね~。
実はあの絵はノートPCの壁紙になっているんです。
この話の書き始めはもちろんノートPC。すぐに見られます♡

>あの絵を生で
「洗車ジョー」だけではなく何枚か見せていただきました。
その前にさゆりさんの絵を見て、それから「robiの絵はいりませんか(見ませんか)~」って。
気さくなお方でした。

>緩めたベルト付近
そ~なのよ~( ´艸`) 
で、脱がしちゃおうかな、と思ったんだけど・・みなさんの前ではやはり・・・(^.^)
淳 | 2013.06.07(金) 12:54 | URL | コメント編集

●そんな素敵な絵が…

み…見たい♡
と思って、昨夜思わず探してみてしまいましたが、そのお陰で古くからのネット友達の方のジョーイラストを見つけてしまいました!
ビックリです。
淳さんはその方の事をご存知かも?
ネット界狭し!
minako | 2013.06.07(金) 13:59 | URL | コメント編集

●響子さん

>生絵を見たら
缶さんの30周年パーティでした。
なので佐々木さんも森さんもいらっしゃいました♡

>シートを目いっぱい下げるジョーか窮屈そうに足をたたむか
あー、いかん!!そんないいシーンを書かなかった!!
早く言ってよ、響子さん~。
どこかで書いていい?

>バックするときに
これがねぇ・・今だにねぇ・・相手が古相方でも一瞬・・・(^_^;)

>「おめぇはこっちじゃなくて
うおっ、ほほほ・・・。
テレてるのか、ジョー。そのままいったら・・・事故るなあ。

>ぴょん吉が
空も飛ぶのか、あのカエルは!?
いかん・・・映像が浮かぶ・・・。

>「あたし」っていうところが
何かの歌のタイトルのようになってしまったけど、これしか思いつかなくて。
「あたし」もなんとなく・・・こっちだなと思って。
淳 | 2013.06.07(金) 14:19 | URL | コメント編集

●minakoさん

えー、どなたかしら!?

あの方?この方?

世界中に広がるネット界も案外狭いのですね。
その中で知り合えるのは、もはや必然?
淳 | 2013.06.07(金) 14:52 | URL | コメント編集

●いいとも

淳さん

>どこかで書いていい?
あれ?淳さん、どこかで書いていませんでしたっけ?
たぶん私が言いだしっぺじゃないと思うけどこの際ですから(をい)どんどんいってしまってよろしいんじゃないでしょうか!?

最初に書いた人に怒られるときは一緒だぞ(笑)
響子 | 2013.06.07(金) 23:13 | URL | コメント編集

●響子さん

あ、あれ?書いたっけ??
うーん・・うーん・・・。

ダブルの方にはそれらしいこと書いたなあ。← いーかげんな性格

>怒られるときは一緒だぞ
頼もしい~♡
よろしくお願しまーす(^O^)/
淳 | 2013.06.08(土) 14:40 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

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 | 2013.10.01(火) 15:24 |  | コメント編集

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