2013.12/25(Wed)

幽霊の所在


「知ってるか、ジョー。海側の部屋に幽霊が出るんだって」
 大きな空色の瞳をキラキラと輝かせた健が言った。
 普段は真面目な顔をしているくせに・・・決して本心かどうかはともかくとして・・・こーいう時は子どものような顔になるなぁ、とジョーは思った。ま、本当に子どもなんだけど。
「なぁ、ちょっと探検に行こうぜ。ジョーも見たいだろ? 幽霊」
 そんな物は見たくない。というかそれどころではないのだ。
 ジョーは宿題のプリントを前に悪戦苦闘している。
 せっかくのクリスマス休暇で学校の寄宿舎から海の見える南部の別荘に戻ったのはいいが、ジョーの担任はご親切にも宿題を出してくれたのだ。それも先のテストで及第点に達しなかった者だけに。
 島の学校とはレベルが違う。ジョーの学年ではこんな難しい内容はやらなかった。
「お前、宿題はどうしたんだよ」
「宿題? クリスマス休暇に?」
 キョトンとした顔を向ける健に、ああ、そうだよな、こいつはないんだとジョーは顔を背ける。
 ジョーも成績は決して悪くはない。ただ決められた日までにレポートを提出しなかったり、テストの時にこの国の言葉がよくわからず答えを書けなかったりする事が多いのだ。 
「とにかくおれは忙しいんだ。幽霊を見たいなら1人で行け」
 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。こういう事はジョーの領分なのに。
 健はマジマジとジョーを見た。
「熱あるのか? 博士に診てもらおうか」
「うるせえな! あっちに行けよ!」
 ジョーの剣幕に健はすごすごと部屋を出て行った。
 ジョーはイラついていた。宿題のせいではない。クリスマス休暇で南部の元に帰って来たことにだ。

 この国で暮らし、のちに健も同居するようになり、南部は以前にも増して2人をクリスマスに誘うようになった。
 だがジョーは最初のクリスマスは両親と迎えようと決めていた。それはもうできないのはわかっている。
 しかし彼はどうしても両親以外とクリスマスを迎えたいと思わなかった。
 博士も別荘の使用人もあの手この手でジョーを誘う。と、ますます意固地になってジョーは拒否する。毎年これの繰り返しだ。

(もういいかげん諦めてくれればいいのに)
 子どもがジョー1人ならそれでもいい。しかし健がいるので、やはりクリスマスパーティーは欠かせない。
(おれ抜きでやればいいんだ)
 それよりなんでサインとかコサインとかやんなきゃいけないんだよーと、幽霊より理解不能な問題にジョーは頭を抱えた。

 幽霊を最初に見たのは若いメイドだった。
 海側のいくつかの部屋の空気の入れ替えをしようと─別荘には使っていない部屋も多いのだ─ドアを開けたら何か・・人間らしき影が動いた。
 足を止めたメイドは、しかしその後何事もなかったので部屋に入り窓を開けた。
 サッと視界の隅に何か動いた。
 ヒッ! と声を挙げメイドは部屋を飛び出し、すぐに警備に連絡を入れた。別荘内で何か異変があったときはすぐさま警備に連絡を入れる事が決められている。
 メイドの通報で警備員が向かった。が、結果は「異常なし」だった。

 次に幽霊を見たのは夜間警備に回っているその警備員だ。
 例の部屋で動く影を見た彼は恐れる事なくその影を追い詰め─しかし部屋の隅で見失った。 
 壁に溶け込んだとしか思えない状況だった。

「やっぱり出るんだよ、幽霊」
 真剣な目を向け健が言う。宿題のプリントの存在をとうに忘れたジョーが面倒臭そうに顔を向けた。
「ねえ、会ってみたくない?」
「なんでそんなに幽霊が気になるんだ?」
「幽霊って天国から来るんだろ? どんな所か聞いてみたいんだ」
 天国? そんなものを信じているのか、こいつは。
「天国なんてあるもんか。死んじまえばそれで終わりだ」
「ジョーだって聞きたいだろ。だって─」
 急に口を閉ざした健に、ジョーはやっと彼の想いを理解した。
 2年前に健は母親を亡くしている。そしてジョー自身も両親を─。天国にいる彼らの様子を知りたいのか。
(だけどおれの両親は神なんか信じていなかった。天国に行けるわけはない)
 島での生活でジョーは1回も〝教会〝という所に行った事がなかった。もちろん両親もだ・・・と思う。
 だが・・・もしも何かの間違いで天国に行けたのなら、その様子を聞いてみたいかも・・・。
 ジョーは幽霊より天国に興味が出て来た。
「・・・神様を信じていないと天国には行けないのかな」
「・・・よくわからないけど」
「よーし、じゃあ幽霊に聞いてみようぜ」
 ジョーはニヤッと片目を眇める。健の瞳が輝いた。

 幽霊が出没するのは当然夜中だ。メイドも警備員も0時を回った頃だと言っていた。
 そんな時間に屋敷内をうろちょろして南部に見つかれば叱られる。なので幽霊探索は南部がISOに泊まり込む日の夜にした。
 意外に早くその日は来た。

「さあ、ツリーを出しましたよ。飾り付けを手伝って」
 メイド頭のマリサが言った。
 健は生き生きとツリーのオーナメントを手にあれやこれやと悩みツリーに付けていく。
「ほら、ジョーも手伝って」
 運悪くホールを通りかかったジョーにも声が掛かった。
 いつもなら、ふんっと通り過ぎてしまうのだが健が目配せしてきた。今夜決行の幽霊探索まで目立たなく・・・猫を30匹被って大人しくしていなくては。
(おれが大人しい方が怪しまれるぜ)
 そう思ったもののジョーは天使のオーナメントを1つ手にし枝にひっかけるとすぐにその場を離れた。
「あら、ジョーったら・・・嬉しいわ」それでもマリサは喜んだ。「博士もうまくいくといいけど」
「え?」
「い、いえ、なんでもないのよ、健」
 そう言うとマリサは、ちょっと傾いた天使を真っ直ぐに直した。

 照明も暖房も落とした廊下は暗く寒々としていた。
 健もジョーも年齢の割には勇気があるが、シーンと静まり返った廊下に一歩踏み出すのは勇気より勢いが必要だ。
「今のうちに例の部屋へ行こう」
 夜中でも警備員が起きている。あと1時間もすれば巡回の時間になる。
 それまでに幽霊を見て話を訊いて部屋に戻りたい。
(そううまく行くはずないじゃん)健からそう聞いた時ジョーは思った。(こいつ意外と楽天家だな)
 ま、1回2回行けば気が済むだろう。付き合ってやるよ。それに・・・もし本当に幽霊がいて天国の話が聞けるのなら・・・。
 だがジョーはそんな話は信じていなかった。
(もし幽霊が自由にこの世とあの世を行来きできるんなら、なんで健のママやおれの両親は会いに来ないんだ)
「大丈夫だよ、ジョー。こっちは2人なんだから」
 黙り込んでしまったジョーを、怖がっているからだと健は思ったようだ。そこで彼の腕に自分の腕を絡めて廊下に踏み出す。
 怖いのは健じゃないか? とジョーは思った。
 2人はガッチリとスクラムを組んで階段を上がり海側の部屋へと向かった。

 と、空気が動いた。サッと何かが移動したように。
 メイドや警備員が幽霊を見たという部屋のドアがかすかに開いている。
「ぼ、ぼく達を誘き寄せてるのかな」
「なんのために?」
「・・・驚かすために」
 その言葉の方が驚くぜ。
 実はジョーも内心ではドキドキしている。しかし好奇心の方が優った。おそらく健もだろう。2人はドアを開けて素早く体を滑り込ませた。
 室内は暗く、しかし窓からの月明かりで物の形は見てとれた。

「──」

「え? 何か言った?」
 健が訊いた。
「いや、おれは何も─」

「──」

       それは闇の中から聞こえてくる。
           ボォ・・と浮き上がる人影が。大きな人だ。男?
  
   赤い服を着てるぞ。幽霊のくせにハデな奴だ。

     顔は白くてフワフワしてぼおっと─。
            メガネ? 幽霊も近眼になるのか?

 と、その幽霊が目の前に手を出した。まるで誘うように・・・何かを渡すかのように・・・。

 ほっほっほ

 「今の幽霊の声だぜ」
 2人は思わず一歩下がった。

 ほっほっほ 

 だが幽霊は2人に向かって来る。その横に大きな白い物が現れた。子ども1人くらいなら入れるほど大きな袋だ。
「あ、あれで子どもを攫うのか」
 それでは幽霊ではなく人攫いだ。

 ほっほっほ 

 再び幽霊が手を差し伸べる。

「さあ、君達!」突然の大声に2人は飛び上がった。「プレゼントをあげよう!」
「うわー!!」
 そんな物いるもんか!
 2人は勢いよく部屋を飛び出した。

「な、なんで逃げるんだよ! おれは奴の正体を─」
「ジョーが引っ張ったんじゃないか」
「おれはそんな事してねえっ」
 ガタガタと室内から何かが出て来る気配がした。2人はあわてて階段を降りた。

「あれは南部博士がね」翌朝、2人の子どもの冒険を知ったマリサが言うには、「ジョーにクリスマスを知ってもらいたくて、でも毎年躱されているから、せめてサンタクロースになってプレゼントをと思って」
 つまり博士はクリスマスのサンタ役の練習をしていたのだ。
 だが人には知られたくないので深夜、それも使っていない部屋に籠っての役作りだった。
「そういえばこの館には秘密の通路があるって聞いた事がある。幽霊が消えたのはそれか」
「呆れたなぁ、博士ともあろう人が」
「ジョー」
「知っているのは私だけだったけど・・・まあ、確かにそこまでやらなくてもとは思ったわ」皺のよったマリサの目が笑った。「でもね、ジョー。博士の気持ちもわかってあげて。あなたには、いえ、あなた達には子どもらしい時を過ごしてもらいたいのよ」
 いつか訪れる戦いの日まで。
「健だってクリスマスパーティをしたいでしょ?」
「パ-ティなんていいよ。もう子どもじゃないし」
「立派な子どもですよ、健」
「いいんだ。今までだってクリスマスを1人で過ごす事もあったし。だからみんなといつもどおり過ごすのが1番いいんだ。ジョーも一緒にね」
「まあ、健、なんていい子なんでしょ」
 ギュッ、とマリサに抱きしめられ、だからー子どもじゃないってばー! と叫ぶ健。
 ジョーは幽霊に天国の様子を訊けなかった事が心残りだったがそんな事はおくびにも出さず、大人の顔をしてマリサと健を見ていた。


                                      おわり
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Comment

●覚書き

先月の定例22日チャットでのキョーコさんの発言で、それまでまったく考えていなかったクリスマスフィクを思いついた。

夜、家事が終わってからノートPCを引っ張り出して叩いたよ、キボード。
まだ外枠だけ・・・それも途中までだが・・・思いつくことを書いただけでどうなるかわからないが、なんとか話になった。

うちのジョーはクリスマス経験はないしパーティとか苦手だしそのうちヒマラヤへ行っちゃうしで楽しいクリスマスが書けない。

いや、まだ諦めないぞ。博士と一緒にアプローチしてみよう。
淳 | 2013.12.25(水) 17:10 | URL | コメント編集

昨日のお話が淳さんのクリスマスフィクだとばかり思っていました。
わーい♪
今日もこんな素敵なお話が読めるなんて思っていなかったわ♡

>キョーコさんの発言で
ありゃ?私、何か言ったっけか・・←忘れています

しかしこの二人は小さなころから仲がいいのか悪いのか(苦笑)
本編の彼らのクリスマスは任務で毒ガスの匂いを嗅いだりしただけだもんね(違っ)

ジョーや健が小さいということは当然だけど博士も若いわけで・・
微笑ましいなぁ。

ふと博士は子供のころどんなクリスマスを過ごしたのか知りたくなりました。
キョーコ | 2013.12.25(水) 20:53 | URL | コメント編集

●メリークリスマス!

やっぱりクリスマスって子供たちのためかもねー。

淳さんは親御さんだから、子供を書かれると違いますね。
可愛いデス♪

男の子2人ってやんちゃで大変だろうな。博士も苦労しますね。
うちのジョーはクリスマス知っている風になってますが、両親が
ああなので知らないのもうなづけるかも。
kisara | 2013.12.25(水) 22:47 | URL | コメント編集

●遅れての登場で失礼します

子供時代の2人と南部博士の話が読めて良かったです。
一番気に入ったフレーズはこれ。

>猫を30匹被って大人しく

吹きました!
最高です!

こちらではジョーは教会と言う場所に行った事がないと言う設定なのですね。
kisaraさんも言われていますが、私もギャラクターの幹部が教会に行くのか?と言う疑念は持っています。
まあ、アランとの関わりもあるし、私は行った設定で書いているのですけど。

解釈がそれぞれ違うのがファンフィクの醍醐味ですね。
真木野聖 | 2013.12.26(木) 10:35 | URL | コメント編集

●キョーコさん

読んでいただきありがとうございます。

>昨日のお話
こちらが本当(?)のクリフィクで、あちらは突発的な(??)ものなんです。
あ、私も24日が誕生日だ。だったらこれを使わない手はないな、と。

>私、何か言ったっけか・・
それが・・・。これを書いているメモ帳に、「チャットでのキョーコさんの発言で─」とメモしてあったので、なんだっけ?と仕上げる前にログを読みに行ったら読めなくて(スナックJUNに書いたとおり)。
で、今日読めたけど・・・どの発言なのかわからなくて・・ σ(^_^;

>毒ガスの匂いを嗅いだ
あれは本当に危ないよね。毒に対して耐久があるのか、健?
なんかその時に、トンッ!って下りたんだろうね。 ← 大丈夫か?

>どんなクリスマス
子どもの頃の博士や健太郎、ジュゼッペとが入り乱れ、キョーコさんのフィクになる!?
淳 | 2013.12.26(木) 15:55 | URL | コメント編集

●kisara さん

いらっしゃいませ。

自分はキリスト教徒ではないし、日本でのクリスマスしか知らないのでどうしてもその線で書くしかありません。

>子供を書かれると
うちは男の子の双子なので、まさしくかの2人のようで、書く参考になります。
この話は13歳の時なので、もう少し小さい時も書きたいけど・・その時は会ってないもんね。

>知らないのもうなづけるかも
ジュゼッペがどう思っていたかわからないけど、ギャラクターなら教会に行ってお祈りなんてしない(できない?)と思って。

でもおかげで淳は楽しいクリスマスストーリが書けない・・・ (-"-) ← 誰のせいだ?
淳 | 2013.12.26(木) 16:16 | URL | コメント編集

●真木野聖さん

任務の合間をぬっての訪問、ありがとうございます。

>>猫を30匹被って
どこで覚えたのかな、健ちゃん。ちょっと違うよね。 (^_^;)
あの2人じゃ30匹でも足りないと思う。

>教会に行くのか?
これは自作の「Promessa」を書いた時に、「本当にそうなのか」「これでいいのか」と悩みました。
でもやはり奴らが教会で祈っているシーンが浮かばなくて・・。だって十字架の前で発砲するような奴らですもん。
でもこっそり行っていた隊員もいたかもしれませんね。
淳 | 2013.12.26(木) 17:34 | URL | コメント編集

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