2010.02/22(Mon)

始まりの朝 

「いてっ!」
 寝返りをうったとたん、何かが頭にぶち当たってきた。
「・・モップ?」
 あわてて体を起こしシーツの上に寝そべるそれを見た。確かにおれが昨日買ってきたモップだ。
「なんでおれ、モップと寝てるんだ?」
 寝てるといえば・・このベッドはおれのじゃない。当然、部屋も違う。
「そうか、あのまま寝ちまったのか」
 ジョーはイスの上に丸まっているシャツを着ると隣の居間兼事務所を覗き込んだ。
 大きなテーブルの上には昨日の晩餐の跡がそのまま残っていた。空けられたワインのボトル、しなびたレタスやポテトサラダのカケラ、そしてローストチキンの骨─。
 しかしそこにはこの部屋の主はいなかった。
 仕方なくジョーが片付けようとした時、
「起きたか」
 入口のドアが開き、妙にスッキリとした顔のケンが入ってきた。
「お前、どこで寝たんだ?」
「トレーラーハウスのベッドさ。やっぱりちょっと窮屈だな」
 ジョーはケンよりわずかに背が高い。ケンが窮屈と感じるのならジョーはもっとだろう。
「だけど良く寝られたぜ。こじんまりとしているのがいいのかも」
「ぬかしてろ」
 ガチャガチャと音を立てボトルを部屋の端に置き、食器をシンクに放り込んだ。
 新しいベッドなのに先に使いやがって。またおれは2番手かよ。─などと拗ねているわけではない・・・と思う・・・。
「朝飯はこいつでいいよな」
 そんな顔を見られるのがいやで、ジョーは残っているチキンをレンジに放り込みスイッチを入れた。が、
「あれ?こいつ動かないぜ」
「そんなはずはない。買ったばかりだぜ」ケンがレンジに寄り、「プラグを入れなきゃ動かないぜ、ジョー」
 と呆れたように言った。
「これであのマシンを動かせるのかね」
「っるせーや。G2号機にプラグが付いていてたまるかっ」
「そりゃそうだ。コードが長すぎる。万一外れたら大変だ」
 真顔で言うケンに、こいつこそリーダーで大丈夫なのか?と思った。
「そうだジョー、今日はここの片づけを手伝ってくれ。まだ荷物を全部入れてないんだ」
「は?なんでおれが─」
「一宿一飯の恩義を知らないのか?」
「・・・・・」
 一宿はともかく、一飯はおれのおごりだ。
 細いくせに大食漢のケンは2人前くらいペロリと食べる。博士の別荘からくすねてきたワインを空けたのも奴だ。
 「さあ、話が決まったら早く食っちまおうぜ」
 決まってない!と言いたかったが、テーブルにつき朝飯を待っているケンを見るときっと言っても無駄だろうと思い、ジョーはレンジからホカホカのチキンを取り出した。

 南部博士の別荘から出る時、荷物の多くを処分したジョーと同様ケンの荷物も少なかった。
 それでも、どうしても処分できない物もある。
「こいつはどこに置くんだ?」
「棚の一番下に入れてくれ」
「ラジャ」面倒だなあ、と思いながらダンボールを2つ重ねて持ち上げたが、「うわっ!」
「ジョー」
 急にジョーの体が床に沈んだ。ダンボールの中味をばら撒き、仰向けになったジョーがジタバタと暴れていた。
「大丈夫か」
「わ、悪い─おっ」散らばった中味をダンボールに戻す手が止まる。「ジュニア・スクールの成績表?こっちは作文の賞状・・・。こんな物まで取ってあるのか?」
「おれじゃない、博士だ」
 ちょっと照れくさそうに、ケンはジョーの手からそれらを取り戻した。
「母が死んだ後、しばらく施設にいたんだ。その時に博士が家具や荷物を整理して保管していてくれた。この飛行場同様にな」
 ケンが母親を亡くしたのは11の時だと聞いている。そういえばその前後にケンはよく別荘に泊まりに来ていた。その頃ジョーは南部の別荘に世話になっていたはずだが、なぜか記憶が曖昧でいつケンが別荘に住む事になったのかまるで覚えていない。
 いや、1つだけ覚えているのは・・・。
 別荘に泊まったケンがその翌朝に、“じゃあ、またね。ジョー”と言って家に戻っていく彼の明るい顔を見るたびに、なぜか無性に腹が立ち・・哀しい想いにどうしようもなくなり、その日はしばらく部屋に閉じ籠っていたっけ。
 まるっきりのガキだな。
「少し経ってから博士に母の遺品を渡された。ダンボールに2つしかなかったよ」
 おそらく母は自分の行く末を見越し、少しづつ整理していたのだろう。その1つ1つをケンが愛しそうに撫でる。と、その手が止まった。
 赤い表紙の分厚い本・・・?
 ちょっと迷っていたケンの手がゆっくりと表紙をめくる。アルバムだ。ジョーが覗くとケンに良く似た髪の長い女性の写真があった。
「お前にそっくりだな。いや、お前が母親そっくりなのか」
「そうか、ジョーはおれの母に会った事はないんだな」
 長く一緒に暮らしているとお互いの事を何でも知っている気になるが、実際ケンはジョーの両親がギャラクターに殺された事、ジョーはケンの父は行方不明で母と2人暮らしだった事しか知らない。
 ケンの手がページをめくる。と、
「・・どうしたんだ、これ」
 ジョーが思わず呟いた。写真が所々剥がされている。見開きなのに2、3枚しか張られていないページもあった。
「お前がやったのか?」
「いや・・、母だ」ケンは小さく息をついた。「剥がされた写真にはおそらく父が写っていたんだろう。なんで剥がしたのかはわからないが、博士から渡された時にはもうこの状態だった」
 南の空で行方不明となったケンの父。生きていると信じてはいるが、しかし長い年月が過ぎていくうちにその姿を見るのが辛くなってきたのだろうか。
 剥がされた写真は他の遺品からは見つかっていない。
「辛うじてこの1枚が残っていた」
 取り忘れたのか、それはケンを抱いた母、そのそばに立つ父の3人が写った古びた写真・・・。
「・・・・・」
 ケンもジョーと同様、家族には恵まれなかった。しかし11までは母と暮らせたのだ。それを羨ましいと思ってはいけないだろうか。
 その母のぬくもりをケンは手にしている。確かに少ないがあるだけいい。ジョーは何1つ島から持ち出せなかった。自分の身でさえ、博士がいなかったらどうなっていた事か。
 いやそれよりも、ジョーは島での暮らしを覚えていなかった。 
 温暖な気候の地に咲き乱れる花々、オレンジの甘い香り・・・それらは今でもジョーの脳裏にあるのに、なぜか父の顔も母の顔も暗闇の中に溶け込んで見えなかった。
 ただはっきりしているのは、あの海辺で自分の名を呼んだ両親の声だけ・・・。
「しかし、この成績表をぜんぶ博士に見られたかと思うとゾッとするよ」
 黙ってしまったジョーにケンもわかったのだろう。しかしヘンな慰めの言葉などこの男は望んではいない。
「一休みしようか」ケンは散らばった荷物をダンボールに戻し立ち上がる。「転居祝いだってジュンがちょっと良いコーヒー豆をくれたんだ。それを淹れよう」
「コーヒーかぁ。料理じゃないから大丈夫だな」
「ひでぇなあ」
 笑いながらケンがミルを取り出した。
 これから長い戦いの日々が始まる。せめて今日は暗い気分になんかなりたくない。それはジョーも同様だ。
「だがよ、あれでスナックなんかやって行けるのかね。まあ、飲み物の他はサンドイッチとクラッカーくらいだけどよ」
「別荘のコック長がジンペイに簡単な料理を1つ2つ教えていたが」
「ジンペイに?─正解だな」
 ハハハ・・と珍しく高い声で笑ったジョーがテレビを点けた。が、
「なんだ、これは」
 今まで明るかった声がガラリと変わった。その声につられケンもテレビに目を向けた。
 崩れたビル、ぐにゃりと曲がった鉄骨、破壊された発電所、灯台─。
 アナウンサーは南方の国が超大型のハリケーンに襲われ、その爪あとだと言っている。しかしハリケーンだけでこんなひどい壊れ方をするだろうか。
 明らかに巨大な力で乱暴に打ち壊された建物や高速道路─。
「ケン」
 ジョーが青く光る瞳を〝リーダー〝に向けた。
 初出動はもうすぐかもしれない、と2人は思った。
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Comment

●おおっと、ここにも

へっへっへっへっ・・。
今日のアップは「ワルサー~」だけかと思いきや、じゅんさん、やってくれますね~e-343
「22222」企画作品ですね。 わ~い、わ~い!

彼らの日常を描きながらも、少しずつ増してくる緊張感が感じられます。
じゅんさんの彼らを見詰める眼差しが優しくて、暖かい気持ちになれます。

j.bシリーズももちろん大好きなのですが、GMフィクも時々読ませて下さいね。
お待ちしています。
へい | 2010.02.22(月) 16:36 | URL | コメント編集

●へっへっへ、と

へっへっへ・・とジョーになったへいさん(?)、コメントありがとうございます。

フィクを考えるのは楽しいのですが、「あれ?これって・・?」「ここはどうなっているんだ?」という疑問が今さらながら湧いてきまして、頭の中がゴチャゴチャになってます。
なのでまずは書きやすいところから・・・。

ブログが無くならないように更新しなければ!

へいさんのフィクもまだま読ませてください!
朝倉 淳 | 2010.02.22(月) 17:42 | URL | コメント編集

●つ、つづきだ~^^/

わ~い。
もしかして毎月2がつく日には淳さんのフィクが読めるの?←イイエ

> 「なんでおれ、モップと寝てるんだ?」
これ最高です。笑った~~(*^▽^*)
怖くてかわいい顔してモップを睨みつけているジョーの顔が目の前に浮かんでーーーし、幸せですぅーv-119

結末を知っているだけに今しばらくは二人に少年(青年?)らしいひと時を過ごさせてやりたいです。
ううっ…。
南部響子 | 2010.02.23(火) 14:03 | URL | コメント編集

●つ、つづきよ~

ようこそ、響子さん。
いつもありがとうございます。

>毎月2がつく日には
ほんと、それだけ書けたらどんなにいいでしょう。
・・え? じゃあ20日から29日までは連続10作!?←やっぱムリ~

>モップと寝てる
書いたときはなにげなく・・だったけど、あとで読んで自分でも笑ってしまいました。
ジョーは1人の時は案外素直なのかな、と。
可愛くて(#^.^#)

戦いだけなんて哀しすぎる。少しでも普通の少年の時を過ごさせてあげたいですね。
朝倉 淳 | 2010.02.23(火) 15:43 | URL | コメント編集

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