2011.07/05(Tue)

可愛いあの

「いらっしゃい。─なんだ、ジョーか」
「ごあいさつだな。おれはツケの客とは違うぜ」
 誰もいない店内をグルリと見回しジョーが言った。
「ごめんよ、お客が全然でさ。お姉ちゃんも買い物に行ったきり帰って来ないし」
「そいつは気の毒にな」
「ねえ、ジョー。女の子って何をあげたら喜ぶんだい?」
「はあ?」ジンペイの言葉に、カウンタのスツールに下ろそうとしていた腰が止まった。  「お前、好きな
でも出来たのかよ」
「おいらじゃないよ。リュウだよ」
「はあん?」
 腰を浮かせたままジョーが目を見張った。
「時々ヨットハーバーに来る可愛い女の子にひと目ぼれしたみたいなんだ。今までここに いたんだけど、その娘の話ばかりだったよ」
「へぇ、リュウがねぇ。あいつの頭の中に食い物以外の事があるとはな。で、プレゼント攻撃というわけか」
「リュウがそうしたいって言ったんじゃないけど、今度来た時にアドバイスしてあげたいなあ、と思って」
 そりゃ年齢的に言ったら逆じゃないのか?と思ったが、忍者隊イチの体重差コンビは仲がいいし、ま、いいや。
「リュウはオケラじゃねえしプレゼント作戦もいいかもな。で、どんな女の子なんだ?」
「う~んと・・、色白でふっくらしてるけどとてもしなやかな体つきで目がクリッとして─」
「ふうん・・。そいつはちーと見てみたいな」
 と、ドアが開いた。
「いらっしゃ─あ~あ、アニキかぁ」
「なんだそれは。客に言う言葉か?」
「水ばかり頼む客だとお姉ちゃん機嫌悪くなるんだよな」
「そう言うが、ジョーだって何も注文していないじゃないか」
「あ」
 注文どころかジョーはスツールにも座り損ねていた。おもむろに腰を下ろす。
「コーヒーでいい?ジョー」
 頷くジョーの横でケンがVサインをした。・・いや、〝2つ〝という事らしい。
「そうだ、ケンのアニキも相談にのってよ」
「なんだ?相談って」
 コーヒー豆をキッチリ2人分計り、ジンペイが今までの事をケンに話した。
「プレゼントで気を引くというのもなぁ」
 お固いリーダーが言った。
「話す切っ掛けを作れればいいのさ。それとも他に案があるのかよ」
「そうだな・・・。ディナーに招待するっていうのはどうだ?3区に新しいレストランができた だろ。うまいって評判だぜ」
「いきなり食事というのもなぁ」
「じゃあハンバーガーショップでもいいぜ、角の。あそこのチキンサンドがいいなあ、おれは」
「お前の好みを聞いてるんじゃねえ」
「だったら・・・リュウがサンドイッチを作ってその娘に─」
「食い物しか出て来ないのかよ」
「エサを付けないと釣れないだろ」
「魚じゃねえ!」
「ア、アニキ達・・・」
 カップを置きながらジンペイがため息をついた。この2人に相談した自分が悪かったのだ。と、
「すまん、ジンペイ。借りてた本を返すのを忘れとったわ」いつもの間延びしたリュウの声に3人はピタッと動きを止めた。「ん?どうしたんじゃ?」
「な、なんでもないよ。本なんかいつでもよかったのに」カウンタ越しに手を伸ばし本を受け取りながらジンペイが言った。「で、リュウ。今日はあの娘、来たのかい?」
「ああ、来たんだがな・・」
 ゴモゴモと口を濁らすリュウに、こりゃミャクないかな、と3人は思ったが、
「ジンペイから聞いたぜ。可愛い娘なんだって?」
「そうなんじゃ。色白で目ン玉が大きくて魚をペロッと丸ごと食うんじゃ。そのしぐさが可愛くてよ」
「ま、丸ごと?」
「泳ぐ姿もまたユーガでよ。人魚みたいだわ」
「人魚か、へえ・・」
 3人の頭に中にそれぞれの人魚像が浮かぶ。

(大きくて食べ応えがありそうだ)
(胸がでかくてウエストがキュッと締まってて)
(うわっ!お姉ちゃんの顔してる!?)

「で、話しかけたのかよ」
「いや、近寄ると逃げちまうんだわ。おら、いじめたりせんのに」
「そ、それはきっと恥ずかしがっているんだよ」
「そうかのう・・」
「そうだよ、なあジョーのアニキ」
「ああ、お前に気があるのかもしれねえぜ」
「い、いや、おらそんなつもりは」
「いいじゃねえかよ。好きになるって事はな、人間として当然の行為だ。なあ、ケン」
「腹が空いて家に帰ったのかもしれないぜ」ガンッ!と音がした。「いってぇなあ。なにするんだよ、ジョー」
「そうかもしれんのう」
「え?」
と3人。
「コロコロしてて健康そうじゃからな。きっといい食べっぷりだろうなあ」
 ほーら、と得意そうにケンがジョーを見た。
「食事に誘ったら喜ぶんじゃないか?なんならおれも一緒に行ってやるぜ」ガツンッ!と  また音がした。「なんでだよ、おれは親切で─」
「うん、食事か。いいかもしれん。今からだと海で釣りは無理じゃから市場で魚を買って行こうかの」
「お前が料理するのか?」
「いや、ナマのまんまじゃ。火を通したら食べないと思うし」
「・・・・・」
「じゃあ、おら行くわ。またな」
「リュウ」ドアへ向かうリュウにジョーが声を掛けた。「その娘の名前はなんていうんだ?」
「Eumetopias jubatus、こいつは学名でな。平たく言えばトドじゃ」
「ト、トドー!?」
「海流に乗って来たらしい。すぐ帰っちまうじゃろうなあ・・。仲良くなったら紹介してやるわ」
 じゃあな、と手を振ってリュウは出て行った。
「トド・・・」
「確かにふっくらしたしなやかな体つきだな」
「チェッ、真剣に話してバカみたいだぜ。コーヒーはお前の奢りだからな、ジンペイ」
「えー!そりゃないよお、ジョー!」
 叫ぶジンペイの前にケンがVサインを出した。


                                          おわり







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Comment

●覚書き

ふと、ワンカットを思いつき、どこかで使うかもしれないなとメモしていたらメモに留まらず、そのままストーリーになってしまった。

何も考えず気の向くままに書いた、ある日のスナック・ジュンでのワンシーン。
息抜きの、のほほん話をしてお楽しみいただければv-398

タイトルにもルビが振れないかと思い、本文のルビ入り漢字やHTMLをコピペしてみたがだめだった。
トップページに連なるタイトルは「記事」の画面なので出来るかと思ったが、リンクを貼るせいかこちらもルビが振れなかった。
淳 | 2011.07.05(火) 11:50 | URL | コメント編集

●かわいい♪

また相手は犬か猫だろうと思っていたけど、トドとは!
リュウに似合っているよね~~~(をい)

でもさ、一度餌をやって食べてくれると嬉しいもんだよね。
「バナナ」の回で見せたリュウの優しい姿が浮かびます。

ほんわかするお話をありがとうございました

ところで
>タイトルにもルビが振れないかと思い
要するにタイトルでHTMLを使えるようにすればいいわけで・・
http://p.tl/Sgsb
こちらを参考にして気まま生活で実験してみました

簡単なので大丈夫かとは思いますが、複製を作って試してみてください
響子 | 2011.07.05(火) 15:59 | URL | コメント編集

●ほほう

読みながら「タマちゃん?(アザラシ)」と思いましたが、トドとは!!
アザラシより迫力がありそう。
うん、きっと ボン、キュッ、ボンよ、ジョー(笑)

食べ物をおごってもらおうという考えしかないケンが可笑しいわ。

なにげない彼らの日常を見せていただいて ありがとうございました。
へい | 2011.07.06(水) 14:34 | URL | コメント編集

●響子さん

いつもありがとうございます。

>相手は犬か猫だろうと思っていたけど
なはは・・・読まれてるわv-393

>「バナナ」の回
あの時は鹿だったので、今回は海の動物にしてみました。
リュウにぴったり!

>タイトルでHTMLを使えるようにすればいいわけで
やってみましたv-354
おかげさまで振れたのですが、「娘」から少し(上に)離れてしまって。
で、本文のように文字数とフォントを変えてみたらピタッとくっついたんです。
でもそうするとなぜか左のサイドバーが全部消えてしまって。
うう・・・淳の範疇ではありません。

トップのタイトル一覧もルビの分だけ間が空いてしまうし・・・。
どうしようかな。ちょっとこのままで考えます。

>複製を作って
ふと見たら、今までに複製を3つも作ってました。
どんだけ自信ないん、自分?
淳 | 2011.07.06(水) 15:30 | URL | コメント編集

●へいさん

いらっしゃいませ、へいさん。

>読みながら「タマちゃん?(アザラシ)」と思いましたが
とほほ・・・やっぱ読まれてる~v-399

海の・・なんの動物がいいかな~と考えて、あえて「でかいの」にしました。
そう、迫力のある─。
それでもリュウには「可愛く」見えるのでしょうね。

>食べ物をおごってもらおうという考えしかないケン
もういい加減にここから脱さないとケンファンに怒られそうです。

>ボン、キュッ、ボン
「ボン」はともかく「キュッ」ってどこ?
淳 | 2011.07.06(水) 15:38 | URL | コメント編集

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