2013.12/24(Tue)

24日のパーティ(ep.G)


「ジョー」
振り向かなくてもわかるその声の主は、ジョーの前に回り込むと息を弾ませ言った。
「24日の夜は開けておいてね。寮の会議室が借りられたからパーティしましょ」
「・・・・・」
 クリスマスパーティとやらか。
 そういえばおれがこの手のパーティに参加しない理由をこいつには話していなかった。ま・・別に自ら話さなくてもいいのだが。
「19時からよ。絶対に来てね。あ、プレゼントはいらないわ」
 それだけ言うとまたバタバタと走って行ってしまった。
 なんだってあいつはいつもドタバタしているんだ?
 寮ってISOのか?
 Gメカのメカニック担当の淳は女子寮に住んでいるが・・・会議室は別棟だったな。だから男のおれも入れるってわけだ。

 もちろんジョーは行くつもりはない。そう言おうとしたのに、何も聞かずに行ってしまったあいつが悪い。
 あいつには友人がたくさんいる。そいつらとやればいいんだ。おれの事は忘れてくれるといいな・・・。

 もうすぐ訓練の時間だ。余計な事を考えていると怪我をする。
 ジョーは頭を切り替えた。

「ジョー、来るって言った?」
「え? あ、聞くの忘れちゃったわ」
「まったく・・・どこか抜けてるんだから、淳」
「でもソフィア、いやだとも言わなかったわよ、彼」
 それを言われる前に走ってきてしまったのだが。
「そういえばジョーはパーティと名のつくものには参加しないのよね。なんでかしら?」
「皆が狙ってて、彼と踊りたがるからじゃない?」
「・・・・・」
 それはない。
 怖い顔好きの淳にはジョーは最上級のいい男なのだが、他の人間から見れば・・・いい男ではあるが・・・やはり怖い。
 そんな顔と・・いや、ジョーと積極的に顔を突き合わせて踊りたいのは淳ぐらいだ。
「まあ、好みは人それぞれだし・・・いいか」
「?」
「とにかく、料理と飲み物の注文は私がするわ。会場の飾り付けもね。女子の有志が何人かいるから淳は何もしなくてもいいのよ」
「・・・うん」
 ありがたいなーと思ったが、ジョーには何かしてあげたいと思った。
(ん・・これって違うよね。何かしてもらうとしたらこっち─)
 えーと・・なにをしてもらいたい?
 そりゃもちろん、あーなってこーなってそーなって  
 1人ニタニタする淳を、しかしいつもの事だとソフィアはさっさとパーティの話を続けた。

『緊急スクランブル!ゴッドフェニックス発進!』
「ラジャ!」
 声と共にリュウの左手が正確にパネルの上を走る。メインモニタには左右に分かれる雲が映る。
「まだ遅いぜ、リュウ。上空1万メートルに達する時間をもっと縮めるんだ」
「わかっとるわっ」
「はりきってるね、ジョーのアニキ。自分から夜間緊急訓練をしたいと言い出すなんて」
「おかげで今夜はお店は休みだわ」
「おしゃべりをしてるんじゃない。ジョー、レーダーレンジに敵機は」
「とっくに捕捉してるぜ」
 ニヤッとジョーが口元を歪めた。

 結局というかやはりというか、ジョーはパーティには来なかった。いや彼だけではない。招待したあとの4人もだ。
 夜間訓練があったと聞いたのは翌日の昼前だった。

「訓練じゃ仕方ないわね」
 今回は参加しなかったが、ローテイションによっては淳もソフィアもパーティには出られなかっただろう。
 わかってはいる。そのために自分達メカニックのカバーメンバーがいるのだ。

 と、向こうの角を曲がってジョーが現われた。あっというように小さく口を開き、しかし回れ右するのも逃げるようでいやなのでそのまま進んでくる。
 文句を言う権利は淳にあるとみたのかソフィアはその場を離れた。
「夜間訓練お疲れ様」
「ん・・・」
「急だったのね。スケジュールにはなかったわ」
「おれは・・・クリスマスとやらはわからない」
「え?」
「なんで大騒ぎするのかもわからない。だからクリスマスパーティには出たくない」
「クリスマスって・・・」
「24日はイブだろ。それくらいは聞いた事あるが─」
「やだわ、ジョー。誰がクリスマスのパーティだって言った?」
「・・・え?」
「第一、今はまだ11月よ。クリスマスは来月」
「じゃあ24日って─」
「あたしの誕生日」
「・・・・・」
「ソフィアやアキラ達が誕生日を祝ってくれるって言うから。だからジョーにも来てもらいたくて」
「バースディか。なんだ、そうか」ジョーがフーと息を付いた。「だったら24日の夜に夜間訓練を入れろなんて言うんじゃなかった」
「え?」
「いや、なんでもねえ。そうか、まあ、よかった」
 何がよいのかよくわからないが、
「来月の24日には本当のクリスマスのパーティをするわ。今度は必ず来て」
 一難去ってまた一難だ。
「今度は夜間訓練はなしよ。上空をサンタが飛ぶんですもん」
「??」
「もし来なかったら毎月24日をパーティの日にして強引に引っ張っていくわよ」
「・・・・・」
 なんだってこいつはいつもこう能天気なんだ?
 OKだと勝手に決めてはしゃぐ淳にジョーは不可解の目を向けた。



                                 おわり




14:52  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(9)  |  EDIT  |  Top↑

2013.06/06(Thu)

彼とTシャツとあたしと(ep.G)


「うひゃあ、冷てぇ!」
 青い車を洗車ついでに自分も水を浴びてジョーは声を上げた。
 だが慣れてくると気持ちがいい。
 首の後ろから入った水は、やがて捲り上げたTシャツの裾から日焼けした肌を通って滑り落ちてくる。日の光が反射し、まるでジョーの体が輝いているようだ。
「ほら、おまえにも」
 再びホースの先を愛車に向け勢いよく放つ。ジョーの至福のひと時だ。

 昨日のレースではわずかの差で優勝を逃してしまった。
 その前日まで任務が立て込み、ろくろく整備しないまま参戦したレースだ。無理もないといえばそうだし、自業自得といえない事もない。
 しかしジョーは、参戦できるチャンスがあるなら少々無理をしてもレースに出る。いつ出られなくなるかわからないからだ。
 たとえ小さなレースでもジョーにとっては大事な一戦だ。
 そう考えると優勝を逃したのは惜しかったなぁ・・。

 ひとしきり水を浴びると、ジョーは濡れてしまったTシャツを脱いで木の枝に引っ掛けた。スラックスも脱ごうとし・・・だが手を止めた。
 彼がその住処であるトレーラーハウスを停めているのは、ユートランドの外れの南部博士の私有地だ。 
 郊外とまではいかないが高台にあり背後は山なので、私有地とは知らなくて迷い入んで来る人もいるかもしれない。
 もちろんここで裸になっていても責められるのは侵入者の方だが。
 ベルトは緩めたままとりあえずスラックスを脱ぐのはやめた。と、坂道をこちらに向かってくる車のエンジン音が聞こえた。
 ここへ来る人間は限られている。だがそれは健やジュンのバイクでも、ジンペイのバギーでもなかった。

「ジョー」
 停まった車から降りてきたのはG2号機のメカニックの淳だった。だが、そのまま固まっている。
「どうしたんだ?」
「・・い、いえ・・・別に・・・」
 上半身裸のジョーを目の前に、淳はちょっと目を背けた。
 鍛え上げられた体に流れる水の珠。額や首に貼り付いた濡れた髪・・・。淳の目には眩し過ぎる。だから、
「見て、ジョー。私の車よ」
「へぇ、カーズ社のレディバードじゃないか」
 つい1ヶ月前に発売されたばかりの車だ。
 1300CCと排気量は小さいが、トラクションやレスポンスに優れ、排気量とは反比例する走りの良さと、小型車には珍しいシャープなフロントノーズで女性はもちろん男性にも人気の車種だ。
「ま、おれにはちょっと物足りないが、なっ」
「ブルーコンドルと一緒にされても・・・」淳はレディバードの青い車体に手を掛け、「ねっ、コンソールを見て」
「560!?」頭だけ車内に突っ込みジョーが声を上げた。「こんな小型車が・・・なんで560キロのメーターが付いているんだよ!」
「やだ、忘れたの?ISOのメカニックなのよ、私」
 ジョーの驚く顔に満足して微笑む淳に、う・・・とジョーが唸った。
 市販のレディバードをベースにISOのメカニックが・・・いや、ごり押しする淳の要望とおりに改造したのだろう。
「お前にこんな車を与えるなんて、ISOの奴らは無茶無謀だな」
「あなたにだけは言われたくないと思うわ」
 減らず口を叩くようになったな、こいつ・・・とジョーは思ったが、どっちみち口では勝てない相手だという事も自覚している。

「よし、ちゃんと改造されているかどうかおれがテストしてやる」
「私はメカニックのプロよ」
「おれは運転のプロだ」
 運転席に体を滑り込ませジョーがスターターボタンを押した。
「へぇ、吹き上がりがいいじゃん。1300にしては─」続いて助手席に着く淳に言ったが、「まさかエンジンもいじってンのか?」
 ニッと口元を歪める淳に肩をすくめステアリングを握る。純正のカバーではなく、硬くステアリングそのものの感触に、こいつも車が好きなんだなぁと思った。
「オートマかよ。やりにくいな」
「仕方ないわ。元がそうなんだもん」
 さすがにオートマをマニュアルに改造はしなかったようだ。

 と、そう答える淳の顔が赤くなっていた。
 彼は裸だ。上半身だけだが・・・。
 つられて一緒に乗ってしまったが・・・どうしよう。降りようか。

「よし、いくぜ!」
 淳の戸惑いなどまるで気がつかないジョーは、小型車という事もあってブルーコンドルより静かに発進させた。
 敷地の端まで行きステアリングをきった。
「お、いいローリングじゃん」
 100メートル四方ほどの敷地にはジョーのトレーラーハウスしかないので─それも端っこに置いてある─車を走らせるスペースはたっぷりとある。
「ちょっとオーバー(曲りすぎる)っぽいな。リアタイヤを見た方がいい。それから─」
 まだ何か言っているジョーを、しかし淳は聞いてはいなかった。
 車が曲るたびに淳は運転席へと体が流れる。シートベルトのおかげで(?)ジョーには当たらないが、かなり接近する。
 そのたびにほのかに香るジョーの匂いが・・・香ばしい汗の香りと、そっと彼に寄った時に感じる若い男の気力溢れる熱い体となぜか感じる懐かしさと─。

 と、突然車がスピンした。
「キャッ!」
「なっ、オーバーだとスピンしやすいぜ」
 そんな事はわかっている。あたしを誰だと思っているのよ。シートベルトが邪魔だわ。取っちゃおうかしら。
「バックはどうかな」
 ギアがBに入った。ジョーの腕が上がり淳を抱えるように─実際には助手席のシートをだが─大きくまわされた。
 すぐ横にジョーの体がある。いつも見ている胸の「2」の文字はない。
 代わりに見えるのはオリーブ色に焼けた厚く逞しい─。

 淳は前を見たまま固まっていた。この時間が永遠に続けばいいと思った。が、
「改造したばかりでパーツがまだ馴染んでいないようだが、使い込めばいい走りをすると思うよ」
 あたりまえよ。誰がやったと思ってるの。あら、もう終わり?もう一周してもいいのに。
 だが淳のレディバードはあっさりとトレーラーハウスの前で停まった。
 ドアを開けジョーが降りる。うーんと背伸びをした。
「やっぱ名前からして女の車だな」
 助手席のドアが開き淳が出て来た。が、フラフラと2、3歩進みよろける。
「なんだ、だらしないな。これくらいのドライブで」
 誰のせいよ!車は最高よ。ただ・・・。

 フウッと息をつく淳にジョーが手を差し出した。見上げるとニッと口元を曲げたジョーの顔があった。
 もう一度小さく息をつき淳が手を差し出す。が、
「あ!やばい!」
 目の前の手がサッと引かれた。
 身を翻し、ジョーが走っていく。
 その先にはヒラヒラと空高く舞っているTシャツが見えた。


15:30  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(14)  |  EDIT  |  Top↑

2013.03/14(Thu)

ホワイト・アタック(ep.R)


「コンドル・マシン!」
 ダダダ・・・と連続音を撒き散らしシリンダーがまわる。
「うわあ!」
 目の前の敵にバンバン当たる。と、
「あ、甘い」
「うまいぞ」
「な、なんだと」
「コンドルのジョーさん、もっと撃ってください」
「こっちにもお願いします」
 ダダダ・・・
「ああ、おいしいなあ」
「ジョーさん、こっちこっち」
 ダダダ・・・

「うわっ!」
 ビクッ!と体が跳ね、ジョーは目を覚ました。
「珍しいな、うたた寝なんて」向かいのソファに座る健が驚いたように目を向けた。「おまけに寝ぼけて」
「くそぉ、あいつのせいだ。淳の奴が〝キャンディ、キャンディ〝言いやがるから」
 健が首を傾げた。
「この前のチョコレートのお返しだかナンだか知らねえが、おれの顔を見るたびに、〝赤いのが  いい〝とか〝おいしそうなキャンディが売ってる〝とか」
「ああ、もうすぐホワイトデーか」
「高いものはいらねえ、キャンディでいいとぬかしやがった。おれにとって高いも安いもキャンディも関係ねえ。一緒だ」
「あはは・・・可愛いじゃないか」
「冗談じゃねえ、おかげでおれはメカのマシンガンにキャンディ入れて撃っちまったんだぞ」
「・・・まあ、丸いしなぁ、弾もキャンディも」
「そーいう事じゃねえ!」
 訓練の合間の休憩だ。ゆっくり休みたかったのに、これでは午後からの訓練が思いやられる。
「なんだってこんな行事があるんだ。キャンディなんて自分で買えるだろ」
「お前から貰いたいんだよ。それとも・・・ちょっとした復讐かな」
「は?」
「女心を解さないヤロウに対しての」
「お前に言われたくない!」
 シュッ!と見えないの羽根手裏剣が飛ぶ。
「いいじゃないか、キャンディの1つや2つ。貰えばそれで気が済むさ」
「・・・そうかな」
「いつの時代でも女の子から告白するって勇気がいるんだぜ。そこを汲んでキャンディぐらいやれよ」
「・・・ん」
「貰ったらお返しはしなくちゃな」
「・・・ん」
「ついでにジュンにもあげてくれないかな。なぜか彼女もうるさいんだ」
「代金は折半だからな」

「いらないわよ!ジョーにはあげてないんだから!」
「あ」
 彼ら専用の休憩室だ。後ろのソファにはジュンがいた。
「どうして?キャンディ欲しいって─」
「キャンディが欲しいんじゃないわ。欲しいのは─」
 フッと口を噤み、赤くなるとバタバタと音を立ててジュンは出て行ってしまった。
「欲しいのは・・・マシュマロだったのか?」
 わかってるのかわかってないのかわからない健に危うく説得されそうになった自分を、ジョーは あ~ぶねぇあぶねぇと首を振って気を取り直した。

「いくわよ、ジョー!」
 ダダダ・・・
「ちょっと待て、淳!・・・わあっ、痛てぇ!」
「当たれば痛いに決まってるじゃない。これくらい避けられないの。案外トロいのね」
「なんだと!あ、やめろ!こいつ!」
 ダダダ・・・

「なにやってるんじゃ、ありゃあ」
「試作品のシリンダーを使って動体視力の訓練装置を作ったんだってさ、淳が」
「で、弾の代わりにキャンディ飛ばしてるのか」感心したように健が頷いた。「予知能力があるのか、ジョーは」
「なにをボヤッとしてるの、3人とも。あなた達もいくわよ!」
 ダダダ・・・
「うわっ!」
「やめとくれ~」
「やだぁ、3人とも、トロい~」
「なんで淳だけじゃなくてジュンも撃つ側なんじゃー」
 ダダダ・・・
「狙いは絶対にアニキとジョーだよな」
「おら達はとばっちりかい」
「いーかげんにしやがれ!ダブル・ジュン!」
「ダブルJを相手に簡単にいくと思ってるの?」
 ・・・お話が違う。

「なんだか今日は気合が入っているね、みんな」防弾ガラスの向こう側で南部がうんうんと頷いている。「しかしなんで淳まで参加しているんだ?」
「そ、それは・・・博士に頼まれ開発していた試作品のシリンダーの具合を見たいそうで」
 G2号機のメカニックリーダーであるバレンが言った。淳め、こんな事に使うために自分から使用許可を取ったのか。なんて奴だ。
「あれがそうなのか。うーん・・・」
 珍しく南部が迷ったように眉をよせた。

「ああ、気持ちよかった。まさかシリンダーにあんな使い道があったなんて」
「けっこう当てていたわね、ジュン」
「いいのよ。あれくらいやらないと女の子の気持ちなんてわからないんだから」
「でも」淳が言いよどむ。「あれじゃあ、私たちがあの2人にキャンディをあげたみたいじゃない?」
「・・・う」
 2人は顔を見合わせちょっと考え込んだ。

 その後、この2人は無事キャンディを貰えたのだろうか。
 ISOの研究施設のセキュリティが強化されたのでわからなくなった。
 が、その騒動を聞いた男性職員達が、とりあえず自分にチョコレートをくれた女子職員にキャンディを渡すためこぞって売店に殺到したのでキャンディもマシュマロも売り切れになったことと、あのシリンダーは危険だという南部の提言で、Gメカに武器を装備するのは取りやめになったとかなんとか・・・。


ガトリング弾丸
 
        違っっ!!


                                     
14:50  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(5)  |  EDIT  |  Top↑

2013.02/14(Thu)

チョコレートつくったー(ep.R)

「ジョー、明日はなんの日か知ってる?」
「は?」
 突然の淳の質問にジョーは目をパチクリさせた。
「やっぱりね・・・。まったく学習しないんだから」淳がため息をつく。「ま、いいわ。バレンタインを楽しみにしていてね」
 惚れた弱みもあり、ジョーに対して今まではちょっと控えめにしてきた淳だが、この日ばかりはそうも言っていられない。
 それに古い行事は継承していかなければならない。・・・たぶん、これも。
「え?だけど・・・マズイんじゃないか?それって─」
「マズイって・・・。失礼ね。ちゃんと作るわよ」
「お前が作るのか?無理だろう。第一 ─」
「作れるわよ。一晩かけておいしいのを」
「一晩だって?絶対に無理だ」
「できるわよ。いえ、一晩もいらないかも」
「もし一晩でできたらなんでも言う事を聞いてやってもいいぜ」
「ほんと?頑張るわ!」
 意気揚々と淳が拳を握った。

「淳、お買い物?」
「あら、ジュン」
 手にしたハート型を一度棚に戻して淳が振り向いた。その先には長い髪に翠色の瞳のジュンがいた。G要員でジョーのチームメイトだ。
「ええ、明日のための─そうだ、ジュン。一緒に作らない?バレンタインのチョコ」
「淳は作るの?」
 ええ、と淳が頷く。
「あたしは今年は買うことにしたの。ほら、ジュナサン・ストリートのアシュレーで」
「まあ、ジュンも毎年作っていたのに」
 同じ名前なのでややこしいが、本人達はわかっているので問題はない。
 アシュレーは高級チョコレートの専門店で、この時期は特に多種多様のチョコレートが並ぶ人気の店だ。
「この前、店の買出しを健に手伝ってもらってアシュレーの前を通ったら─」

『へえ、うまそうなチョコだな』
 
 ショーウインドに飾られているチョコレートを見て健が言ったそうだ。
 それはバレンタイン用の品ではなかったが、確かに男性の目をも引く、見るからに美味そうなチョコだった。
「それってジュンからバレンタインのチョコを貰いたいってアピールだったんじゃないの?」
「健に限ってそれはないわ」
 ・・・それもそうね、と淳はあっさりと納得した。
 確かに自分が作るよりアシュレーのチョコの方が綺麗で美味しいだろう。しかしジョーに啖呵(?)を切った手前、買ったものを渡すわけにもいかない。
「仕方がない。1人で頑張るわ」
 淳は今一度ハート型を手に取った。

 その夜の淳の奮闘を書くと何ページあっても足りないので省略するが、なんとか完成させた汗と涙の結晶をいそいそと箱に収めた。
 キラキラ光るピンクのリボンを結び手の平にのせる。
 形に懲りすぎて当初の予定より小さくなったがまあまあの出来だ。
 これも可愛いイラストの描かれた小袋に入れ、職場であるISOの研究施設に出向くと運良く車から降りたばかりのジョーと出会えた。

「おはよう、ジョー。はい、昨日のお約束のもの」
 差し出されたそれを、しかしジョーが眉をしかめた。なんか全体がピンクでピカピカしている。手に取るのが恥ずかしい。
「どうしたの?忘れちゃった?昨日─」
「いや、覚えているが」ボソボソ言って、「小さいな。こんなサイズがよくあったものだ」
「小さくたって中味は逸品よ。私が作ったんだもん」
「買ってきたんだろ?」
「違うわ。作ったのっ」
「だからそれってマズイと思うぜ」
「マズイマズイって失礼よ」
「だってよ、おれ達はまだ未成年だからな。ましてやここで手渡すなんてやっぱマズイよ。こーいうのは裏でそっと─」
「こそこそするなんていやよ。いいからっ」淳は小袋をジョーに押し付けた。「マズイかどうかは食べてから言って!」
「食べる?」ジョーは再び眉をひそめ、だが小袋から小さな箱を取り出した。リボンを引っ張りフタを開ける。「なんだ、これ?」
「なにって、バレンタインのチョコレートよ、手作りの」
「バレンタイン?」一瞬キョトンとした目を淳に向けたが、「あー、義理チョコとか友チョコとか同僚チョコとか─女の子がチョコを配る日かぁ」
 どうして“本命チョコ”がないんだ?
「なんだ、おれはてっきりバランタインかと」
 それはウイスキーだ。
「そんなもの作れるわけないじゃない。第一私達はまだ未成年よ」
 ああ、だから、“それはマズイ”と言っていたのか。
 ん?裏でそっと?

「おかしいと思った。ま、いいや。サンキュ」
 箱からチョコを取り出す。ハート型の上に青い車が乗っていた。もちろんそれもチョコレートで出来ている。
「なんか食いづらいな」
 再び眉をしかめるジョーに、助手席に乗っているのはワタシ型のチョコなのよ、と淳は1人にんまりとした。が、ジョーが箱を小袋に仕舞う。バレた?
「た、食べないの?」
「あとで食べるよ」
「いま食べてよ」
 ワタシ型チョコがちゃんとジョーの口に入るか確認しなくては。
 ジョーの事だ。うっかりしてるとリュウにでもあげてしまうかもしれない。バレンタインの大切さが、淳の心がいまいちわかっていないジョーだ。
「ひと晩で作ったらなんでも言う事を聞くって言ったわよね。だから聞いて」
「・・・なんなんだよ、もう」
 ブツブツ言いながら、しかし確かに自分が言った事だ。仕方なく研究施設の入口でジョーは淳の手作りチョコを口に放り込んだ。
「これでいいだろ」
 そのまま行ってしまう。淳はほっと胸を撫でおろし、そのあとに続いて施設内に入った。が、
(なんでも言う事を聞いてやる、か・・・。ちょっともったいない事したかな)
 いやいや、それはホワイト・デーまで取っておこう。
 3倍、いや、5倍返しにしてもらい・・・いや、その頃には今日の事なんか忘れているかもしれないな、あいつは。
(こーいう事は学習しないしなぁ)
 淳は寝不足の目を擦り頭を振るとメカニック・ルームへと急いだ。


バランタイン2

     違っ!
15:44  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(8)  |  EDIT  |  Top↑

2012.06/10(Sun)

不機嫌なG2号(ep.R)

「どうしたんだ、ジョー。怖い顔して。機嫌が悪そうだな?」
「いや、機嫌が悪いのはG2号機の方だ。走行するとガタブスいいやがる。馬力も出ないし、なんとなく不機嫌なんだ」
「G2号機が?ちゃんと整備してもらったんだろ?」
「ああ、昨日しっかりとな。なのによ・・・」
「わかった、淳がいないからだ」
「淳?いないって?」
「知らないのか。休暇を取ったらしいぞ。メカニックチーフが話していた」
「ふーん。で、それとG2号機の不機嫌と何の関係があるんだよ」
「だから、淳がいないからG2号が不機嫌になって─」
「おれは別に不機嫌じゃねえ」
「あ、いや、メカの方だ。G2号の不機嫌は淳が不在だから─」
「おれは不機嫌じゃねえ!」
「・・・立派に不機嫌だと思うぞ」

 ブオン! ガタガタ・・・

23:21  |   Jのものがたり  |  TB(0)  |  CM(0)  |  EDIT  |  Top↑
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