2012.04/02(Mon)

島風


 フェリーの腹に収められていた列車が吐き出された。続いてトラックや乗用車が次々とその地に降りる。
 ステアリングをグッと掴み、慎重にアクセルを踏む足に力を入れていく。
 ガタンと跳ね、ジョーの運転する車はフェリーから地上に降り立った。そのままゆっくりと港から 離れていく。が、少しも行かないうちにジョーは車を停めた。
 ドアを開け、しかし躊躇するように辺りを見回す。
 観光客の多いシーズンのせいかみんな忙しそうに動いている。誰もジョーの事など見ていなかった。
 思い切ってその地に足を置いた。
 西に大きく傾いた、しかし未だその輝きを四方に伸ばす太陽の光。賑やかな港のざわめきと目の前を行く車の排気ガスの臭い。
 柔らかな海からの風が心の底に沈めておいたこの島の記憶にかすかに触れた。 
 懐かしい。
 島での生活などほとんど覚えていないのに、なぜか懐かしさを感じた。
 だが今はこれ以上思い出したくない。信じられないが足が震えて、いま来た道を引き返したくなる。
 ジョーは再び運転席に滑り込んだ。

 自分の出生の秘密を思い出したからといっても島でのすべてを思い出したわけではない。
 だが自分の生まれ育った小さな町の名前や場所はわかる。
 南部博士の所に来たあのはがきの教会のある町がおそらくそうだろう。車なら30分もかからないと思うが。
 ジョーはすぐにその町に向かうつもりだった。だが街中を走っているうちにその想いが揺らいでいるのを感じた。
 なぜなのかわからない。ただ今は町に行きたくないと思った。
 もちろん観光をするつもりもないのでジョーは早々にホテルを捜した。
 あっちこっちウロウロして万一昔の自分を知っている人間に会ったら・・・。それがもしギャラクターだったら・・・。
 町に行って両親の墓を確かめるまで無用な騒ぎは起こしたくない。
「だったら早いとこ、町に行けばいいんだ」
 口を出たその言葉を、しかしジョーは無視した。

 高級ホテルはギャラクターの幹部が使用するので避けたいが、安ホテルに入るには身なりが 良すぎてかえって目立ってしまう。
 車で寝るのはいいが怪しまれたらまずい。
 平和に見えるこの街のどこかにもギャラクターはいるのだ。

images.jpg 

 彼が選んだのは小さいが小奇麗な宿だった。
 予約もしていなかったが、大通りから入ったその宿は奇跡的にひと部屋だけ空いていた。
 フロントで偽名を書き、受け取ったルームキーで開けた3階の部屋は狭いが思ったより清潔だった。
 窓を開け外を確認する。何かあったらここから飛び出さなければならない。建物が隣接しているのでその点は大丈夫だろう。
 ちょっと息をつき、ジョーはベッドに体を放った。洗濯されたシーツの香りが安心を誘う。
 この島にはもう危険はない。ギャラクターはいない。
 そうだったらどんなにいいか。
 
 ふと自分はここで何をしているのかと思った。
 島での安心感を得るために来たのではない。確かめたい。確かめなければならない。南部にも仲間にも何も言わず出て来たのだ。
 それでも・・・どうしても今は町に行く気にならない。
(なぜだ・・・。おれはそのために来たのに・・・)
 鏡に映る見慣れない自分。
 変装は得意ではないが、これなら自分が裏切り者の息子・・・〝ジョージ・浅倉〝だと気がつく者はいないだろう。
 こんな所で1人悶々としているなんて自分らしくない。ジョーは街中を歩いてみる事にした。

 BC島は車で3時間もあれば一周できる小さな島だ。
 港のあるこの辺りは島でも大きな都市のひとつで、その中心部と郊外の町や村ではその光景は一変する。
 華やかで近代的な都市部に比べ、農場や果樹園の広がる郊外の町や村はのどかでのんびりとして・・・だがその発展は都市部とは明らかに差があった。
 都市部を開発したのがギャラクター。その周りの町村部はこの島の元々の住人が多く住んでいるのだ。
 ジョーは父親がギャラクターの中でどのような位置にいたのかは知らない。都市部に住んでいなかったので下っ端だったのかもしれない。
 だがその下っ端を家族諸共暗殺しなければならない理由があったのだろうか。
 あの時、暗殺者は「ギャラクターを裏切った」と言った。
 何をしたのだろう。ここに来ても今さら真相はわからないが、できれば知りたいと思った。

 その中心部をジョーは歩いていた。
 小さな島だが人は多い。彼1人が紛れ込むには大きな街の方が都合がいい。だがその反面、 あちこちに顔を売りたくはないと思った。
 街にも彼のことを知っている昔馴染みがいるかもしれないのだ。
 大通りに出るとひと際目立つ高級ホテルが見えた。入口には幾人もの黒服の男達が並んでいる。誰かを出迎えているようだ。が、その男達を見てジョーが足を止めた。
(ギャラクター!)
 確証はない。だがわかる。それはこれまで奴らと戦って培ってきた経験からか。それとも・・・。
(やはりこの島は未だに・・・)
 やがてホテルの入口に車が停まり、中年の男が降りてきた。幹部らしい貫禄がある。頭を下げる男達を一瞥もせず、中年男はホテルへと入って行った。男達も後へ続く。
 みんな若い。ジョーといくつも変わらないかもしれない。
(もしかしたら、あの中に)
 ジョーの家がギャラクターの配下の家だったように、町には他にも組織の仲間がいただろう。子どもも大勢いた。
 ジョーの幼馴染が、今はギャラクターの隊員だという事もあり得る。
(おれは知らずに、昔の友人を倒していたのかもしれない)
 手が震え胸の上下が大きくなる。ジョーは足早にその場を離れた。
 感傷的にはなりたくない。そんなものはこの島に上がる前に捨ててきた。・・・つもりだった。

 いつの間にか海の近くに出ていた。
 時折吹く海風がジョーの帽子を飛ばそうとする。クシャッと掴んで帽子を脱いだ。
 枯葉色の髪が巻き上がる。
 なんでこの島に来たのだろうと後悔した。確かに、知らなければいい事もたくさんある。
 が、もう遅い。
  自分のこの目で、この手で実感しなければ自分は先へは進めない。いや、断ち切れない。
 故郷に帰りたいのではなく、故郷を捨てるためにおれは来た。明日こそ生まれ育った町に行かなければ。
 再び帽子を目深に被り、ジョーは踵を返した。




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Comment

●覚書き

以前にアップした「海峡」の続き。
でもその時は続きを書くとは思わなかった。
アップしてから1年以上経っている事にも驚いた。

少なくともあと1話あります。

その他、ゴチャゴチャは「ひとりごと」にて。
淳 | 2012.04.02(月) 16:12 | URL | コメント編集

海峡の方も読み直していてレスが遅くなりました<(_ _)>

ジョーがギャラクターの子だったというのはレッドインパルスが健の父親だったことと同じように種明かし的なお話なのですが、その後のジョーの生き方にかかわる重いテーマですよね。

>少なくともあと1話あります
あーん。この後は、あの悲劇ですよ~~(涙)

(内緒ですが、息子Fの続きでジュゼッペさん@ギャラクターを少し書いています)
響子 | 2012.04.03(火) 21:14 | URL | コメント編集

●響子さん

いつも読んでいただき、ありがとうございますー!

「海峡」の方も読み返してくださったの?
あ、まだ直してないや、今回とちょっと辻褄があわないところ。
マ、マズイ・・・。

レットインパルスは最初っから飛行機乗りだったので、「ああ、こりゃ、健と何か関係があるな」って察しがつくけど、ジョーはねえ・・・。
両親の復讐をしたい、というのはよくある設定だと思ったけど、まさかギの子だったとは。

>あの悲劇ですよ
そこを書く勇気はないので本編にお任せして・・・←そっちが先です

>ジュゼッペさん@ギャラクター
うお!
興味はあるけど、まだ頭の中にもいません。
ぜひ読みたい!

>重いテーマ
そーいうのばかり書いていると、そろそろおバカな話が書きたくなりますわんv-391
淳 | 2012.04.04(水) 15:24 | URL | コメント編集

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