2011.11/22(Tue)

走り屋 後編(ep.R)

─で、・・・なのよ。だから・・・・あたしもね・・・・─
「・・・・・」
─なのに・・・・・よく・・・じゅん・・・─
「・・・・・」
「淳!」
「わっ!」文字とおり淳は飛び上がった。「急に大きな声で・・・びっくりするじゃない、ソフィア」
「なに言ってるの。あたしはさっきからずーと話をしてるのよ」
「・・・そうだっけ?」
「ねえ、ジョーと何かあったの?最近おかしいわよ、2人とも」
「2人?」
「ジュンが言ってたわ。訓練中なのに時々ジョーがぼおッとしてるって」
 淳とはISO直属の専門学校からの友人で、この研究施設に同時入所したソフィアはG3号機担当のメカニックだ。
 明るく面倒見の良い性格で、若い女性が少ない職場でもあるのでG要員紅一点のジュンともすぐに仲良くなった。
「まさかあなた達・・・イくところまでイって、それで気まずくなったとか」
「い、行ってないわ。途中で引き返したもん」
「そーなの?」
 それは、残念ねぇ・・・と気の毒そうに自分を見るソフィアに、だが淳はそれ以上なにも言わなかった。
 そう、あの日・・・3日前になるか・・・。
 ドライブ(?)の途中で暴走族に遭って、とても魅力的な女性を目の前にして・・・ジョーは何も言えず・・・彼女がいなくなってからもジョーの心はここに在らず状態だった。
 本当ならどこかへ行くはずだったのに(・・おそらく)無言でブルーコンドルに乗り込んだ  ジョーは来た道を引き返し、淳を単身寮に送り届けるとそのまま走り去ってしまった。
 もっとも淳にもジョーを引き止める気力はなかったのだが。
 部屋に戻った淳はシャワーを浴びベッドに転がったが、今日の事を思い起こしてだんだん腹が立ってきた。が、やがてそれが不安と落ち着かない気持ちへと変化していった。
 ジョーはあの女性に興味を抱いている。あれだけの美貌の女性だ。男が惹かれないわけはない。ジョーもそうなのか・・・。
 おかげでここ2、3日はろくに寝ていない。

「淳、ねぇ、大丈夫?」
「え」淳がハッと顔を上げた。「なにが?」
「なにが、って」かすかにため息をつきソフィアが淳の肩に手を掛けた。「チャンスはいくらでもあるわ。ジョーも若い男だもん。大丈夫、きっとその日が来るわ」
「・・・?」
 うんうんと頷くソフィアに淳は首を傾げた。

「おい、ジョー。なんだよ、この始末は」
「え?」振り向くジョーの目に不機嫌そうな健が映った。「なにがだよ」
「わかっていないのか」空色の瞳が青い瞳を真っ直ぐに見据える。その目にいつもの鋭さはない。「・・・まあ、いい」
 怪訝そうに見つめるジョーの前に健はコーヒーの入ったカップを置いた。
「何かあったのか?ここ2、3日のお前は─」
「金髪の美女と栗色の髪のおてんば娘と・・・おまえならどっちを選ぶ?」
「は?」
「美女なんだが・・・それだけではなくて・・なんと言うか・・人目を引いて魅力的で・・・。でも、何かありそうで近寄り難くて・・・。おてんば娘はそのままおてんば娘で生意気で・・・」
「・・・・・」
 まじまじと自分を見る健の目に、
「い、いや、なんでもねえ。なんでも・・・わっ!なんだこれは!」
「今頃気づいたのか」
 肩で息を吐き、健はジョーの手元に目をやった。訓練用の機械パーツに無数の穴が開きボルトがねじ込まれていた。
「ひとつでよかったのに・・。やり直しだ、くそっ」手にしているパーツを放り、新しいのを取ったが、「ところで何か用か?」
「南部博士の誕生日だから今夜は皆でパーティをしようと約束していたじゃないか。おれ達は買出し担当だ」
 ヒラヒラと健がメモを振った。
「ああ・・・すまない・・・。そうだったな」
 ジョーはチラリと時計を見るとレンチやボルトを片付け、健と共に訓練室を出た。と、廊下の向こうから歩いてきたのは─。
 ジョーは足を止めた。
「──」
 小さな口が動き、
淳も立ち止まった。
 廊下の真ん中で見詰め合う・・・しかし決していい雰囲気ではない2人に健も足を止めた。が、
「今日はもう上がりかい?淳」
「・・・ええ」
「ちょうどいいや。買い物を手伝ってくれよ」
「え?」
「お、おい、健」
「ジュンに買って来るものを頼まれたんだけど、スーパーに慣れてないからわからないんだ。頼むよ、淳」
「ジュンに頼まれたって・・・あいつが料理するのか?」
「いや、シェフがいるよ。だけどジュンも何か作りたいようだ。今はまだG3号機の調整中で買い物をしているひまがないんだって」
「だけど─」
「大丈夫。別荘に胃薬ぐらいあるさ。さ、行こう」
 健が淳の背中に手を添え歩き出す。
 その後姿に眉をしかめたジョーだが、やがて2人の後に付いた。

「やっぱり女の子だな。商品のある所がすぐにわかるなんて。おかげで思ったより早く買い物が済んだよ」
 ルームミラーに映る淳を見て助手席の健が微笑んだ。どういう顔をしていいのかわからない淳はぎこちなく口元を動かしてみせた。
 だが店でも青い車に乗ってからもジョーは無言だった。
 怒っているわけではないようだが─第一、怒られる理由はない─いつもの無愛想な貌を顔面に貼り付けて黙ってステアリングを繰っていた。
 車は街を抜け、もうすぐワイティングロードに入る。3日前にジョーと共にブルーコンドルを走らせた所だ。
 あの時は左に曲ったが、今夜は─。と
「あっ」
 ジョーが小さく声を上げた。まるで降って湧いたように、ブルーコンドルのフロント越しに 赤い車が現れた。ジョーが思わずブレーキを掛けた。
「ジョー?」
 シートベルトに体を締められ健が隣を、そしてフロントを見た。ブルーコンドルのスピードが落ちやがて止まると赤い車もそれに合わせ停車した。
 サイドブレーキを引きジョーがドアを開けた。
「どうしたんだ、ジョー。知り合いか?」
「すぐ戻る」
 ジョーは健の問いには答えず、そのまま赤い車に向かった。淳が辺りを見回す。今日は あの車一台だけだ。
「おかしな奴だ。ま、ここ2、3日変だけど」
「・・・・・」
 淳は前席の間から前方を見つめた。
 赤い車から降りたあの女性がジョーに何か言っている。ジョーはちょっと驚いたように女性を見つめたが、かすかに首を振ったように見えた。
 やがて踵を返しジョーがブルーコンドルに向かう。女性は後を追ってこなかった。
「待たせたな、行こう」
 運転席に着きジョーが言った。誰にも、健にさえも何も言わせない圧力を全身から発している。
 怪訝そうな目をジョーに向け、だが健は何も言わなかった。もちろん淳も口を出さない。それどころかここからいなくなりたいと思った。
 彼女は何を言ったのだろう。ジョーは拒否しているように見えたが・・・。
 青い車は停まっている赤い車の横を、女性のブロンドを煽るように走り抜けると右に曲った。

 その夜、海の見える別荘では主の南部博士と5人のG要員、そして飛び入りの淳とで  ささやかな誕生日の食事会が行われた・・・らしい。
 ・・・というのも、淳はその時の事をよく覚えてはいないのだ。
 食事会の後の雑談も、ジュンがお気に入りの曲を掛けディスコパーティになり、昔取ったナントヤラで博士が踊った・・・らしい・・・事も・・・残念ながら覚えてはいなかった。
 気がついたら別荘の一室のベッドの中だった。窓から差す陽はもう明るい。
 あわてて階下に行くと、居間のソファでジョーが1人雑誌を捲っていた。
 彼は淳の存在に気がついていなかった。このまま襲い掛かったら淳でも傷のひとつや  ふたつ負わせる事ができるかもしれない。そう思わせるほどジョーは無防備だった。だから
「おはよう、ジョー」思い切って掛けた声にジョーは文字通り飛び上がった。「寝坊しちゃったわ。みんなは?」
「・・・ああ、あー・・あいつらは・・・」
 テーブルの上に置いてある雑誌をバタバタと閉じて─だが淳が向かい側に座ったのを見るとフゥーと大きく息をついた。その表情は何かを言うべきかどうか迷っていた。
「昨夜、あの女性ひとに何を言われたの?」
 ズバリと淳が訊いた。ジョーの眉が跳ね上がった。
 淳の・・自分の鼓動が聞こえてくるようだ。だがここで訊かなかったらもう二度と訊く事はできないだろう。
「とても魅力的な女性ね。綺麗過ぎて女の私でもドキドキしちゃう」
「・・・誘われたんだ」
「えっ」
 淳の胸がドキッと跳ねた。
「彼女、自分のレーシング・チームを持っていて、そこにレーサーとしておれをスカウトしたいと─」
「レーサーとして・・・」
 レーサー・・・なんだ、そうなんだ。レーサーとしてのジョーにしか興味がないんだ。
 ・・・いや、本当かしら?
「国際基準のサーキットを自由に使えて、レーストライもおれのテーブルに合わせてくれるそうだ。実は・・・」
「・・・ん?」
 口を噤んでしまったジョーを淳が優しく・・・あくまでも表面だけだが・・・促す。
「昨日・・彼女の言うサーキットに行って来た。隣の街の外れの・・・」
「・・・・・」
「彼女、研究施設に行くおれのコースを知っていたんだ。どうやってわかったのかと訊いたが教えてくれなかった。サーキットは彼女が自慢するだけあって1300メートルのメインストレートやパドック(ピット)を持つ国際レースもできる立派なものだったよ」

 これが個人のものなのか、とジョーはアッケにとられた。その彼にそっと寄り添い、
─どう?ここを思いっきり走ってみたくない?─
 エメラルドグリーンの瞳を細めジョーに微笑み掛ける。
─私はあなたの叩き出すエキゾーストノートが聞きたいわ─
 柔らかく暖かい彼女の肢体・・・   そして目の前に広がる無限の世界、切望・・・
     それを求める自らの手・・・     ・・・それを伸ばせば届くのか?

「そんな事、無理だってわかってる。だけど・・・」
 両親をギャラクターに殺され、その仇を討ちたい─。詳しい経過はわからないが、ジョーが過酷なG要員になった理由を淳はそう聞いている。
 それに関する事ならまだしも、本格的にレーサーの道を歩むのは今のジョーには無理な話だ。それゆえ、あの女性の誘いに心が動くのだろう。
「親父やおふくろの仇を討つためにはここにいなければならない・・・。1人になったおれはあまりにも無力だ・・・」
 レーサーはジョーの夢だ。だがそれを叶えるためには今の自分の立場を放棄しなければならない。そんな選択ができるだろうか。
 淳はジョーの横に腰を下ろした。彼の肩に伸びる手を、ふと止めた。傍らの体をいだき、思い切り抱きしめてあげたい。だがそれを彼は望むだろうか。
 そう思うと伸ばしかけた右手を自らの左手で押さえた。




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Comment

●覚書き

サーと書いたはいいが、このストーリーってどこに行くんだろう。
苦手だぞ、三角関係・・・っていうか、こーいう話・・・。

ジョー、淳、ジュリアナの心内がうまく書けない。
いかん、神島桐子(@鵺子ドリ鳴イタ 封殺鬼)のように乙女小説でも読んで勉強・・か?

淳 | 2011.11.22(火) 14:08 | URL | コメント編集

●踊る南部博士

見てみたかったですね>踊る博士>まさか盆踊りでは無いですよね?(笑)
健が何気に気を効かせているのが可笑しいわ。

こちら方面は苦手とおっしゃりながらも 作品を書きあげる淳さんはチャレンジャー。
私なぞ、こちら方面は手も頭も動きません。
私の乙女心は何処?(爆)
へい | 2011.11.22(火) 16:18 | URL | コメント編集

●へいさん

いらっしゃいませ、へいさん。
コメントありがとうございます。

>盆踊りでは無いですよね?
日本人はやっぱり盆踊り?
踊ったのか踊らなかったのか・・永遠の謎になりそうです。
誰か、かの5人を脅して聞きだしてみて。

>健が何気に気を効かせている
あの2人は誰かが背中をどつかないと進まない気がするんです。
まあ、このさい健でも・・・←どつかれます、健ファンに

>チャレンジャー。
@「美しきチャレンジャー」?あ、ぶたないで

>私の乙女心は何処?
いえいえいえ・・・淳は「ニーハイ」がわかりませんでした。
見た事はあるけどアレがそういう名称だったなんて・・・。
検索しちゃいましたよv-12
淳 | 2011.11.22(火) 16:40 | URL | コメント編集

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