2012.03/15(Thu)

今日は何日よ(ep.R)


「何が欲しい?」
「え?」
「だからチョコレートのお返し」
「・・・・・」
 まじまじと淳は目の前のジョーを見た。
 確かに一ヶ月前にチョコをあげた。しくじるなよ、とジョーにささやく健も見たし、研究所内のカフェでジュンに、「今日はバレンタインのお返しをする日よ」とあれこれご教授されていたジョーも見た。
 が、こんなにもあからさまに訊くか?ふつう。
「キャンディかクッキーでもいいと聞いたけど、そんなもの食ったらますます太るしな」
「・・・・・」
「ハンカチなんかの小物も、すぐに真っ黒になりそうだ。タオルの方が実用的だろう」
「・・・・・」
「それともメカニックに頼んでダイエット用の強力ランニングマシンを─」
「いらないわ!」
「え?」
「バレンタインのお返しはね、好きな女の子にするものよ。貰った子全員にするもんじゃないわ。 なんでもいいからあげるなんて、そんなのいらない!」
 クルッと後ろを向くとそのまま廊下を駆けて行ってしまった。
「・・・なんだよ、あいつ」貰った子全員だって?おれは1人にしか貰ってないのに。「いらねえならいいや。メンドーだしよ」
 さーて、午後からはコースで飛ばしてやるかな、とジョーの関心は青い車に移っていた。

 まったくあのトウヘンボク。なんなのよ、いったい。お返しなんて期待してないわよ。
 いや、物なんて欲しくないわ。欲しいのは・・・。ええい!欲しくないったら!
「・・・淳」曲がり角で鉢合わせした友人のソフィアが淳の顔を見て思わず2、3歩下がった。「どうしたのよ、その顔」
「あんなに無神経な奴だとは思わなかったわ。もう知らない。ソフィアにあげる」
「?」憤怒の淳を宥め話を聞くと、ソフィアは肩でため息をついた。「なんだ、そんな事」
「欲しい物を訊くのはまだいいわ。でも人の事をデブだの真っ黒だの好き勝手言って─。真っ黒なのはどうしてだと思ってるのよ。持って行っていいわよ」
「まだ淳のものでもないのに、あげると言われても・・・」ウッと淳が詰まった。が、当たっているので何も言えない。「それに・・・他の人には言わないのよね、ジョー」
「え?」
「そんなふうに砕けた話し方をしないって事よ。ああ、とか、うん、とかだけで─」
「・・・それって私がその程度の相手だから」
「もう!1人で拗ねてなさい!」
「ソフィア~!」
 じゃあねと手を振り行ってしまったソフィアを、しかし追う気にならず淳は廊下の真ん中にポツネンと突っ立っていた。

「さ、寒い・・・。なんじゃ、これは」
 Gメカの格納庫に入ったリュウが身を震るわせた。続く健も同様だ。
 だが決して庫内温度が低いわけではない。キンと張り詰めた冷たい空気が彼らに覆い被さってくるのだ。
「どうしたんじゃ」
 リュウはG5号機のメカニックに尋ねた。まだ若い彼はチョンチョンと指を3人の後ろに向けた。 そこにはG2号機があった。
 フロントに2人、リアに2人、そして車内に1人、計5人のメカニックが整備中で、そのすぐ横ではジョーが立ったまま彼らの仕事も見ている─いつもの光景だ。
 いや、ひとつ違うのは、フロントにいる淳とジョーとの間になにやらピンと張り詰めた糸・・・というか・・・不穏な空気というか・・・が見えることか。
「触らぬ神に祟りなし、じゃな」
 リュウがそそくさと自分のメカに向かう。5機のうち一番大きなG5号機だ。メカニックも15人と多い。
「しくじったのかな、ジョーのやつ」
 せっかく教えてやったのに、と健は思ったが、これ以上自分には何も出来ないと悟り、口には出さなかった。
 G2号機のエンジンはその場でオーバーホールされていた。
 5人の中でおそらくジョーが一番乗りまわす機会が多いらしく、したがって整備に掛かる時間や手間も多くなる。
 淳はカムシャフトの磨耗や汚れを見ていた。と、手元が陰った。
「思ったより綺麗だな。乗り方がいいんだな」
 低いがよく響く声が聞こえた。正体はわかっている。淳は何も言わなかった。
「ちゃんと拭けよ。あ、ついでにバルブも見てくれ」
「・・・・・」
「バルブにGのエンブレムとか入れたらいいなあ」
「・・・・・」
 ウエス拭き布を持つ手がブルブルと震えてきた。エアガン清掃工具で吹き飛ばしてやろうかと思った。
「手伝ってやろうか」
 と、奴がレンチを手にしたとたん爆発した。
「余計な事しないで!あっち行っててよ!」
「いーじゃねえか、いつもやってるのに」
 ジョーがエンジンの前に腰を下ろした。もう1人のメカニッククルーが反射的にその場から飛び退いた。
「手出ししないで!」
 淳の手がジョーを押し退けようとして─手にしていたウエスが彼の顔を掠った。
「うわっぷっ!」
 油だらけのそれがジョーの顔に黒い線を引いた。ちょうど顔面を2分するように斜めに・・・。
「あ」
 さすがにマズイと思い、淳は新品のウエスでジョーの顔をゴシゴシと拭った。
「おれはカムかよ、くそっ」
 顔をしかめ、だが再びエンジンの前に座り込み、手を黒くしながらあれやこれやとレンチやシムを使い始めた。
 その姿は仕事の邪魔をするつもりも、ましてや淳の機嫌を伺う気もなく、ただ車をいじりたいだけのようだ。
 淳はひとつ息をつき、しかし手にしたウエスに残る彼の香りに思わずニンマリした。


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Comment

●覚書き

なぜか、季節物はその間際まで書く気はないのに急に書き始めてしまうのが不思議だ。
今回もちょっとやっつけ書きなのに反省v-390

バレンタインやホワイトディが世の中に知れ渡った頃・・・つまり淳が若かった頃は今のような「行事」ではなかったっけ。
本気で告白する日で、チョコを受け取った男子が(その中で)本当に付き合いたい子(つまり交際OK)に、その返事としてホワイトディにクッキーやキャンディをあげたのだ。だから当然もらえない子もいた。(こちらの方が多かったよね)
なので、お返しを全員にあげる、というのは未だに違和感がある。
もちろん本気で告白!の子もいるだろうし、コミュニケーショのひとつとして役に立っているのだと思うが・・・。

頭固くなってるからなぁ。
色々受け入れるのは結構大変。
淳 | 2012.03.16(金) 12:22 | URL | コメント編集

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