2011.10/27(Thu)

走り屋 中編(ep.R)


「シートベルトを絞めて、あとはゆっくりと見物していろ」
「絞めてるわ」
 急な横Gが掛かって体が流れ、ジョーの運転の邪魔をしないように淳はしっかりとベルトを装着した。
 ブルーコンドルのベルトは一般車両とは違い4点ベルトだ。レーシング・カーならではのものだ。
 ワイティングロードとはいえ2つの大都市を結ぶ主要道路なので、それなりに広いし整備はされている。しかしカーレースに適しているわけではない。
「さあ、最初に来るのは誰だ」
 ジョーが口元を歪めた。横GもG計画も横に座る淳さえも、その脳裏にはないのかもしれない。淳にはそれがわかる。が、不思議と虚しさも悲しさも感じなかった。それこそが自分が好きになった男だと思った。

 後方の1台がスピードを上げブルーコンドルに迫る。ガツンとリアにぶつけてきた。
「ブルーコンドルを傷つけないで!」
 淳は思わず叫んだ。大事に・・・大事に整備した車だ。目の前で傷つけられるのは苦痛以外の何ものでもない。
「大丈夫だ、淳。これくらいではこの車はビクともしないぜ」
「あなたに何がわかるの!この車を整備しているのは私達メカニックなのよ!」
 ジョーにそんな事は言いたくはない。もちろんこれぐらいの事でどうこうなるボディではないのもわかっている。
 だがこれはメカニックとしての淳の本音だ。
「・・・・・」
 ちょっと唇を噛み、しかしジョーは言葉を飲み込んだ。
 メカニックとしての淳の気持もわかる。しかし自分はメカニックではない。レーサーだ。  その気持ちのままに車を走れせるとしたら─
「!」
 リアを攻めている車とは別の車が再び横づけしてくる。

 ガツン!

「くそォ!また当てやがって!」
 余計なことを考えているひまはない。この山道で腕の立つ複数の奴らの相手をするのはたとえジョーでも簡単にはいかない。一瞬の気の緩みが命取りになる。
 ふと淳を乗せてきた事を後悔した。が、もう遅い。
(大丈夫。この名前の女は気が強い) 
「なあに?」
「え?」
「人の顔見てニヤニヤして」
「そ、そんな事はしていない」
 強い口調で言うジョー。いつの間にか淳を見ていたのかと思うと、わけもわからず焦った。だが状況はそんな甘い想いを許してはくれない。
「行くぜ!」
 ジョーは思い切りステアリングを左に切った。
 センターラインを無視しブルーコンドルに迫っていた白い車の横っ腹にぶち当て路肩に 排除した。そしてすぐさまギアをリバースに入れた。タイヤが空転しブルーコンドルのスピードが落ちる。リアにいた車が遥か後方に押し飛ばされた。
「2丁、あがり~!」
「うー・・・」
 淳は唸るしかない。大丈夫だと思うが車体に傷が付いていない事を祈るだけだ。
「さぁて、あとの3台はどう料理してやるかな」
「相手は一般人でしょ。やりすぎるとマズイわ」
「先に仕掛けて来たのはあっちだぜ」
 確かにそうなのだが・・・仕掛けやすくしていたのはこちらでは・・・。淳の疑いのまなこを、  だがジョーは無視した。
 彼の興味は残った3台に移っている。

 ワイティングロードはもうすぐ終わる。その先は市街地へと続く一本道となる。
 街中まちなかに入るまでにはカタをつけてやる。バックミラーに映る後続車にジョーの青眼が光る。
 と、いつの間にか右横に付いていた黄色い車がキキ・・・とタイヤを鳴らしブルーコンドルに寄せてきた。
「ほおら、向こうから来たぜ。おれのせいじゃねえからな!」
 嬉しそうに声を上げ、反対側にステアリングを切るジョー。だがその方向に茶色の車が 突っ込んで来た。
「うっ!」
 ガツン!と、横っ腹に衝撃を受ける。その勢いで車体が流れた。
 それが偶然にも黄色い車の前に出る形になった。思いっきりブレーキを踏む。リアに突っ込んで来た黄色の車も後ろに飛んだ。
「バレンリーダーに怒られるわぁ」
 淳が十字を切った。
「あはっ、まさしく後は神のみぞ知るってやつかぁ!」ハイテンションのジョーが茶色の車に目を向けた。が、「あ?」
 突然、茶色の車がスーと後ろに下がった。その位置に上がってきたのは今まで手出しをせず後方に控えていた赤い車だ。
 軽々とブルーコンドルを追い越し、その行く手を塞ぐようにキッと止まる。ジョーもその後ろ5メートル程に愛車を停めた。と、運転席のドアが開いた。
「ジョー」
「出るな」
 そう言うとジョーもドアを開け車外に出ようとし・・・ふと、その動きを止めた。

 赤い車の運転席から形良い2本の足がスッと車外に伸びた。そして現れたのは1人の 女性だった。
 彼らより2つ3つ年上だろうか。サラサラした短めのブロンド、遠くからでもわかるエメラルドグリーンの瞳に目を見張る美貌とその肢体。そして
「Buon braccio. tu.(いい腕ね、あなた)」
「!」
 ジョーが息を呑んだ。それは彼の生まれ育った故国くにの言葉だった。
 だがあまりに突然でジョーは何も言えないでいた。と、それをどうとったのか、
「私の名はジュリアナ。あなた、お名前は?」
 と、この国の言葉で話しかけてきた。
「・・・・・」
 それでもジョーは答えられなかった。
 何か・・わからない何かが彼を押し包んでいる。目の前にいるのは1人の女だ。恐れる事はない。故国の言葉を話したからといって、あの組織と繋がっているとは限らない。
「ジョー」
 彼の様子がおかしい。“出るな”と言われたがそれどころではない。
 淳は車外に出た。
「あら」
 ジョーのそばに寄る淳に目を留め、女性がクスッと目を細めた。そして右手を高く差し上げパチン!と指を鳴らした。
 と、ジョーに弾き飛ばされた3台の車と、被害のなかった茶色い車が彼女の下に集まって来た。
「今日はありがとう、青い車のあなた。また会える日までお元気でね」
 フワッと微笑み、その細い肢体を翻すと赤い車のドアを開けた。
 圧倒されたようにジョーは動けない。傍らで自分にしがみ付いている淳の存在さえ意識にはなかった。 
 再び複数のエンジン音が響き─ふと気がつくと周りには誰もいなくなっていた。


                    
                                           つづく





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14:58  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(3)  |  EDIT  |  Top↑

Comment

●覚書き

ブルーコンドル(青い車)は左ハンドルだ。
カーアクションでは書いていて左右がわかりにくく(いつもは右ハンドル)なるので、そのたびに絵に描いて確かめながら文字にしている。
文字はデジタル、絵は紙に描いているのでアナログ~。
おもしろい世界だわ。

2人の前に現われた女性を本当は「ルシィ」にしたかったが、年齢的にあわないので断念した。
ちなみに「ジュリアナ」の名付け親は南部響子さんです。
お忙しいところお願いして、快く受けてくださいました。
ありがとうございますーv-344 ←・・どうしろと?
淳 | 2011.10.27(木) 15:05 | URL | コメント編集

●そうそう

少女マンガはこれでなくっちゃ←違います

>名付け親は南部響子さんです
いやいや、私はいくつか候補を出したまでで。
最終的にステキな名前にしたのは淳さんですよ~

恋のライバルはギャラクターより強敵かもよ。頑張れ~淳!
響子 | 2011.10.27(木) 23:14 | URL | コメント編集

●響子さん

いらっしゃいませ、響子さん。

>少女マンガ
え~、じゃあ淳は顔の半分は眼で、中に星をため込みキラキラさせ、ジョーはバラの花を背負って登場しなければ?←古い?

>いくつか候補を出したまで
淳はずーずーしくも響子さんに名付けてもらいたかったので全然考えないでいたの。でも最初の名前で「ピンッ」ときたので、響子さんとは一心同体かと・・・←迷惑です

>頑張れ~淳!
が、が、頑張る!
ジョーにも頑張るように言ってください。
淳 | 2011.10.28(金) 15:45 | URL | コメント編集

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