2015.03/17(Tue)

掴んだものは(ep.S)


 あげるわ 

 あなたが掴んだものは、あなたのものよ

 おれが掴んだもの? あの時おれは何を掴んだ? ピンクの袋とあいつの・・・

「わっ」
 突然視界が開けた。暖かい日差しが差し込むここは・・・。
(寝てたのか、おれは。いい度胸してるじゃん)
 目の前のテーブルには教科用のタブレット。が、画面は真っ暗だ。タッチペンはどこへ行った?
 ふと辺りを見回し、ここがカフェの隅っこだと気が付いた。
(いつからここにいたんだっけ)

 あなたが掴んだものは、あなたのものよ

 ・・・あの時おれは何を掴んだって? ピンクの袋とあいつの・・・あげるって・・・。
「いらねー」
「コーヒーじゃなかったのか?」
 見るとカップを2つ持った健が怪訝な顔を向けていた。
「いや・・・」傍らに置かれたカップに手を伸ばし・・・ふと中味を見ると、「おい、こいつは何だ?カフェ・オ・レみたいだが」
「ご名答」
「ごめーとーじゃねえ。なんでミルクコーヒーなんか─」
 ジョーが頼んだのはブラックだ。ミルクを垂らす事はあっても、こんなになみなみとは入れない。
「疲れているみたいだからさ。そういう時は甘いものがいいんだぜ」
 ちなみにおれはブラックだ、と言う健をぶっ叩いてやろうかと思ったが、
(そういえば、あの時のチョコレートはどうしたっけ・・・)
 朝倉という名のあわて者の・・だが不思議と憎めない小柄少女から貰った・・・いや、押し付けられたチョコレート。こんな物を貰う謂れはないのだが。
 しかしあいつ、いい角度で角を曲ってきたよな。さすがのおれも避け切れなかった。メカニック希望なら車が好きなのか。
「不気味だぞ、ジョー」
「え?」
「ストック・カーの構造図を見ながらニヤけるな。さしずめ明日の事でも考えていたんだろうが」
「明日? 定期テストの初日で何でニヤけなきゃならないんだ」
「テストか。そういえばそうだったな」
 タブレットと何冊かの本を前にするジョーと違って健は何も持って来ていない。テキストは全部頭に入っているとか。余裕じゃねえーか、こいつ。
「初めて貰ったんだろ、ジョー。お返ししないとな」
「仕返し?」
「・・・ケンカ売ってどうする」
 ため息をつきカップを口元に寄せる健は傍から見るだけなら格好いい。そーいう趣味はないジョーもつい見惚れてしまう。現に店内にいる女の子達のため息も聞こえる。
「とにかくおれは忙しいんだ。横でゴチャゴチャ言うな」
 再びタブレットに向かうジョーに肩をすくめた健は、手をつけていないカフェ・オ・レを自分の方に引き寄せた。

「いよいよ明日ね。なんかドキドキするわ」
「そう? あたしなんかビクビクよ、マージ」教科書を見ながら大きなため息をつく淳。「専門用語が多くて覚えきれないわ。これで実技が入ったらどうなるんだろう」
「そうね。でも新学期から移る特殊科専科になったらもっと─ ってそれどころじゃないのよ、明日は。もっと大事な、運命の分かれ道だわ」
「?」
 明日は定期テストの初日だ。及第点を取れないと希望の専科へは行かれないかもしれないのに、それより大事な事って・・・。
「先月に話したでしょ。ホワイトディよ。鷲尾健からの返事が来るわ」
「・・・・・」
 つまり淳はジョーからの・・・。
「OKのお返しはキャンディかクッキーよ。ううん、どっちでもいいわ、健から貰えれば」
「なんでソレなの?」
「知らない。昔からよ。バレンタインはEU圏、ホワイトディはアジアの島国から来ているらしいわ」
 よくわからない。とにかく自分には関係ないと淳は思った。
 あのジョーがキャンディかクッキーを持っていそいそと女の子の元に向かう姿なんか想像したくないし・・・いや、考えただけでも怖い。
 それより今はただ彼と同じ学科に進める事だけを考えなければ。
 だけど、
(・・・あのチョコ、美味しかったのかしら)
 バレンタインを過ぎたら販売がなくなってしまった。気になっていたのに淳は口にできなかった。
(せめて味の感想ぐらい聞きたいな)
 もちろんジョーに訊く事なんかできないが、それを口実に呼び出して・・・無理だ。
 あたし、いつからこんなに気が弱くなったんだろう。ジョーが絡むと自分のペースが保てない。
「ねえ、淳。この速度計算だけど─」
 数式を示され現実に戻された。

 学務課のデジタル掲示板の前にはかなりの人が集まっていた。
 右側には定期テストの追試者名と追試日時、左側には新学期から新しい科に転科する許可が下りた生徒のIDがズラーと並んでいる。
 やったー! と喜ぶ者、ガックリと肩を落として友人に慰められている者─。もっともネット上でもこの発表は見られるので、ここに来ているのはほんの一握りなのだが。
『学務課に荷物が届いているから取りに行けよ』
 と、健からの言伝に出向いたジョーはその喧騒に巻き込まれていた。
 彼らも今回は特殊科の専科に転科となる。が、2人のIDは掲示板にはない。入学した時から決まっている事なのだ。

「ジョー・南部くん?はい、これです」
 事務員から渡されたのは両手で軽く持てる大きさの白い箱。保護者である南部の別荘の住所からだ。
 定期的に送ってくるもので、下着や南部が選んだ参考書などが入っている。今回もそうだろう。
 礼を言って受け取りなにげに開けてみると─、
「なんだ、これ?」
 男の子への、色合いの少ない荷物の中身。その1番上に乗っている花々が散るピンクの袋。
 摘み上げると特徴のある字で、〝元気ですか。可愛いJへ〝 と書かれたカードが付いている。
「クッキーか。もう食わないのに」
 字の主は別荘のメイド頭のマリサ。別荘で世話になっていた頃は彼女が焼いたクッキーをよく食べていた。
 寄宿舎に入った後も、時折荷物の合間に入れてくれるのだが。
(ま、いいや。健なら食うだろう)
 恐らく彼への荷物にも入っているだろう。1つも2つも変わらないさ。 
 学務課を出て、まだ騒いでいる学生達を避け─ ふと足を止める。

「あ」
 びっくり眼(まなこ)の少女がいた。
 ジョーは反射的に顔をしかめる。すり抜けようとするのを少女が呼び止めた。
「あの・・ありがとう」
 顔をしかめたまま自分に向き合うジョーにちょっと身を引いたものの、淳は顔を上げ真っ直ぐにその黒い瞳を彼に向けた。
「登録用紙を学務課に届けてくれて。おかげで転科できたわ」
 特殊科の専科に? 来るのか? それもストック・カーのメカニック希望だったな。
「なかなかお礼が言えなくて。えっと・・・それだけなんだけど・・・」
 ジョーが何も言わないので話が続かない。
 ぴょこんと下げた淳の頭が途中で止まる。箱の中のピンク色が目についた。
 誰かからのプレゼントだろうか。バレンタインはもう過ぎた。お返しのナントカデーも3日前だったか。
「これは─」
 淳の視線に気が付いたジョーがなぜか目元をちょっと染め、怒ったような口調で何か言おうとしたが─。
「やる」
「え?」
「やるよ」
 ほら、と箱を差し出され・・しかし躊躇している淳に豪を煮やしたのか、ふいにピンクの袋を掴んでポンッと上に放った。
「あっ!」両手を差し出し受ける。「・・・いいの?」
「掴んだものは自分のものなんだろ?」
 ちょっと違う。が、目元を緩めニッと口元を曲げたジョーは眩しいくらい魅力的だ。海のような青い瞳に自分が映る。
 淳はとっさに下を向いた。顔を上げるとすでにジョーはいなかった。

 袋の中身は1つ1つ丁寧に包まれた明らかに手作りのクッキーだ。
 お母さんが作ったのかしら。いいのかな、貰っちゃって。カードも付いているのに・・・。
 え、〝可愛いJへ〝 ? Jってまさかあたし? これってやっぱりナントカデー? 
 思わず奇声を発しそうになった口を押さえて、ライバルの女の子に見つからないようにと淳はピンクの袋を素早くジャケットの内に押し込んだ。


 
                           おわり










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Comment

●覚書き

ホワイトディ・フィク・・・まったく書き気がなくて・・というより思いつかなくて・・通り過ぎようとしたが、前話の

「あなたが掴んだものは、あなたのもの」

の、「掴んだもの」を印象つけたくて(誰に? (^_^;) )無理やり話しにした。

まー、学生時代には色々あるもんでしてー。 ← どーいういいわけ?
淳 | 2015.03.17(火) 16:41 | URL | コメント編集

きゃ~、やったぁ♪ホワイトデー・フィクだ!
(お話の中でもちゃぁんと3日遅れになってる^^)

影ながら(?)あの続きが気になっていたのよ。
ふふふ・・これだけ偶然が重なるとは、淳は「持って」いるわねぇ

健よりはライバルは少なそう(←なのか?)だから、がんばれ~!淳(^o^)/
キョーコ | 2015.03.17(火) 21:26 | URL | コメント編集

●キョーコさん

いらっしゃいませ~。
いつもコメントありがとうございます。

>続きが気になって
私も気になっていたんだけど、うまく話を運べなくて・・・で、こーなりました。(^_^;)

>3日遅れになってる
当初は14日付けで出そうと思ったけど、「あ、3日遅れの方がいーか。本当に3日過ぎてるし、ジョーにしてみればホワイトディのお返しじゃないし。うん、そうしよう」って。 ← いーのか、裏話 σ(^_^;

>偶然が重なるとは
ほんとよねー。
まるでダレかが話を書いたみたいー。

>健よりは
いっその事、ジョーファンを健ファンに移行させようかなと画策中なんだけど・・・どう?キョーコさん。 (^.^)


淳 | 2015.03.18(水) 15:23 | URL | コメント編集

●こんにちは

バレンタインフィクの続きが読めるとは思っていませんでした。
得した気分です!
ジョーは自覚のないままにお返しを上げた形になったけれど、淳ちゃんはどう受け取ったのかな?

>可愛いJへ
って、如何にもジョーが書いた風ではありませんものね。
たまたまイニシャルが一緒で良かったかも?
今は「夢」を見ているのかもしれないけれど、将来的には「本当」になる可能性が秘められた2人だと思って、読んでいます。
淳ちゃん、頑張れ!
応援しています。
真木野聖 | 2015.03.18(水) 17:37 | URL | コメント編集

>タブレット

ふふ、こちらの淳さんも今奮闘中ですもんね^^
だけど、都内のとある区では全小中学校にタブレット支給して授業しているらしいので、今はだんだん当たり前になってきますね。(私も追いつけない・・・(爆))

そうか、ホワイトデー・・・私はすっかり無視してしまいました(あはは)
バレンタインの話がヘンだったからな(爆)

私も今後の淳とジョーの関係を密かに見守っていく所存でございます・・・
やっぱりいいよね、学園もの。
kisara | 2015.03.18(水) 18:21 | URL | コメント編集

●真木野聖さん

>書いた風ではありませんものね
よく読めばわかりそうなものですけどね。(^_^;)
実は「浮かれ淳」がふと「このJ はあたしじゃないわ」と気が付いて─ まで書こうとしたのですが、まあ・・しばらく幸福に浸るのもいいかなと・・・。

>淳ちゃん、頑張れ!
「ありがとう、聖さん。頑張るわ!」
「ちょっと!その応援はあたしによ」
「いーじゃない。私も淳よ」
「だめよ。ここはあたしとジョーの世界なんだから」
「どこかに転校させるわよ」
「書き手が登場人物の邪魔してどうするのよ。職権乱用!」
「ほほほ・・・書き手の強みよー」

<(_ _)>
淳 | 2015.03.19(木) 14:19 | URL | コメント編集

●kisaraさん

>奮闘中
頭が固くなっていますワ。
もっともここの「淳」やジョーが、タブレット操作ぐらいでミスっていたら即留年でしょうね。

>タブレット支給
ですってねー。すごいなー。羨ましい。
子ども達が小学生の時に、学校に授業で使えるパソコンが十数台導入されただけで、「すごいー!」と思ったけど、今はねえー。

>無視して
私もその方向だったのですが。
「あなたが掴んだものは、あなたのもの」がどうしても捨てきれなくて強引に話を持って行きました。

見守っていく
「ありがとう、お姉さま」 @「淳」

>学園もの
ちなみに淳は中高女子高だったので、学園ものはよくわかりません。 ← いーのか? σ(^_^
淳 | 2015.03.19(木) 14:35 | URL | コメント編集

フィクはあまり読む気が起きないのだけど(ましてや人との恋バナなんて!)、「目元を緩めニッと口元を曲げたジョーは眩しいくらい魅力的だ」の一文に吸い込まれて読まされてしまった。。。チッ。

淳さん、いいなあーいいなあーー。ウラヤマシス。
彼の気持ちは図りかねても、こんな素敵な渡し方されたらたまりませんi-80
隼人 | 2015.03.28(土) 17:54 | URL | コメント編集

●隼人さん

いらっしゃいませ、隼人さん。

>人との恋バナ
あはは・・・ほんとよねー。
はい、わかってます、その通りです。
でも書きます。 (^.^)

>一文に吸い込まれて
あらら、そーですか、そーですか。それはそれは。
ありがとうございます。
よし、次からはこの一文をお話全部に書き込んでやろう。

>素敵な渡し方
ジョーの意図がどうであろうと、その気があろうとなかろうと、あのニヒルな笑顔が見られるのならそれだけで満足ですわ。
ねっ?

淳 | 2015.03.29(日) 17:30 | URL | コメント編集

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