2012.02/29(Wed)

思慕 後編


「また行くの?」
「・・・・・」
 ジョーは上目使いに健を睨め上げた。
「グラーク・レーシングチームは君にとっては魅力的なんだろうね」
「・・・・・」
「メカニックに〝ハリー〝という名の男がいるだろ。彼には注意した方がいい」
「なんでそんな事言うんだよ!」
 とうとうジョーは爆発した。健の言う事はいつも的確だ。外れた事はない。だが─。
「ハリーが、グラーク・レーシングチームがどうしたというんだ!はっきり言えよ!おれはお前のそういうところが─」
 ハッとジョーが口を閉じた。目の前の健のかおが・・・なんとも言えない憂いを帯び、空色の瞳に映るジョーを見つめている。
 まだ何も言えないという事か。
「・・・出て行ってくれ」
 ジョーの呟きにちょっと口元を動かし、だが健は黙って部屋を出て行った。

「ジョー、こっちよ」ルシィが呼ぶ。「これで3回目よ。本当に車が好きなのね」
「ルシィだってよく来てるじゃないか。車が好きなの?それとも─」
 ふいに言葉を切り、目を逸らしたジョーを見てルシィが微笑んだ。
「車は好きよ。ハリーはただの友人・・・いえ、仕事仲間かな」
 仕事仲間?とジョーがルシィに目を向けた。
「私はね、ジョー。もっと大きな仕事をしたいの。昔、憧れた男性ひとが、ある巨大な組織の幹部でとても大きな仕事をしていたわ。私はまだ子どもだったけどその男性ひとは大人で・・・男らしく自信家で・・でも時として迷いがあるのか、ふと寂しそうなかおを見せて─」
 なんの話だろうとポカンとしているジョーに気がつき、
「ごめんなさい、昔の話だわ」だが、スッとジョーの頬に手を添えて、「その男性ひと・・なんとなくあなたに似ているわ。口ひげがあったらそっくりかも」
「・・・・・」
 ルシィの手の暖かさにジョーはとっさに顔を背けた。
「ところで、試験はどうだったの?」
「・・・昨日受けた。結果は3日後だって」
「そう。きっと受かっているわ」明るく言ったルシィだったが、「本当はエスペラントを習いたくなかったんじゃない?」
「え・・・」
「なんとなく、そんな気がしたの」
「・・・・・」
 ジョーは思わずルシィを見つめていた。何回か講習を受けるうちに自分の心を読まれていたのだろうか。だが、彼女になら・・・。
「エスペラントを習ったら、自分の国の言葉を忘れてしまうかもしれないと思って・・・」
「ジョーはユートランド出身じゃないの?」
「・・・・・」
「いくつもの言葉を習っても自分の故郷くにの言葉を忘れるなんて事はないわ。大丈夫よ」
「・・・・・」
 緑色の大きな瞳がジョーを捉える。なぜかその言葉を信じられた。そう思えたのはこの国に来て2人目・・・だった。
「さあ、もう行きましょ。もうすぐマシンのセッティングが始まるわ。見たいでしょ?」
 その時、“ルシィ”と声が掛かった。ハリーの部下だ。
「ハリーがオフィスに来てほしいって」
「なにかしら。先に行っていて、ジョー」
  部下と行ってしまったルシィにジョーはちょっと口元を曲げた。が、マシンのセッティングは見たい。ここ何日か頼み込んで、ようやく見せてもらえるのだ。
 曲げた口元に笑みが浮かぶ。車好きの13才の少年にとって、ここはプレイランドのように興味深いものばかりだ。


20100609220618c57s.jpg 


 約束の時間には少し早いがジョーはセッテイングフロアへと向かった。と、
「あっ!」ふいに飛び出してきた誰かとぶつかった。「ルシィ」
「ジョー」
 一瞬顔を見合わせ、だがルシィは駆けて行ってしまった。
 ポカンとするジョーが、だがその目は小さく開いたドアの隙間からハリーの姿を捉えた。
「なぜルシィだけなんですか!私も一緒に、という約束だったはずだ」ハリーの話し相手はモニタの中にいた。「私はこの街やISOの情報を集めてあなたに送っていた。役に立っていたはずだ。そうでしょ、カッツェ様」
(かっつぇ?あのモニタの中の奴か・・)角度が悪いので画面全部は見えないが、確かに人らしきものが映っている。(・・・なんだろう。とてもイヤな感じだ・・・)
「誰だ!」
 振り向いたハリーとジョーの目が合う。ハッとジョーが身を翻そうとしたが、

 ピッ!

 ハリーの持つ銃がかすかに音を立てた。サイレンサーだ。
 肩に衝撃を受けジョーは転倒した。その体をハリーが部屋へ引きずり込む。
『なんだ、その子どもは』
「ルシィの知り合いです。見学に来ていて─」
『私の存在を知ったからには生かしてはおけない。始末しろ』
 それだけ言うとモニタが消えた。
「・・・可哀想だが─」
「まって!」ルシィだ。「ジョーを殺すの?まだ子どもよ」
「だが、カッツェ様との通信を見られた。今はまだ時期が早い」
 ハリーが床に転がっているジョーに再び銃口を向けた。

 ピッ!
 
「・・ル、ルシィ・・・」
「ごめんなさい、ハリー」銃口を向けるルシィの大きな緑色の瞳が揺れた。「あなたを始末するようにと・・カッツェ様に・・・」
「ル・・ルシ・・・」
 ドッ!とハリーの体が床に倒れる。しばらく動いていたが、やがて静かになった。
 ルシィは哀れむような眼をハリーに向け、だがグッと顔を上げた。これからもっと厳しい世界が彼女を待っている。ここで立ち止まっている暇はないのだ。だが・・・。
「ジョー・・・」
 床に転がったまま意識のないジョーの傍らに屈み、その頬にソッと手を触れた。
「もうここにはいられない。あなたとも会えないわ」ルシィの顔がジョーに近づく。「さようなら、   ジョー。あなたは・・・」
 頬にソッと口づけ・・その後の言葉はくうに消えた。

 ジョー・・・
 誰だろう・・・。優しい声がする。体が動かない。どこか・・痛い・・・。

「ジョー」
 深く、自愛に満ちた声・・・。今度ははっきりと聞こえた。ゆっくりと目を開けると、
「・・・博士」
「私がわかるかね?良かった、ジョー」メガネの奥の瞳が大きく揺れた。「すまなかったね。まさかルシィが─」
「ルシィ・・・?」ジョーが眉をしかめた。「・・誰です、それ・・・」
「君はルシィを・・・」
 ショックによる一時的な記憶の欠落だろうか。ジョーと出会った5年前も、彼は〝両親の死〝という事実の細部を覚えていなかった。
「博士・・・おれは・・・」
「事件に巻き込まれたんだよ。だがもう心配はいらない。今はゆっくりとお休み」
 ブランケットを胸元までかけてやりポンポンと軽く叩くと南部は病室から出た。廊下には健が待っていた。
「大丈夫ですか、ジョーの奴」
「ああ。サイレンサーらしく、弾の威力が弱かったからそれほどダメージはないだろう。落ち着いているよ」南部は健の肩に手をかけた。「君のおかげで早く手を打ちジョーを助ける事ができた。礼を言うよ、健」
「いえ・・・。ぼくはただ、グラーク・レーシングチームがバイトを募集していて、その仕事の内容が法に触れるのでは、という友人達の話を耳にしただけで」
「学生達の情報網は時として私達より速くて正確だね」
「そろそろジョーにも例の組織の事を話しておいた方がいいんじゃありませんか。奴が知っていてくれた方がぼくもやりやすいです」
「そうだな・・・」
 そう答えたものの南部は迷っていた。
 例の組織とジョーとは深い関係─今はまだ南部しか知らないが─がある。しかしジョーはその事を忘れているようだ。できれば知らずにいた方がいいだろう。
 だがその組織と関わっているうちに幼い頃の記憶が甦ってくるかもしれない。それは彼を苦しめ、ヘタをすると2度と立ち上がれないくらいに叩きのめされるだろう。
 そんな戦いに彼を巻き込んでいいものか。
「博士?」
「ん・・・」
 巻き込みたくはない。しかしこの健同様、類まれな身体能力を持つジョーが〝計画〝に協力してくれれば大きな力になる。
 それに南部がジョーを島から連れ出し自分の手元に置いた時点で・・・G計画のメイン要員として育てた地点で、もう充分に彼を巻き込んでいる。目の前にいる少年同様に。
「折を見て話をするよ。彼はきっと協力してくれるだろう」
 自分を諭すように南部は頷いた。


                                        おわり


                                            


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Comment

●覚書き

5年前にジョーを助けたあの島はギャラクターの島で、南部はその組織を知っていた。
調べれば当然ジョーの素性はわかるだろう。
この時点で南部は知っていたと判断するのが自然で、この話はその設定で書かれている。

この時、ジョーはルシィを思い出す事を拒否した。
が、のちにどこかで思い出す→またどこかでルシィの話が書けるかもv-391
淳 | 2012.02.29(水) 11:52 | URL | コメント編集

わ~い
もう完結後編が読めるなんて嬉しすぎます~ i-185

前にもどこかで言ったけれど、わたしルシィのことは好きじゃなかったわ。
ジョーを顎でこき使ってさ。
「ナゾ」が多すぎるシィ・・(す、すみません)

でもだからこそ創作意欲を掻き立てられるわね

南部博士は、ジョーがギャラクターの子だったと健から報告を受けても動揺を見せなかったわ。
やっぱり知っていたのかな
それなのに「親の敵(かたき)だ」とだけ吹きこんで戦いに巻き込んだのはいかがなものか?
自分が所属していたかつての組織と戦うデビルマンやタイガーマスクと同じようでちょっと(いや、随分?)違うところがまたこの作品の魅力ね

>またどこかでルシィの話が書けるかも
きゃ~!
お願いします♪

長々とすみません<(_ _)>
響子 | 2012.02.29(水) 21:31 | URL | コメント編集

●響子さん

コメントありがとうございますう!

ええ、私もルシィは好きじゃなかった。初見の時は、「なによ、この女」って(若いぞ、自分)
でもこの年になると、なぜかルシィが可愛そうになり・・。
で、それ以上に気になったのが5年前の出会い。
どこでどうやって・・どうなったんだろうって。
ちょっと安易な内容だけど、ま、これはこれで。

「サイボーグ」なので以前は「生身の人間」だと解釈しました。(#27のラストを見るとロボットみたいだったけどね)

>「親の敵(かたき)だ」とだけ吹きこんで戦いに巻き込んだ
正直、これが難しいところです。
博士はジョーに自分の元にいるいきさつをどのように話をしたんだろう。
#78で全部思い出したけど、それまではどこまで覚えていたのか。

本篇では明解に描かれていないので、フィクとして入る余地があるよね~。
淳 | 2012.03.01(木) 10:57 | URL | コメント編集

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