2015.02/22(Sun)

困惑(ep.G)


 メインストレートを走り抜ける青い車のエキゾーストノートと、巻き起こる熱風とが淳を押し包んだ。が、次の瞬間、そこから放り出される。
「うわあ!」思わず声を上げ、もう遠い青い車のリアに眼をやった。「いいわぁ。いい走りをしているわ」
「もう5回目だよ、淳」G2号機担当のメカニックチーフのバレンが苦笑した。「我々はレースを見に来たんじゃないんだからな。ちゃんとデータを取ってくれ」
「はぁい」
 チロッと舌を出し淳が頷いた。

 ここはユートランド郊外のサーキット場だ。今は本レース前の予選。ここでのラップタイムが本レースでのグリットポジションを決める。狙うは当然P・P(ポール・ポジション)だ。
「でも、プロのレーサーではないジョーの参戦をよく許してもらえましたね」
「スポンサーのひとつがISOだからね」目の前を青い車がすっ飛んで行った。「ラップタイムは1分39か。まあまあだな」
 コンピュータのモニタに映し出された数字をバレンが記録して行く。
『タイムはどうだ?』
 ジョーからのチームラジオ(通信)だ。車内モニタでコクピットが映し出される。
「現在トップタイムの5号車との差は+0.22」
『フン、そのくらいすぐに追いついてやるさ。スピードを上げてもいいか、バレン』
「いや、あと2周は今の速度で走ってくれ。データを取っている」
『そんな事したらP・Pは取れねえぜ!』
「2周したあとだったら好きに走っていいぞ。1周もあればトップタイムが取れるだろ?」
『・・・言ってくれるぜ』不敵に微笑むジョーが見える。『メカニックチーフのご期待には答えなきゃいけねえよな』

「ブルーコンドルのタイムが0.02上がりました」
「・・・しょうがないなあ」チームラジオを切りバレンがぼやいた。「ま、許容範囲かな。淳、引き続きデータを取ってくれ」
「はい」
 淳の指がキーボードの上を走る。疾走するブルーコンドルのあらゆるデータが記録されていく。これらのデータをフィールドバックしGメカのエンジニアやメカニックがG2号機のさらなるグレードアップを図るのだ。
 そのためのデータ取りだとわかっているが、淳の目はどうしてもジョーを追ってしまう。今はコンピュータのモニタに目を向けないといけないのだが。

「よし、ジョー。速度を上げろ。好きに走っていいぞ」
『ラジャ!』
 弾むジョーの声。
 今はピットからコース上のブルーコンドルは見えないが、大型モニタが前を行く5号車をコーナーでオーバーテイク(追い越し)する2号車を映し出している。
 この分なら午後からの本レースのP・Pは取れるだろう。ジョーもブルーコンドルも絶好調だ。が、

(あら・・・)
 淳が大型モニタを凝視した。チームモニタなので、そこには常に青い車が映し出されている。
 好きに走っていい、と言われたジョーは彼の持てるだけのソーイングでブルーコンドルを操っている。その動きになんの疑問もない。なのに─
 淳の目にはブルーコンドルが・・・いや、ジョーが迷っているように見えた。
 変身前のGメカとはいえ、ISOが総力を挙げて設計したマシンだ。他の2000クラスのストック・カーと同等のレスポンスとは思えない。いや、本来なら一緒に戦ってはいけないレベルのマシンなのだ。
 そんなマシンを悠々と操るジョーになんの迷いがあるというのか。

「どうした、ジョー。タイムが落ちているぞ」
 チームラジオのスイッチを入れバレンが言った。
 見ると、5号車をオーバーテイクした後しばらくはトップを走っていたブルーコンドルだったが、今は再び5号車のテイルに付いている。
「メカに何か不都合が出たか」
 だがジョーからの返事はない。通信は活きているはずなのに。
「あいつ・・都合が悪くなると何も言わなくなるからなぁ」
 ひとり言のように呟くバレンの言葉が淳には大きく聞こえた。言いようのない不安感が、気持ち悪さが襲う。

「とにかく、ジョー、次の周でピットインだ」
 バレンの指示が飛ぶ。
 しかしここでピットインすればトップを走る5号車との差はますます大きくなる。
「ピットに入れ、ジョー。データは取った。もう充分だ」
(入らないわ・・・きっと)
 大型モニタを見ながら淳は思った。 
 明らかにブルーコンドルの走りはおかしい。だがそれに気がついているのは淳だけだ。彼女より経験の長いバレンや他のスタッフがそれに気づかない。
 なぜ?
 案の定、ジョーはピットインのボードサインを無視しバレン達の前を走り抜けた。
「こらぁ! ジョー!」インカムに叫ぶバレンが、ふとその手を止めた。「・・・走りが・・おかしいな・・」
「タイヤがきついんでしょうか」メカニッククルーが訊いた。「予定ラップ数をオーバーしていますし」

 サーキット走行では一般道よりタイヤの消耗が激しくなる。グリップの利かないタイヤでの走行はマシンコントロールに支障が出て、ヘタをすると事故に繋がる。
 しかしこの程度の事であのジョーのソーイングが狂うとは思えない。

「あっ!」
 淳の叫ぶ声が響いた。大型モニタにスピンするブルーコンドルが映った。
「どうした! 当てられたのか!」
「いえ、単独スピンです」
「・・単独、だと?」
 バレンとクルーの会話を耳にし、だが淳の眼はモニタから離れない。
 幸い後続車を巻き込むことなく青い車は元の位置に戻ると何事もなかったように走り出した。
「大丈夫か、ジョー」
『・・・リアが・・・ちょっとフラフラする』ジョーが言った。『ナットが弛んだかもしれない』
「たかだかスピンぐらいで弛むような締め方はしていない」
 険しい目をバレンは大型モニタに向けた。
 スピン後の建て直しが適切だったのか、ブルーコンドルは以前と変わらぬスピードでコース上を走っている。
『アンダーっぽい。コースがうまく取れないんだ』
「・・・何を言っているんだ、彼は。あんなに的確にコーナーに入っているのに」
 いつにないジョーの言葉にバレンは首を傾げた。
 見る限りブルーコンドルの走りに異常は見られない。ジョーが言うフラフラした動きも曲りにくいと言っていたコーナーも何の支障もなく、その動きはいつもの彼の走りだ。
「ピットに戻れ、ジョー。もうすぐ予選ラップが終了する」 
 規定時間以上は走れないので今度こそジョーはピットに戻って来た。
 シートベルトを外しフルフェイスを取る。不機嫌なジョーの貌が現れた。チラッとバレンに目をやったが、すぐに淳に向かってヘルメットを放った。そのままピットの奥の控え室に入ってしまう。
 メカニッククルー達はさっそくブルーコンドルに取り付き、本レースに向けての調整を始めた。
 淳も加わろうとしたがバレンが止め、アゴをしゃくった。
 戸惑ったものの淳はフルフェイスを抱えたまま控え室のドアをノックした。返事はない。

「入るわよ、ジョー」
 静かにノブをまわし淳が室内に体を入れた。
 怒鳴り声が返ってくるかと思ったが予想に反し、ジョーは奥のソファに腰を下ろしたままこちらを見ようともせず窓から外を見ていた。
「どうしたの? あなたらしくない迷いがマシンに見えるわ」
「ここからだとコースは見えないんだな」ポツリとジョーが言った。「おれ、うまく走れてねえや。だからコースなんか見たくないと思った。でも・・・見えなくなると不安になる」
「うん」ちょっと頬を緩め淳が頷いた。「私もうまく整備できないと、Gメカなんか!って思うけど・・・でも触らない日が1日でもあると落ち着かないわ」
「ここにいる奴らは皆そうかもな」振り向いてジョーは薄っすらと笑った。「昨日、G計画の詳細を南部博士から聞いた」
「私達マシンスタッフにも説明があったわ。あなた達とは別の部屋だったけど」
「博士が・・・ISOが総力を賭けただけあってクラクラするほどすげえ計画だ。新たなエネルギーの開発、利用。まだ設計図だけの海中基地。それを邪魔する奴ら・・。総力を持って戦わないとならない相手だという事だな。だが、おれにそれが勤まるかと─」
「なに言ってるの、今頃。そのために訓練を受けてきたのに」
「わかってるさ。だけど今のようにうまくマシンを操れないとやはり迷いが出て来る。マシンに自分がついて行っているのかと」
 うまく走れない─ 少なくともジョーはそう思っているらしいが─ のはマシンのせいではなく彼自身の迷いのせいだ。
 いや・・・恐れ、か?
「G計画の初稿を聞いたのはISOの関連校に入る前だった。参戦する事がおれの生きる目的になった。それは今も変わらない。だが・・・」
「あなただけじゃない。皆そう思ってるわ。巨大な相手に対して自分達で太刀打ちできるのかって」ゆっくりと淳が歩を進めてくる。「私だってそう思う。でも誰かがやらなければならない。この計画に賛同し、心をひとつにした人達が。この地球や人々を守るために」
「・・・・・」
 その言葉にジョーは立ち上がった。真っ直ぐに淳を見詰める。手を伸ばし、淳からヘルメットを取った。
「おれは違う。地球や他の奴らなんてどうでもいい。おれの目的はただひとつ─」
「・・・・・」
 青い瞳を淳が見つめる。

   キラ え? なに? 
          キラキラ    潮の香り?     風が頬をなでる 

      キラキラ    鋭い音     何の臭い?     

         ここは、どこ?

 空(くう)を映す淳の瞳に気づかず、その横をジョーが足早にドアへと向かう。
 瞳に黒い光が戻り、ヘルメットを持つその手を淳は思わず掴んだ。力任せにこちらに向かせる。
 だが引っ張れたのは腕だけだった。ヘルメットが床に落ち、甲高い音を上げた。
 ハッと淳が手を引いた。
 長身を屈めジョーがヘルメットを拾う。一瞬、淳に向けた目がかすかに揺らいでいた。  だがすぐに踵を返し部屋から出て行った。
 あとを追って淳も廊下に出た。

 本レースのグリッドポジション発表のアナウンスが聞こえた。


                                                             

                              おわり
  
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22:22  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(6)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●こんにちは

拙ホームページにコメントをありがとうございました。
同じサーキットネタでも、こうも違うのか、と自分の作品の出来の悪さに、情けないやら悔しいやら。
レースの事は余り書かなくて良かった。(爆)
さすがです。
Jのものがたりで、紡いで来られた作品群があるからこその作品ですね。
淳さんの凄さに素直に拍手です。
私も勉強しなくちゃ。
本気で勉強(レースの事に限らずです)しないと書き続けていけない。
そう、思わされる作品でした。

こんなに本気で書いている方がおられるのに、私の作品はなんて陳腐なのでしょう。
反省致しました。m(_ _)m
真木野聖 | 2015.02.24(火) 14:00 | URL | コメント編集

レースの話は難しいですね。
私も書いたけど、まあちょっと荒削りでした(爆)


ジョーは何かを焦っているのかな。それでもしかしたらマシンを空回りさせているのかもしれない。
とちょっと思ってしまいました(意図してなかったらごめんなさい^^;)

なんにせよ、レーサーしてるジョーはかっこいい♪
本編ではあまりなかったので。(もっと見たかった)
kisara | 2015.02.24(火) 20:27 | URL | コメント編集

●真木野聖さん

こちらこそ、いつもコメントをありがとうございます。

>サーキットネタ
重なっちゃいましたねー。
こちらは「222」用に書いたものではないけど、きっとこの日はどこかにサーキットネタが載るんじゃないかなーと思っていました。

なんかあちこちこそばゆいです。
私はただ車が好きなだけで・・・若い頃にスーパーカーブームもありましたし。(もっともこれが〝ブーム〝なのだと後で知りましたが)

>本気で勉強
趣味で書いているので、浅く広くをモットー(?)としています。

>私の作品は
相当のエネルギーと情熱、愛、引き出しが多くないと書けないと思いますよ。
さすが、「書く事」をお仕事にしていらした方です。
淳 | 2015.02.26(木) 16:14 | URL | コメント編集

●kisaraさん

>レースの話は難しい
そうなんですよ。
あまり本気で書くと注釈ばかりでワカランチンになるので、どこまで使っていいのか・・・ま、ほどほどに σ(^_^;
車も右ハンドルと左ハンドルで違うので、書く前に決めておかないとね。(前に「あれ?」ってなって、書き直した)

>意図してなかったら
ほーほっほっほ・・・。
ジョーファンはカンがいいから危ない。

>もっと見たかった
はい。
ジョーを走らせてあげたくてカーレースの勉強(というほどではないが)をしました。

淳 | 2015.02.26(木) 16:23 | URL | コメント編集

さすが「レーシング・カーのメカニックをやりたくてここを選んだんだもん」の淳さんだわ♪
「レーサー」しているジョーがまぶたの裏に浮かびました。私が見たかったのはこれよ!

キョーコとジョーの場合は生まれ変わってだからさ、ちゃんとレーサーになるのは(笑)
忍者隊だった時は任務以外ではあまり危ないことはできないからね(かわいそう・・)
(ジョーがレーサーというと島村くんを思い出すわ←そういうお年頃なの)

それにしてもメカと人間が一緒に変身するなんてびっくりするよね。
あ、でも「困惑」はそれじゃなくて淳がいよいよ「なんてこった」になるから?

続きが楽しみです(^o^)
キョーコ | 2015.02.26(木) 21:00 | URL | コメント編集

●キョーコさん

>メカニックをやりたくて
羨ましいですー。
好きな車がいぢれてジョーの傍にいられて。 ♡

>「レーサー」している
1話分ぐらいレーサー話があってもよかったのにね。(ジョーファンのみの願望?)
Tシャツではなくちゃんとレーシングスーツ着て、メットもあんな変なジェットじゃなくてフルフェイスで。
あ、顔が見えないか。(^_^;)

>生まれ変わって
生まれ変わってもお互いがわかるってすごいよね。
キョーコの能力?

>島村くんを
「ジョー → レーサー」は島村君の方が最初の遭遇だったからね。

>「なんてこった」
あああ・・・淳さんが「なんて( 設定しちまったんだ)こったー」と言いたい。
淳 | 2015.02.27(金) 17:54 | URL | コメント編集

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