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2018.02/22(Thu)

過去からの誘い(いざない)


「ルシィ? 相手はそう名乗ったんですか」
「ギャラクターの秘密や本部の在り処を教えると言ってきたそうだ」南部の静かな眼がジョーを見た。「ちょうどその時私は不在だったので直接〝ルシィ〝 と名乗る相手とは話していないのだが」
 ルシィ・・・その名には覚えがある。

 もう5年も前だろうか。エスペラントを習い・・しかし、突然自分の前から消えてしまった女。
 その後の調べで彼女はある組織に入ったと聞いた。それがギャラクターだったのか。

「本当にあのルシィでしょうか」
 5年前の出来事のあと、ジョーは一時的に彼女に関する記憶を失ってしまった。が、今はその大部分を取り戻している。
「声は記録してある。が、それだけではわからない」
 珍しい名前ではない。しかしジョーは彼女に違いないと思った。確証も何もない。単なるカンだが。
「聞いてみるかい?」
 南部がデスクの上をスーと撫でた。と、緑色の光が点き、彼の後ろにある大型スクリーンにスピーカーの偶像が現れた。
『ISO の皆さん、私はあなた達が戦っているギャラクターの幹部・・・いえ、元幹部です』
(ルシィ!)
 それはジョーが覚えているルシィの声ではなかった。だが彼は確証した。この人物は〝ルシィ〝 だと。
 声の主は一方的に用件を言い、すぐに通信は切れた。
「間違いない。彼女はルシィです。サーキット場から突然いなくなった、あの─」
「私には違う人物の声に聞こえるが」
「・・・おれにもそう聞こえます。だけど彼女はルシィだ」
 声も言い方も違うのになぜかその想いは違えない。
「で、どうするんです、博士」
「国連もISO も悪の組織との取引などには応じない。しかし─」
 ルシィの話では、彼女はギャラクターを脱退したという。そしてその時に知り得たギャラクターの情報・・・特に本部の在り処を教えてもいいと言ってきた。大金と引き換えに。
 取引には応じないが、ギャラクターの本部を突き止めるのは彼らの最大の目的だ。国連もISO もルシィを情報提供者として扱うことに決めた。
「苦肉の策ってやつですね」
「その使い方は正しい」ちょっと上目使いに、自分に目を向けるジョーに南部は苦笑した。「もっとも彼女の言っている事が正しかったらの話だが」
「でもなぜおれを呼んだんですか? まさかルシィがおれを指名して─」
「いや、彼女は昔の教え子がISO で働いているなんて知らないだろう。ルシィはラリーに参加してその後に情報を渡すと言ってきたのだ。受取人は君が適任だと思う」
「ラリー・・・」
 ああ、そうだ。彼女も車が好きだったっけ。今も変わらないんだな。
「わかりました、博士」

 グラーク・レーシングクラブはもうとうにない。レース界からいつのまにか撤退していた。
 ルシィの友人がいて、何度かレースやメカニックを見せてもらった。少年だったジョーには望んでもなかなか得られない体験だった。
 もっともその友人はギャラクターに絡んでいて、とんでもないおまけも付いて来たが。
(いや、あの時、すでにルシィもギャラクターへの情報提供者だった)
 トレーラーハウスの横に車を付けジョーは自分の根城を見上げた。
 この何十倍もある大型のトランスポータが並んでいたサーキット。エキゾーストノートを巻き散らし疾走するマシン。それらに目を輝かせて見入る自分。
 なぜかいい思い出ばかりが浮かんでくる。
(だが、今度は)
 ルシィが本当にギャラクターを脱退したのかはわからないが、もう講師と生徒ではない。少年でも学生でも・・・ましてやギャラクターという存在を知らなかった頃の・・・大人の保護の下、ただ年月を送っていた頃の子どもではない。
 情報を提供する側と受ける側に分かれて、もし必要ならおれはルシィを・・・。

 トレーラーハウスのドアノブに手を掛けたまま止まっていたジョーの手が乱暴に引かれた。
 ガチャッと大きな音と共にドアが開いた。
 誰もいないトレーラーハウスは暗く空気が冷たい。ふと、夕食を摂っていない事に気がついた。冷蔵庫にはミネラルウォータしかない。
 夕食は諦め、ベッドに転がった。
 3日後に始まるラリーのために体調を整えなければ。だが寝なければならないと思うほど寝付けない。
 1時間ほどうつらうつらしたがやはり寝られないので、ジョーはその場で服を脱ぎシャワーを浴びた。
 今夜は暑くないのになぜか汗ばんだ体を温めの湯が真っ直ぐに、所々緩やかなカーブを描いて流れ落ちる。
 健やリュウ以外の同年代の少年の裸体を見た事はないが、無駄な肉もなく鍛えられた戦うための身体(からだ)だと思う。
 だがメンタルはまだ10代のそれだ。
 もちろんジョーは意識していない。自分のすべてが強く、どんな事にも立ち向かって行かれると思っている。
 なのにこの苛立ちはなんだ?
〝ルシィ〝 に会う。これだけで体が、意識が熱くなり落ち着かない。
(もしも〝ルシィ〝 が、あの時のルシィだとしたら・・・)

 ─ 私はね、ジョー。もっと大きな仕事をしたいの ─  

 シャワーのコックを思いっきり捻ってジョーは熱い湯を体に叩きつけた。

 ルシィからの2回目の連絡があったのはその翌日だった。
 今度は南部もジョーも同席している。南部が情報提供を受ける事を正式に告げた。
『賢明な判断だわ』
 小さなモニタに映るルシィが微笑む。
「だが1つ条件がある」南部が言った。「ISOの職員を1人付けたい。彼の名はジョー。カー・ラリーの経験もあるので適任だと思う」
『・・・ジョー?』ジョーの映像も向こうに届いているはずだ。『まさか・・あのジョー?』
 ジョーが無言で頷く。
「これから会おう、ルシィ。コースをレッキ(下見走行)してペースノートを作らなければ─」
 ルシィからラリーの参加を持ちかけてきたのだから当然ドライバーはルシィ。ジョーはコ・ドライバーに専念するつもりだった。
 しかし事前に会えれば、その時に本部の在り処を聞き出せるかもしれない。が、
『それには及ばないわ。ノートはこちらで用意する。もちろん車もね。当日でも大丈夫でしょ、ジョーなら』
「しかし・・・」
『レースが始まるまで、なるべく人前に出たくないの。リスクは回避したいわ』
 ルシィはいわばギャラクターの裏切り者だ。大勢の目に晒される時間は少ない方がいい。
「・・・わかった」
 渋々と頷くジョー。ルシィは口元を歪め通信を切った。
「ぶっつけ本番か。なに考えているんだ」
「今は彼女の言うとおりにするしかない」
 南部は別室に待機している健達を呼ぶために通信機を手にした。




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17:42  |   Gフィク  |  TB(0)  |  CM(4)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●ジョーの日

今日はジョーの日ですね。ルシイ姐さん、本編ではかなりキツめでしたが、ジョーはどんな思いだったのでしょう。
Lucy | 2018.02.22(木) 22:02 | URL | コメント編集

●Lucyさん

こんにちは、Lucyさん。
読んでいただきありがとうございます。

この話は淳のGフィクの「思慕」の続きのような形になっているので、どうしてもそちらのルシィが頭にあって・・・ちょっと優しいかな?と思っていました。

>ジョーはどんな思いだった
少年期の5年は大きいです。
5年経って再び現れたルシィにどんな思いを抱いたのか。
書けたら面白そうですが・・・。

本当に5年前にナニがあったんでしょうね~~。 ← これ大事

淳 | 2018.02.23(金) 15:47 | URL | コメント編集

やっぱりルシィ姐さんは色っぽいわ~v-207
13歳のジョーって見た目はやっぱり隼のジャックみたいだったのかなってふと思ったわ。
シャワーシーンもありがとうございます。まぶたの裏でたっぷりと再生させていただきました♡
があ | 2018.02.23(金) 19:11 | URL | コメント編集

●があさん

いらっしゃいませ、があさん。
お読みいただきありがとうございます。

>隼のジャック
うーん、私はジョーのあの姿まま子どもになってほしいと(変な言い方だ)
背も伸び始める頃なので、今のジョーに近いかも。

>シャワーシーン
あはは・・・無くてもよいシーンなんですけどね。
そこは、ほれ・・書き手の好みで・・・。 (^.^)

淳 | 2018.02.24(土) 16:08 | URL | コメント編集

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