2012.02/02(Thu)

Near miss

「うわ・・」
「まあ・・」
 店のドアが開き、入ってきた男達を見てジンペイとジュンは目を見開いた。
「どうしたんだいアニキ達、その格好・・」
 惚けたようなジンペイの声ーが、それも無理はない。
 いつもはTシャツとパンツというラフな格好のケンとジョーが、今日に限ってスーツでビシッっと 決めている。
 それもケンは、その変身後のような真っ白の上下、そしてジョーは黒に近い濃紺─ネクタイまで同色だ。
「まさか、おいら達の定番がスーツに替わったとか」
「博士の護衛ね?」
 ジュンが言った。入ってきた時は驚いたが、1分も見ていたら慣れた。
 ケンもジョーも、それぞれ独特な雰囲気を持つが、そのスラリとした長身に助けられ、何を着ても様になる。
「今夜、ISO主催のパーティがあるって聞いてるわ」
「そういう事だ」
 ケンがカウンターのスツールに無造作に腰を下ろした。その横に座るジョーもいつものようにカウンターに肘を乗せ、数少ないメニューを見ている。
 シワにならないかしら、と心配したジュンだが、
「でも、どうして2人が護衛に付くの?ISOには護衛のプロが大勢いるのに」
「今夜のパーティは出席者が多いんだ。ISO本部の人間だけではなく、この一年で科学の発展に貢献した各国の科学者も大勢出席する。そこで外部のボディガードサービスにも頼もうとしたんだけどー」
 いい話ではないが、世界各地でボディガードの需要が年々増している。
 この夜は隣の市でも要人が集まる催し物があるらしく、ISOとはいえどおいそれとボディガードの増員はできなかった。
「それでアニキ達におハチが回ってきたんだね。察するに、人当たりのよさそうなケンのアニキがパーティの会場内を、強面のジョーが外の警備ってとこかな」
 ジンペイの言葉に二人は顔を見合わせた。当たっているらしい。
「でもジョーはともかく、アニキの評価は間違っているよな、博士」
「なんだと」
「こいつめ」
 左右から出てきた二本の大きな手を、ヒョイヒョイとジンパイが見事に避けた。これも日頃の訓練の・・いや、実戦の賜物か。 
「おいらも行きたいな。博士に頼んでみようかな」
「でかくなって、スーツを着こなせるようになったら、お呼びが掛かるかもな」
 フンッ、と鼻を鳴らしたジョーが、まるでその厚い胸板を誇示するように、ジンペイに体を向けた。
 ボタンをはめていない上着の胸元から、ホルスタの細いベルトが見える。特別に銃の携帯が許されたのだ。濃い色のスーツといい、その風貌といい、ボディガードというよりは、もうちょっと怖い類の人間に見える。と、
「今、ロクでもねぇ事、考えただろ、ジンペイ」
「えっ」
 真っ向から睨めつける青い瞳に、ジンペイの心臓が飛び跳ねた。
 こういう時のジョーのカンはよく当たる。いや、すでに事実を言っているのだが。
「お、おいら別に─。ジョーのアニキが外からガードしててくれれば、どんな奴らが襲ってきて大丈夫だな~って─」
「そうだな」
 助け船か、ケンが言った。
「そのためには腹ごしらえをしておかなきゃ。いざという時、腹ペコで動けませんじゃマズい。すぐに出来るものでいいから何か食わせてくれ」
「・・・・・」
 ジンペイはチラッとジュンに目を向けたが、彼女が何も言わないので少し考え、大きな皿を出し、その上にこんもりと白いものを盛った。
「なんだ、これは?」
「パンの耳を揚げて砂糖を塗したものさ。意外といけるぜ」
「おい、ジンペイ。おれ達はこれから仕事なんだぜ。もっと腹に溜まるものにしてくれ」
「・・おいらのおやつ、分けてあげたのに」
 ブツブツ言いながらも、ようやく冷蔵庫からオープンサンドの材料を取り出した。
「あ、それは南部博士にツケといてくれ。任務のための腹ごしらえだからな」
「ええー、またかい!?いいのかな・・」
 それでもカウンターの下から台帳を出し、しっかりと記入していく。
 スナックJにツケがあるなんて、博士は思ってもいないだろう。こちらとしても請求しにくく、だんだんと溜まっていく。
「うまいな、この揚げパン耳。お前は料理の天才だな」
 文句を言うわりにしっかりと摘んでいるケンに、ジンペイは小さくため息をつくしかなかった。

 ISO主催のパーティは、その本部ビルに隣接したISOホールで行われた。
 広い会場には舞台と1階、2階席があり、学会はもちろん各種発表会や講習会、イスを取り除けば今回のような立食パーティにも使われる。
 出席者の多くは科学者や若い研究者なので地味なパーティかな、と思ったケンだったが、南部博士に続いて会場に入ると、その華やかさに驚いた。
 天井から降り注ぐ明るい光の中、300人程の男女がグラス片手にゆったりと会話を楽しんでいる。
 ハデな服装ではないのに華やかに見えるのは彼ら1人1人の表情のせいだった。長年の研究が認められ、その功労が労われているのだ。学者としてこんなに嬉しいことはないだろう。その表情は誰もが輝いている。
「論文を読みました、ミスターブラウン。ニュートリノについてもっと詳しくお聞きしたいですね」
「は、はい、ぜひ─」
 ISOの重鎮の1人である南部博士に声を掛けられた若い学者が、顔を高潮させ答えた。このような優秀な若い者を見出し、その研究を援助するのもISOの大切な仕事の一つだ。間違っても、その才能が悪魔の手に落ちないように、と。
 南部が動けば人の波ができる。ケンはその南部の後ろに、さながら白い影のようにピタリと張り付いていた。だが自らの気配を見事に消しているためか、目立つ容姿であるにも関わらず、ケンに気を止める者はいなかった。
 と、ケンのイヤホンに、アンダーソン長官と科学省の大臣が到着したと連絡が入った。
(これだけの要人が集まっている所を、ギャラクターに襲われたら─)
 ケンは辺りに気を配り、南部に近づく者からも目を離さない。
 しかしその心の片隅にはーこのホールの外にはジョーがいる。奴が護っているんだ。何者でも、そう簡単には潜入を許す事はないだろう、と思っていた。

 一方、ジョーはホールの東側ー関係者が使う出入り口付近にいた。
 他のガードサービスは5、6人のチームで動いているが、ジョーは1人だ。その方が遣りやすいと南部に頼んだのだがー。しかしジョーはイラついていた。
 元々警備だの護衛だのは苦手だ。ヘタな役者と一緒で動いていないとおちつかない。
 南部にはケンが張り付いているんだから自分がいなくても大丈夫だろう、と思うがーかといって、実体を見せずにトンズラするのも気が引ける。
(チェッ、リュウにでも押し付ければよかったな)
 あの巨体に黒いスーツを着せて置いておけば、それだけでいい脅しになる。いや、眠っちまうかも─。

 頭上から音楽が聞こえてきた。
 ホールは3階にあるのでジョーの位置からは内部は見えない。ただ大きな窓からもれる明かりと、ワルツだかタンゴだか分からない調べが聞こえてくる。パーティは無事進行しているらしい。
 ジョーはホールを見上げ─しかしその目が捕らえたのは天空に浮かぶ大きな月だった。
 うす雲に覆われ、それでも淡い光を発する月を見て、ジョーはホッと息をついた。
(こいつはどこから見ても、同じだ・・・)

 故国の島から南部によって助け出され、この国の白くて四角い部屋で何日も過ごした後、幼い ジョージは南部の所有する海の見える別荘で暮し始めた。
 彼に与えられたのは2階の角部屋だった。
 子どもの部屋とは思えない程あっさりとした室内に─だが置かれているデスクやベッドは高級品だった。
 特にベッドには気を遣い、ジョージの体重や体型に合わせてスプリングが調整された。
 南部は、病院のベッドで─薬で眠っているのにもかかわらず─ジョージが安心してその身を横たえてはいないと感じていた。だから、これから暮すこの部屋では安心して眠って欲しいと思ったのだ。
 しかしここへ来て数日間、ジョージは眠ることができなかった。
 そんな時は同居している大人達には何も言わず、部屋のベランダから一晩中、外を見ていた。
 故国とは違う海や空。はるか遠くには街の明かりが輝き、空気の温度まで違う街─。
 ふと、自分をやさしく包んでいる光に気が付いた。暗い天空に浮かぶ月─故国の島で見たのと同じその姿─

(そりゃそうだ。四角くなっていたら、そっちがびっくりだ)
 感傷的になっている自分を恥じるように、ジョーが鼻を鳴らした。
 ひと回りしてこようかと踵を返すと、月の光が降り注ぐ地面にキラリと光るものがあった。
 少し厚みのある丸いもの・・女性用のロケットだ。中には20代の男の写真が入っていた。神父か・・それとも牧師のような格好の・・しかしジョーには区別がつかない。
 だが、どこかで見たような顔だと思った。と

バラ 

 突然、頭上からボンッ!と何かが弾けた音が響いた。顔を上げて窓を見るがここからではわからない。ジョーはブレスレットを口元に持ってきたが
『パーティ会場で小爆発ー』
 耳のイヤホンから、警備の責任者の声が聞こえた。
『ーケイン班、レッド班は会場に─、ガル班は正面の─』
 外の警備も会場にまわすようだ。
 とっさにジョーも走り出そうとしたが、すぐに足を止めた。
 南部にはケンが付いている。大丈夫だ。それに、ここから動いてはいけないとジョーのセンサーが言っている。
「Lo ritorni─」
(─え)
 声に目を向けると、女が立っていた。こんなにそばに来るまで気が付かなかった。
 ドレスを身に纏い、しかしその顔には仮面を被っている。ただのパーティ客ではない。いや、それよりも女の言葉だ。
「Lo dia qui」
 それは紛れもなくジョーの故国の言葉だった。もう10年も口にしていない。
 一瞬、何を言っているのかわからなかったが
(返せ、だと?)
 一瞬の間の後、言葉の意味は理解したが─。
 と、女の手が振り下ろされた。1輪のバラが、今だロケットを握っているジョーの右手を掠った。
 とっさに手を離す。ロケットはバラの花と共に地面に落ちた。ジョーは拾おうとし─だが動けなかった。
 月の光の下、大輪を咲かすバラが何故か恐ろしい。自分自身にも手を出せないどこかに押し込めていた記憶が、ジョーの脳裏に甦り彼の動きを止める。その一瞬のスキに女がロケットを拾った。
(チッ─)
 ジョーはホルスタから銃を抜いた。
 ブローニング・ハイパワー─ブローニング社を代表する息の長い良い銃だ。もっとも彼がいつも 手にしている忍者隊の特殊銃に比べればおもちゃのような物だが。
「誰だ、お前は」
 ジョーが女に銃口を向けた。女の手が再び振られた。バラがジョーの足元に突き刺さる。すぐさま飛び退いた。
 バンッ!とバラが跳ねたが爆発の規模は小さかった。
「─スター2号」
 別の女の声がした。
 ジョーは一瞬、自分が呼ばれたのかと思ったが、バラを持った女が反応した。
 今までの殺気が薄れジョーに目を向け、悲しそうな─仮面を被っていて素顔は見えないのに─貌になり、だがすぐに身を翻した。
 ホール関係者の出入り口から3、4人の女が走り出て、仮面の女も合流した。
「まて!」
「ジョー!」
 ケンが女達を追ってきた。が、
「伏せろ!」
 シュッと空気を裂きバラが飛んで来た。2人は地面に伏せる。が、今度は爆発しなかった。
 ジョーが体を起こすと
「まて、深追いをするなという南部博士の命令だ」
「何者なんだ、あいつら。ギャラクターか」
「おそらくな。会場で小さな爆発を起こしその混乱に乗じてブラウン博士という若い科学者を連れ去ろうとしたんだ」
 だがその作戦は失敗した。博士達の回りをボディーサービスが固めるのを確認してケンは女達の後を追ってきたのだ。
「そういえば彼女達のうちの1人が─」
 言いかけて、口を閉じた。
 ケンが言うまでもなくジョーは気が付いているだろう。だが口には出さない。ケンもこれ以上は 何も言わない。
 と、イヤホンに各持ち場に戻るようにとの連絡が入った。
「じゃあ、おれ戻るよ」
「ケン」
 とっさに呼びーしかし後の言葉が続かない。
「・・いや、なんでもない・・・。南部博士を頼んだぜ」
 そう言うと、ジョーは持ち場に戻るため踵を返した。怪訝そうに眉を寄せ、しかしケンもまたホールへと戻って行った。

 ジョーは女が落としたロケットの事をケンに言わなかった。
 長い付き合いだがお互いになんでも包み隠さず話してきたわけではない。よく知っている間だから話したくない事もある。
 だがギャラクターの女が落としたロケットの事など話してもなんの影響もないし隠す事でもない。なのになぜ─
(また、どこかで・・会うかもしれない・・・)
 ふと見上げると、先程まで月にかかっていたうす雲がとれ、煌々たるその光が不安を押し込めようとする己の心をやさしく包んでいるように感じた。
 

      
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Comment

●覚書き

チャットの時に出たのだったか・・・。

格好良いジボディガードの話を書こうと思ったが、地味にジョーの回想話になってしまった。

BC島はギャラクターの養成機関なのでジョーの昔の友人もあの緑色のマスクを被って、ジョーの前に立っているかもしれない。
そうとは知らずジョーは彼らと会い、そして倒しているのか。
淳 | 2012.02.02(木) 17:14 | URL | コメント編集

●亀レスですみません

わ~い♪
こちらでもまたこのお話が読めて嬉しいですぅー

まぶたの裏にカッコよすぎるケンとジョーが浮かんで身悶えしますi-80

>BC島はギャラクターの養成機関なので
言われてみるとそうなのよね~
「知らねえ方が、知らねえ方が幸せだと言ったのは…、お前なのによお」(泣)

島で養成されたのはエリート幹部で大抵はカッツェに自爆させられたものと考えたいです(だって悲劇的すぎるもんi-182
で、雑魚ギャラはジンジン刑務所みたいなところから調達して来たと・・(ムリか・・)
南部響子 | 2012.02.05(日) 12:45 | URL | コメント編集

●南部響子さん

ううん、亀でも鶴でもコメントはありがたいですーv-354

かっこよくハデなアクションを書こうと思ったんだけど、ふと「幼馴染」の事が浮かんでしまいこーなっちゃいました。
またいつか護衛の任に就くかな。ジョーはいやだろうけどね。

>島で養成されたのはエリート幹部
そうか、うん、そーいう考え方もあるわ。
今、「海峡」の続きを書いているので、ちょっと考える・・・

>ジンジン刑務所
あれ、そういえば「ジンジン」ってどういう字を書くんでしょうね。
カタカナで書くとなんか・・・へんな感じ(す、すみません<(_ _)>)
淳 | 2012.02.06(月) 12:12 | URL | コメント編集

●管理人のみ閲覧できます

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 | 2014.02.28(金) 18:09 |  | コメント編集

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