2011.07/14(Thu)

名前(ep.R)

「うわっ、ボロボロだな、G2号機」
「いったいどういう走りをすればこうなるんだい?ジョーのアニキ」
「うるせーやい」あちこちからかけられる声にジョーの眉がへの字に寄る。「こっちは真剣に走ってるんだ。多少はボロくなるさ」
「だけど、また淳がうるさいぞい。ジョーは淳に弱いからなァ」
「な、なに言ってンだ、あんな奴」
 ジョーの眉がさらに寄る。
「淳ってメカニックのだろ?そんなに怖いのか?」
 ケンが聞いた。
「お姉ちゃんと同じ名だもん。おっかないに決まってら!」
「おだまり!」
 ジュンの剣幕に、“ほらね”とジンペイが目配せした。
 5機のGメカにはそれぞれ担当のメカニックがいる。1チーム10人ほどだが、淳はG2号機担当の1人だ。
 小柄で力もありそうには見えないが電動工具も極力使わず、その手で丁寧にマシンを仕上げて行くので評判は良い。
“もうちょっと、仕事が早いといいけどな”はメカニックリチーフのバレンの言葉だが。

「ジョー」
「おいでなすった」
 ジョーが首をすくめた。あとの4人はそろそろと彼から離れて行く。
「ずいぶんあちこちぶつけたみたいね。どういう運転をしているの?」
「訓練なんだから仕方ねえだろ。お花畑の蝶々みたいに優雅に走っているわけにはいかないんだ」
「・・・蝶々は走らないわ」
 そう呟きながら淳はG2号機の前輪のホイールを外した。なにか小さな機器を取り出す。
 この小さな機器にはタイヤが何回転したか、どこをどのように走ったのかが記録されている。これと車内搭載カメラ、タコメータを分析すればG2号機の足取りが完全にわかるのだ。もちろんこれは他のGメカにも装着されている。
 淳はその場で分析を始めた。手元のモニタにカメラの映像が出た。
「こんな山岳コースをこのスピードで走ったら、さすがのGメカもボロボロになるわね」
 と、ため息をついた。
 Gメカで唯一地上しか走れないG2号機は高速走行に重点を置いているため登坂には適していない。
 それを、記録されているスピードで走らせたとしたら─それはジョーの腕の確かさを示すものなのだが─車に負担を掛けることにもなるため、メカニックの淳には不満なのだろう。
「だったらもっと登坂しやすいようにしてくれよ。そうすればボロボロにはならないぜ」
「私はメカニックよ。エンジニアじゃないわ。それともG2号機に安全装置をつけてあげましょうか?」
「安全装置?」
「“スピードの出し過ぎです。もっと抑えましょう”とか、“安全運転をしてください。そこ!ブレーキは早めに!”って」
「勘弁してくれ」
 元々口では敵わない相手だ。
 もっとも淳達G2号機のメカニックはその弱点をなんとかしたいと思っているので、近々エンジニアを交えての打ち合わせを予定している。きっと戦いが始める頃にはそれも改善されているだろう。
(戦いが始まる・・・)
 そう、このマシンは闘うための車なのだ。そしてジョーも・・・。

「ところでよ・・・」愛用のレーサーグラブを外しジョーが言った。「お前、〝あさくら〝っていうんだったな。それってニホンの名前だろ。ニホンジンなのか?」
「う~ん・・・。前にも言ったけど生粋の日本人ではないと思うわ。日本で暮らしたのだって3、4年だったし」
「どんな所だ、ニホンって」
「小さな島国だけど四季があって季節がはっきりしていて─」

 島国?  日本も島だったんだ・・・。
    では、あれは?   あれは、どこ?     日本じゃないわ。

「どうしたんだ?」
「いえ、なんでも。でもどうしてそんな事訊くの?」
「・・・〝あさくら〝って名字はどこが発祥なのかなと思って─」
「そういえば〝南部〝も日本の漢字なのね。あなたも日本人なの?」
「違う」即答し、ジョーは真正面から淳を捉えた。「〝南部〝じゃない。〝浅倉〝だ」
「え?」
「ジョージ浅倉─これがおれの本当の名前だ」
「・・・え」
「わけがあって南部を名乗ってきた。だけどもう終わりだ。これからおれは本当のおれになる」
「・・・・・」  
 淳にはジョーの言っている意味がわからなかった。だが、胸につかえていたものを吐き出しさっぱりしたようなジョーの貌に、その時は何も訊く事が出来なかった。




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