2014.02/02(Sun)

時機到来


「また彼かね」渋い顔の学長が、渡された反省文ををデスクに放った。「確か先週のケンカ騒ぎにも関わっていたと思うが」
「ええ、ですがあれは本校の学生が他校のケンカに巻き込まれたのを助けたもので」
「だがそれで15人のした・・・のでは弁解の余地もないだろう」
 はあ・・と息をつく担任から目を離し、学長はもう一度デスクの反省文を見た。
 レポート用紙1枚に書き殴られている文字。一応本校指定の世界共通語で書かれているが、とても反省しているようにはみえない。
 セレンディ校はユートランドでも1、2を争う名門校だ。富裕層や著名人、政府高官の子息も多く通っている。
 彼は決して勉強ができないわけではないが、如何せんケンカっぱやい。本来ならこのような子を受け入れる事はないのだが。
(・・・ISOの南部博士の息子では仕方がない)
 学長は、とても15才には見えないその学生の顔を思い浮かべた。
 南部博士には似ていない。養子だという噂もある。が、そんなことはどうでもいい。
 彼の後見がISOの重鎮である南部孝三郎だという事が大事なのだ。
「同じ後見の子どもでも、もう1人は優秀でなんの問題もないのに」
 そしてあの2人が仲が良い、というのも学長には不思議に映るのだった。

「謹慎3日間だって?」
 ノックをし、しかし部屋の主の返事も聞かないうちにニコニコ顔の健が入ってきた。
「思ったより軽かったな。お前は前科があり過ぎるから1週間は食らうと思ってた」
「フン」ベッドに寝っ転ったままジョーが、まだ笑っている健を睨めあげた。「先に手を出してきたのはあっちだぜ。この前の仕返しだって言いやがって」
「だからって11人ものしたら・・・・マズイだろう」
「12人だ」ムスッとジョーが目を向けてきた。「この前より少ないぜ。それに怪我をさせるようなヘタなのし方・・・はしていねえ
「あたりまえだ。病院送りになんかしたら3日じゃ済まないよ」
 口ではまともな事を言いながら、それでも波打っている健の目を見るとますます気分が悪くなってくる。
「おれは真面目に謹慎してるんだぞ。あっちへ行っちまえ」
「ごあいさつだな。せっかく差し入れを持ってきたのに」健は小さな紙袋をジョーのベッドの隅に置いた。「お前、今日はまだ何も食ってないんだろ」
「・・・・・」
 ジョーはちょっと驚いたように体を起こした。
 普段は気が利かない人間の代表のような健だが、時々妙に心憎い事をしてくれる。付きあい長いしな、おれ達・・・。
「悪かったよ。差し入れサンキューな」笑顔で紙袋を覗き込む。が、「なんだよこれ!本じゃねえか!」
「電子工学の宿題さ。明日までにレポート10枚以上だってよ」
「なんでそんな物を持ってくるんだよ!」
「ちなみに、おれはもう書き上げた」
「・・・え」
 ジョーの双眼が、一瞬期待を込めて健に向けられた。
「無理だよ。同じ内容のレポートじゃあ、すぐにバレる」
「そこはそう・・・うまく書くから─」
「だめだ。電子工学のバーツ先生はISOからの執行だ。甘く見たら大変だぜ」
「死ぬ時は一緒だと誓ったじゃねえか」
「このくらいの事でいちいち死んでいたら身が持たない」
 じゃあ、頑張れよ~と手を振りながら部屋を出て行く健をジョーは止める気力もなかった。

「健」中庭に出ると誰かが自分の名を呼んだ。振り返ると同学年のテリーだった。「ジョー、どうだった? 落ち込んでいたかい?」
「落ち込む? あいつが?」まさか、と健が笑う。「大丈夫だよ。今頃は宿題を・・・いや、していないな、きっと」
「ジョーは助けてくれたのに・・・。彼だけ罰を受けるなんて・・・」
 テリーは先週のケンカに巻き込まれた1人だ。同学年とはいえジョーと面識はなかった。なのに助けてくれた。
「気にする事はないよ。授業に出なくてもいいから喜んでいるさ」
 まだしょげているテリーの肩をポンポンと叩き健が言った。
 ジョーと親しく言葉を交わす人間は少ない。だが決して嫌われているのではない事はわかる。
 近寄り難い風貌の、しかしその実、慕う人間も多い。もしかしたら自分より友人・・は多いのかもしれない。
 健はフッと息をついた。

 謹慎も今日1日で終わる。明日からは寄宿舎はもちろん、校内も大手を振って歩ける。 まずどこへ行こう。カフェでチーズたっぷりのピッツァを頬張るのもいい。
 謹慎中は食事も部屋で摂らなければならなかった。メニューも選べないのだ。
 新製品のドリンクが出たと聞いたし、まずはそれを堪能して・・・。が、今のジョーは眉を八の字にして唸っていた。
「チッ、なんで謹慎中なのに勉強しなければならないんだよ」
 ここは学校なのだから勉強するのは当然だ。だが納得できないジョーはブツブツ言いながらデスクに向かっていた。と、
「ジョー」ノックもなくドアが開いた。「テリーが─」
「テリーがどうしたんだ?」
 入ってきたのはジョーと同じカーメカニッククラブに所属するマークだった。
「リバス達に捕まった。君に来るように言え、って・・おれ・・・」
「なんだと」
 リバスは先週のケンカ騒動の相手だ。セレンディ校の生徒は育ちがよくおとなしいので言い掛かりをつけるには最適なのだ。
「あいつら、性懲りもなく」
「でも君は謹慎中だからって─」
「マーク!」ドタドタと飛び込んできたのは同学年のジュマンだ。「だめだよ、マーク。健に口止めされているじゃないか」
「健? 奴が何を言ったんだ」
 ギッと向けられたジョーの双瞳に、“あっ”とジュマンが口を閉じた。その胸倉をジョーが掴む。
「言え。なんで健が出てくるんだ」
「・・・リバスが君に来るようにと言って・・・それを聞いた健が・・・」
 ガタガタとジュマンが震えている。言葉もうまく発せられない。ジョーの締め付けが強くなる。
「・・・き、謹慎中にそんな事したらマズいだろうって・・・。だから自分が行くって・・・」
「なんだって」
 ジョーがジュマンを離した。すぐさま部屋の隅に逃れる。
「あいつ・・・かっこつけやがって」一瞬動きを止めたジョーが再びジュマンに詰め寄った。「場所を教えな」
 青い双瞳がその鋭さを増した。

「鷲尾健、ジョー・南部」書類から顔を上げ学長が2人を見た。「両名に謹慎1週間を申し付ける」
「─ はい」
 神妙に頭を下げる健とは裏腹に、ジョーはかすかに顔を背けた。だが、そんな彼の態度はいつもの事なので学長は何も言わなかった。
「それから─」代わりに、顔をしかめた学年主任が言った。「2階の第1応接室に行くように。南部博士がお待ちだ」
「博士が?」
 驚いたように健が主任を見た。ジョーの表情も動く。
「すぐに行きなさい」
 主任に急かされ、2人は学長室を出て階段を下りた。
「なんの用だろう・・・」ポツリとジョーが呟いた。「今回のことかな」
「たぶんな。怒られるぞ、きっと」お前のせいだ、と言わんばかりに健が眼を向けてくる。「だけど・・お前はわかるが、なんでおれまで行かなきゃならないんだ?」
「優等生づらしてやがるが、案外陰で何かしてるんじゃないか、お前も」
「おれが優等生づらをしているのはお前のせいだ」
「え?」ジョーの問う目に、だが健は平然と無視した。「だけど本当にそうなら・・・やばいなぁ・・・」
 以前、20人のした・・・ケンカの時は3ヶ月間小遣いなしだった。寄宿生活でバイトもできない身にはきつかった。
「そういえばその時に貸した金をまだ返してもらってないよな」
「入ります」
 コンコンとノックするジョー。今度は彼が平然と無視した。

「入りたまえ」
 間違いなく南部の声だ。怒っているようには聞こえないが、先手必勝!と、
「すみません、博士。でも今回は友人を助けるために─」
「何を言っているのかね、ジョー」
 窓を背にした南部の表情はよくわからないが、これから子どもらを叱ろうという声色ではなかった。
「この2日間で荷物をまとめたまえ。学校を替わる」
「は?」
「ISO直属の専門学校に君達の専門学科である〝特殊科〝を新設した。生徒は君達2人とGメカに関わるエンジニアやメカニック、その他電子工学や医学生など総勢30名の予定だ」
「それは、G計画の─」
「そうだ、健。いよいよG計画の前段階開始だ」
 南部の言葉が2人の表情を変えた。
 まだ子どもの域を抜けない15才の少年の・・・しかしこれから始まる厳しい日々への覚悟と決意の頼もしさと危うさと─。
「とりあえず一度私の家に戻る。専門学校への編入は1週間後だ」
「はい」
 2人が頷く。
「なんだ。怒られるんじゃなかったのか」
 ジョーが安堵の息をついた。
「ああ、そのことは後でじっくりと話を聞こう。もちろん健もだ」
 え~、と2人が不満そうに声を上げた。


                                   おわり


  
        

                            



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Comment

●ジョーの日

こんにちは。
前後数日、私は何も書けませんでした。
なので2・2の作品もありません。
淳さんは用意周到にこの世界観を作り上げられたのですね。
長い年月の間に作られた世界なのでしょう。
私のように入口に入りたての者にはとても書けないお話でした。

15歳の2人、学生時代にどうしていたか、なんて考えた事もありませんでした。
『ガッチャマン』の枠の中が一歩も出ようとしていなかった自分に改めて気付かされた作品です。
学生時代の健もジョーも博士も現在(いま)と違和感がなくて、嘘がないように感じました。
読ませて戴いて有難うございました。

私も明日辺りからまた書き出したいと思いますが、此処までの域には到底達せません。
だって、書いたらすぐに出しているから……。
これは2月22日は頑張らなくては行けませんね。
ああ、どうしよう……。
真木野聖 | 2014.02.05(水) 16:46 | URL | コメント編集

●真木野聖さん

風邪で咳がひどくては落ち着いて書けませんね。

>長い年月
いえいえ、私がGフィクを書き始めたのは3年ちょっと前からなので、まだまだひよっこの域です。
学生の頃の2人を書くのは、そこが他のフィクではあまり書かれていないからです。
つまり入り込む余地があるという事でして・・・だって他の年代ってけっこう書かれているでしょ。
それと・・やはり見たかったからかな、その頃の彼らを。

こちらこそ読んでいただきありがとうございます。

>2月22日は
頑張らなくていいですよ。
だって毎日頑張ってらっしゃるんだから。
淳 | 2014.02.06(木) 14:25 | URL | コメント編集

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